kei-bookcolorの文庫日和

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『バチカン奇跡調査官』シリーズ7・8 『天使と悪魔のゲーム』『終末の聖母』藤木稟(著)の感想を書きました!④

ロベルトの真実

以前、別の話を紹介したときに、ロベルトについては、
神父でありながらも、俗世の人の機微にも明るく、神父には見えない瞬間もあります。
と表現したことがあります。
空気を読めない平賀に対して、ロベルトは、奇跡調査中に出会った人たちに、気を配り、行動や言動を抑え、時には青年実業家のような紳士的な振る舞いをしたり、時には神父として信者に寄り添ったり。
相手に対して、慈愛を持って接しています

そんなロベルトですが、初めからこうだったわけではないんです。
ロベルトの人生は、とにかく困難の連続でした。
すべてを乗り越えて、自分が自分らしくあるべき姿を見つけるまでには、長い時間が必要でした。

そして自分のいるべき場所と、自分のあるべき姿を見つけた今でも、神父であり続けることを望みながら、自分が神父であり続けてもいいのかと、自問自答し続けているように思います。

自分の弱さを知っているから、誰よりも強くいられる。

本巻では、今のロベルトを作った原点になるエピソードが登場します。
ロベルトはいつも一人でした。
ですが、一人ではなくなる瞬間が来ます。

始めはただの気まぐれとか、ちょっとした同情とか、そういったものだったのかもしれません。
それが、やがてロベルトを救うことになるとは、思わなかったのかもしれません。

ですが、それはロベルトの中に深い友情と愛情を宿すことになります。
誰かを思うことで、人は強くなれるのです。
その人が例え、遠くへ行ってしまっても。
もう会うことが敵わなくとも。
ロベルトはいつだって、その人に会うことが敵うのです。

天使と悪魔のゲーム

平賀とロベルトが表紙です。
いくらか若く見えます。
それもそのはず。
本編より数年前、もしくは数十年前に遡った、いくつかの短編が収録されていました。
背後にいるのは、天使と悪魔なのかもしれません。

日だまりのある所
初めはロベルトのお話です。
両親の事件後のロベルトが、どのように育ったのかが描かれていました。
不遇な子供時代を送ったロベルトですが、転機の時期に現れた人たちによって、未来が開けていきます。

今やどの国のどの人種の人とも、コミュニケーションがとれるロベルトですが、若いころは全く逆で、内向的な性格だったんです。
良き友との出会いもありましたが、ロベルト自身の努力もすさまじいものだったのではないかなと思います。

そして本話は、もう少し先の巻の短編集で、続きが描かれています。

天使と悪魔のゲーム
次は、ローレンの秘密が明らかになるお話です。
まず平賀とローレンが出会います。
そして、平賀が語る奇妙な体験談は、不思議すぎです。

人は悪魔に勝てるのか、勝てないからこそ人たらしめているのか、難しいテーマだと思いました。

サウロ、闇を祓う手
その次は、サウロ司教のお話です。
若かりし頃のサウロは、若さゆえの愚かさを持ちつつ、純粋な祈りをささげる神父でした。

初々しいです。
淡い恋もありました。
神父と言えど、初めは誰しも愚かさの残る子供です。
恋も経験しなければ、人を愛し慈しむ心を理解することはできません。

そして、子供の頃のサウロは、少しロベルトにも似ているような気がしました。

純粋に人を愛し、愛されたいと思う心がサウロを救い、サウロを育てたのではないでしょうか。

ファンダンゴ
最後は、ジュリアです。
途中までは、一体何の話をしているのか?と、全く予測ができないんですが、金髪の麗しい少年が青年になる話なので、容姿から想像すると、ジュリアっぽいなとは思いながら読んでいました。

ジュリアとは違う人としか思えないし、何の話が語られているのかと、訝しみました。
最後の種明かしまで、本当に全くわかりませんでした。
最後の種明かしで、ある意味、これまでのジュリアのことが腑に落ちました。

終末の聖母

初登場で表紙を飾るとは、その存在感には圧倒されます。
チャンドラ・シン博士です。
ローレンの後任です。
果たして敵なのか味方なのか、、謎多い人物です。

今回の平賀の謎解きは、未だかつてないほどに、全く理解不能でした。

結局のところ、奇跡と言えば奇跡だし。
私には理解不能でしたが、たぶん平賀によって科学的には証明された現象でもあるし、複雑な結末だったのかなと思います。

ですが平賀にとっては、奇跡に一歩近づいた結末だったのではないか?とも思います。

いつにもまして、嬉しそうなキラキラした平賀の活躍が見れました。
そしていつにもまして、こうも思いました。

平賀こそが宇宙人か? 

ロベルト同様、永遠に解けない謎が平賀なのかもしれない!とか思ってしまいました。
誰でも理解できそうで、誰からも理解されない人物でもあります。

読者としては、ロベルトがいてくれて本当に良かったと思わずにはいられません。
それは平賀のためでもあり、私たち読者のためでもある。

ロベルトが要点をついて、教えてくれなければ、結局どういうことなのかが、私には全く理解できないからです。

自分の感情や思考が、平賀の話が進むにつれ、置いてきぼりをくってしまうことを恐れているロベルトですが、読者からすると、しっかりついていっているし、全く問題ないように見えます。

私はすっかり置いてきぼりでしたが。
それでも諦めず食らいついて行こうと思っています。

さて姿を消したローレンですが、影がたまに見え隠れしています。
ローレンの行方を追えるのは、平賀というよりロベルトなんでしょうね。

最後に、本巻を読んで感じたことは、、
人は高いところが好きで、高いところに行こうとするし、高いところに住もうとするし、常に高みを目指しているということです。

空を飛びたいと思わない人もいないでしょうし、宇宙船や宇宙人を信じたいと思う人もたくさんいると思います。

それはつまり、宇宙に行きたいという願望が、人類の遺伝子に組み込まれているからなのだということなんですよね。

偶然何かのタイミングで落ちてきた隕石や、地球が生まれる原因となった隕石は、宇宙のどこかにある何かだったわけです。

そしてそれらが人類を生む原因になったのかもしれないんです。
だから、そのルーツを知りたいし、そのルーツにたどり着きたいという願望が、遺伝子の中に組み込まれているのだとしたら、とても神秘的なことだと思います。