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『バチカン奇跡調査官』シリーズ5・6 『血と薔薇と十字架』『ラプラスの悪魔』藤木稟(著)の感想を書きました!③

作品から感じるイメージ

『バチカン奇跡調査官』の第1巻を初めて読んだとき、ザワザワとした不思議な感覚を味わったのを覚えています。
本作はホラー小説というジャンルに位置していますので、ホラー的な寒気ではないのか?と思われるかもしれません。

ですが、それとはちょっと違います。

うまく言葉で表現することができない感覚です。
それでもあえて言葉に置き換えるのであれば、、

風の音もしない、虫の声も聞こえない、何の匂いもしない。
空はどんよりしている気がするし、気分も浮上できない。
霧の中にいて、うすら寒い。
自然界も人間界も、とにかくすべての現象が消滅してしまったような、忍び寄る静けさ。

厳かな美しさから目をそらせない。
逆に物語の世界にいる誰かから、じっと、こちら側を見られているような気さえする。

上記のように言葉で表現してみても、まだ何かが足りない感覚です。

萩尾望都先生の『ポーの一族』を初めて読んだ時に感じたものと少し似ているような気もします。
『ポーの一族』は吸血鬼の話なので、話が似ているのでは?と思われるかもしれませんが、そういう意味ではないんです。
内容ではなく、あくまで雰囲気の問題なんです。

神がかっている事件が起き、それは教会(境界)という場所にて起こるため、ステンドグラスごしに入る陽の光が幻想的で荘厳さを増しているから、なおさら感じる雰囲気なのかもしれません。

もちろん、誰しもが私と同じ感覚を味わうわけではないのでしょうけど。
久しぶりに、『ポーの一族』を読み直してみたい気分にもなりました。

血と薔薇と十字架

本巻で登場する吸血鬼が表紙です。
実に、美しいです。
恐ろしいと思わないといけないはずなのに、どうしょうもなく心が惹かれる感じです。
血と薔薇でがんじがらめになっている感じが、欲望と、葛藤と、憂いを感じさせるのだと思います。

イギリスのカトリック事情というもののことを、全く知らなかったので、ある意味驚きました。
カトリックと関係のない国でも、バチカンの神父を拒む地域があるとは思いませんでした。

日本ですら、もうちょっとは、バチカンの神父に親切にするのではないでしょうか。

奇跡調査自体は、毎回、それなりに周囲の反発があって大変なものですが、お国柄の事情で、これまで以上にやりづらい調査を行うことになった平賀とロベルト。

しかも、何だか偶然なのか必然なのか、よくわからない中での吸血鬼騒ぎに巻き込まれてしまった二人です。

さらにクローズドサークルのような場所になってしまいましたし、まるで霧の中で夢のような出来事に遭遇したような感覚もありました。

タイムスリップしたかのような古風な町での出来事でした。

何となく誰が吸血鬼なのかは、初めからわかってしまいますし、本物の吸血鬼のはずはないから、人間が起こした事件であるとも想像がつきます。

犯人も消去法で考えれば、何となくわかってしまいます。

しかし、この吸血鬼騒ぎの一連のトリックが、どんなものなのかは、やっぱり最後までわかりませんでした。

そして、トリック以上に読みながら気になっていたことがありました。
それは、この吸血鬼騒ぎが、一体、どんな幕引きを迎えるのかということです。

さすがに吸血鬼の活動を停止させないと、平賀もロベルトもバチカンに帰れないんじゃないかなと思ったんです。
でもちゃんと幕は引きます。
最善の方法での幕引きです。
そして、なぜか、ちょっとしたハッピーエンドだったんです。
シンデレラストーリー的な。

でもですね、最後の最後で、とんでもない代物が待ち受けていたんです。
それは、事件よりも真相よりもトリックよりも、もっとびっくりする結末でした。

今回つくづく思ったんですが、平賀は本当に神からも悪魔からも愛されるほどの美しさと、心の清らかさを持っているのだなということです。
そして、ロベルトの聡明さには脱帽です。
土壇場の冴え具合も神ってました。
平賀を守るナイトのようでした。


ラプラスの悪魔

ビル・サスキンスFBI捜査官が表紙のようです。
背後には陰謀の象徴になっているものが描かれているように思います。

本巻は、ある意味区切りとなる話でもありました。

初めからすべてが仕組まれていたのだとしたら、そら恐ろしいものです。
どこからが偶然なのか、それとも全部必然か、陰謀だったのか、結果は出ていませんので、今後の展開を楽しみにして行きたいと思います。

それにしてもビルが心配ですよね。
ビルは今後どうやって登場していくのでしょうか?

かなりの大重要人物だったことが判明しましたので、物語には欠かせませんし、本人も本当の自分のことがわかっていない事態に発展して終わったので、まずは、自分で自分を顧みるところから始め直さなければなりません。

そして、何を信念とするのかを決めることが大事です。

さらに、この先どう立ち回って、どう生きていくのかも、ある程度の覚悟が必要となりました。
何せ、自分で選んできたはずの人生は、もしかしたら、誰かに選ばされていただけの可能性が出てきたからです。

信じていたものがすべて、覆された瞬間が来たのです。

また、本人の記憶に残っていないため、本人が気づいていないだけで、何かしらの行動をすでに行ってきてしまったのかもしれないんです。

つまり、催眠的な暗示などにかかっている可能性もあるのではないかと考えます。

そうでなければ、重要なことを長い間、完全に忘れてしまうなんてことができるのでしょうか。
この歳になるまで、何にも気づかずに生きてきたなんてことは、無理なのではないでしょうか。
怪しんだときに、誰かにどこかで記憶を消されたということもあった可能性があります。

本当に気づかなかったのだとしたら、鈍感すぎますよね。
ビルの家族には大きな秘密が潜んでいることは確かですが、ビル自身にもビルの知らない何かがあるのかもしれません。

そしてローレンです。
ローレンはなぜ今、動いたのでしょうか。
それはビル以上に重要なことになるような気がします。