kei-bookcolorの文庫日和

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『バチカン奇跡調査官』シリーズ1・2 『黒の学院』『サタンの裁き』藤木稟(著)の感想を書きました!①

作品紹介

本作は、二人の若く美しい神父が、バチカン奇跡調査官として、世界のあらゆる奇跡を調査しに出かけていくというお話です。

主人公:平賀・ヨゼフ・庚
『黒の学院』の表紙を飾っているのが平賀です。
白く美しい肌、黒くつややかな髪、ふくよかな赤い唇、小柄で線が細く、女性的な魅力を備える男性、それが平賀のイメージです。

天然で、マイペースで、猪突猛進ぎみで。
か弱い女性のように見えるのに、芯が強くて頑固、いざという時には、誰よりも頼りになる存在、それが平賀です。

平賀の穢れなき純粋さが、いつかすべての陰謀を打ち砕き、世界を禍から救い出せるのではないか?とも思います。

相棒:ロベルト・ニコラス
『サタンの裁』の表紙になっているのがロベルトです。
少々、インテリな感じにも見えますね。

髪が栗色で青い目の爽やかな青年。
女性であれば誰しもが振り返るような甘いマスクをしているのがロベルトです。

ロベルトは神父ではありますが、俗世の人の機微にも明るいので、神父には見えない瞬間もあります。
本人も、神父であり続けることを望みながら、自分が神父であり続けてもいいのかと、自問自答しているようなんです。

誰よりも弱い自分を認めているから、誰よりも強くいられる。
ロベルトの人生は困難の連続でしたが、すべてを乗り越えて、自分が自分らしくあるべき姿を見つけたように思います。

物語は、、
インディージョーンズを彷彿とさせるような冒険や謎解があり、常に陰謀や危険と隣り合わせの試練を乗り越え、事件を解決に導く。

平賀が貪欲に真実を追い求める姿が、時に滑稽にも見えますし、時に頼もしくも見えます。

接待絶命のピンチから、平賀の機転でポンと解決する瞬間なんかは、圧巻と言いますか、とにかく心が魅了されます。

平賀は天才科学者と言っても過言ではない人です。
正直、毎回、何を言っているのか、わからない場合が多いんですが、わからないのに、わからないまま、面白いと思ってしまう作品なんです。

ぜひ、その奇妙な感覚を味わってみてください。

バチカン奇跡調査官1 黒の学院

本巻を初めて手に取ったときの印象を今でも覚えています。
萩尾望都先生の『ポーの一族』を連想しました。
静かに、穏やかに、そして厳かに、ジワジワとした何かが忍び寄ってくる感覚です。

第1巻である本巻は、平賀がホームズ役で、ロベルトがワトソン役といった雰囲気で物語が始まります。

ロベルトは平賀に随行するだけの存在のようにしか見えません。

ですが次巻以降、話が進むにつれ、ロベルトの存在は次第に大きくなり、ロベルトはただの随行者ではなく、平賀だけの推理では解決できない事件の解決の糸口となる存在へと変貌して行きます。

つまり次第に二人は対等の関係へとなって行くのです。

久しぶりに第1巻を読み返しましたが、
このころのロベルトは、ただ平賀の推理を享受するだけの存在のように思えます。

そしてロベルトはまだ普通の思考で物を見、感じて表現するという状態であり、人物や現象を外見でしか捉えていません。

例えば怪しい恰好や目つきをしているというだけで、その人物を悪評価してしまうという感じです。

ですが平賀は違います。
すべての事象について、すべてを疑い、すべてを信じ、物事の真実を捉えて証明しようとします。

たぶん平賀は、
生じた奇跡を科学で説明がつけられるかどうかの調査もしますが、科学でなかった場合はどういう可能性があるのか? 
または、奇跡じゃなかった場合はどういう説明になるのか? 

証明できたこともできなかったことも、すべてを加味して、最終的な結論に行きつくんだと思います。

とにかく、普段の生活では頼りない平賀ですが、奇跡調査となると、目の色も心構えも変貌します。
いざという時は、非常に頼もしく、逆にロベルトはオロオロする存在でしかありません。

二人の上司であるサウロ大司教も、本巻では、平賀の方を頼りにしているようにも見えます。
エクソシストの極意も、最初はロベルトではなく、平賀に享受していたんですね。
(のちのちの話では、ロベルトがエクソシストを目指すことになります)

とにかく、本巻では平賀の華麗な活躍が、頼もしく時に面白く、無敵の感覚さえ与えます。

犯人は何となくわかっても、動機がなんとなく想像できても、どうやって話が終焉していくのか、残り50ページを切ってもまだわからないというスリリングな展開が、本巻の魅力と言えます。

さあいよいよ、科学者の平賀と、古文書と暗号解読のロベルト、二人の活躍が始まります。

信仰が勝つのか、科学が勝つのか、それとも信仰と科学が手を結ぶ日が来るのか。
最終的にどんな決着が待っているのか、今後の展開が楽しみです。

ちなみに個人的にはローレン・ディルーカのファンです。
1巻ではまだ平賀のメール相手でしかありませんが、のちに最重要人物へと変貌して行きます。
そちらの今後も楽しみです。

バチカン奇跡調査官2 サタンの裁き

1作目が平賀の紹介を兼ねた作品であったので、当然2作目はロベルトが中心のお話なんだろうと推察できるわけです。
表紙もロベルトですしね。

ですが予想を遥かに超えたある意味衝撃的なお話でした。
もちろんロベルトを中心に物語は進みます。

本巻の見どころはずばり、平賀とロベルトの友情と絆が試される物語と言っても過言ではないでしょう。

互いに熱い友情で結ばれてはいますが、友情だけでもないんだと思います。
家族のような兄弟のような、時に恋人にも見えるかもしれない二人の互いへの愛情が試されたのだと思います。

1巻を読んだときに感じたんですが、、
これは、ロベルトの一方的な片思いなのでは?と。

ロベルトが平賀を敬愛しているということはヒシヒシと感じますが、平賀はそこまででもないのかもしれない。
そんな風に思っていました。

でも全然違ったんです。

二人は確実に両想いで、同じように同じだけ、互いを深く思いあっているんです。
それを翌々思い知った巻だったとも言えるでしょう。

作品の特徴として、二人はとても危険な目に会い続ける設定なんですが、身の危険より、互いの気持ちや信仰が揺らぐことの方が、ずっと大変なんです。

そういった意味でいうと、本巻のぐらつきが、二人にとっては最大のピンチだったとも言えるでしょう。

間違いなく本巻が、全シリーズにおいての二人の最大の危機だったのだと思います。
よって、最大の危機を乗り越えたわけですから、今後の二人の活躍は、ずっと二人で一緒なのだと信じることができ、安心しながら読めるわけです。
身の危険は回避できませんけどね。

本巻では、平賀が捨てられた子犬のような顔をしますし、力なくなすすべなく落ち込む平賀が、かわいそうなんですが、可愛くもあります。

何もできないのに必死にロベルトを守ろうとする平賀の健気さが、可愛いんです。
そしてロベルトにどんなに突き放されても、決してあきらめない平賀が素敵です。

どんなにしょんぼりさせられても、ロベルトの一声で、一気に元気を取り戻しちゃったりもする平賀です。

本巻での平賀は、周りの声を疑わず信じすぎていましたし、ロベルトに突き放されて一人で行動することになったので、ロベルト以外の者たちに惑わされすぎていました。

人の悪意に気づいても疑うことを知らない平賀です。

それでもロベルトの一言で、すべての霧が晴れて、真実を見抜いていきます。
どんなに困難な状況でもロベルトを最後まで信じ切った平賀の勝ちだったのだと思います。

つまり、平賀をだますことは誰にでもできるのかもしれませんが、ロベルトへの思いを断ち切らせることは誰にもできないということです。

そして最後に記しておかなければならないことがあります。
本巻では二人にとって最大の敵であるジュリア司祭が登場します。
さらに二人の最大の協力者になるFBI捜査官のビル・サスキンスも登場します。
この二人の動向にも注目が必要です!