kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『バチカン奇跡調査官』シリーズ3・4 『闇の黄金』『千年王国のしらべ』藤木稟(著)の感想を書きました!②

定かではない推測

文芸作家の皆さんは、日本の文豪たちの古典作品を読み、世界的に有名な古典作品を読み、純文学と呼ばれる小説を描かれているのだと思います。

昔は、ライト系小説やライトノベルズや漫画などを読まない文芸作家さんも多かったかもしれません。

ですが、近年はその様子が少し変化しているように思います。

ガチの文芸作家の先生でも、ライト系小説を自ら書いたり、有名なライトノベルズや漫画やアニメ等の内容をもじって挿入してきたり。

これまで硬い砦を築いていた文芸小説界に、風穴をあけて、風通しのよい世界観を作り出しています。

純文学は難しくて読めないという日本人が多い中で、普段小説を読まない人でも知っているようなライト系や漫画などの情報を入れることにより、作家先生も普通の人と同じ感覚なんだという親近感がわき、読者と作家の距離が縮まったように感じられるのです。

近年、さまざまな本の賞がありますが、賞にノミネートされたり、賞をとるような先生の作品を読みながら、ふとした瞬間に思い出す作品があります。

それが『バチカン奇跡調査官』です。

私が読んでいる最中に思い出すということは、その作家先生も私と同様に『バチカン奇跡調査官』を読んでいるのではないか?という推測が成り立ちます。

もちろん憶測でしかありませんが、『バチカン奇跡調査官』は小説を書く人も読む人も皆、気になって気になってしかたない作品なのではないか?と思うんです。

とにかく長くて、とにかく字が小さくて、平賀の科学的な解説にはまったくついていけませんが、それでも何故か理解できるし、なぜか面白いと思ってしまう本作は、小説にかかわる人が避けて通れない道でもあるように思います。

ぜひ一度は通ってみる必要のある作品です。
平賀の言っていることは、わからなくても、私たちにはロベルトがいます。
平賀の長~いセリフのあとに、ロベルトが要約してくれるタイミングが来ますので、ロベルトを頼りに読むことをお勧めします。

闇の黄金

表紙はジュリア司祭です。
ジュリアと本巻にふさわしい黄金がイメージの表紙です。
表紙を見た瞬間に、本巻はジュリア司祭との対決なのだ!と思いました。
ですが、ジュリアはなかなか物語に登場しません。
どういった陰謀に繋がっているのか、最後の最後にハラハラすることになります。

石榴(ザクロ)がキーポイントになっているお話でした。
普段身近かにある食べ物でもないですし、生で見たことが生涯においても、数えるほどでしかない食べ物なので、少し不思議な感覚があります。

でも確かに、身近にないということは特別な食べ物とも言えるのかもしれません。

本巻では食べるために利用するものではなかったんですけどね。
ギリシャ神話に登場するほどの古い歴史を持つ、食べ物だったんです。

今回の調査は、イタリア内の教会でしたし、表紙にジュリアがいても、そんなに危険な匂いを感じさせない展開だったので、ちょっと安心して油断して読んでいたんですが、残り60ページを切るあたりで、突如、予想だにしない方向へと進みます。

ここでこんなに大きく舵を切ってしまって、残りのページ数でどういう風に終わることができるのだろうか?

二人はどこに向かって進むのだろうかと、心臓に悪い展開を迎えます。

ですが決してあきらめず、前へと進む二人に、道が開けていく様を見ることができました。
間違いなく平賀とロベルトは奇跡調査官のエースでしょう。

そして前巻から気になっていた平賀とジュリアの関係にも、ある意味決着が着いたのだと思います。

互いにどこかひかれあっていた二人です。

平賀はジュリアが自分と同じ方向を向いて歩いていると、前巻で信じ切っていたのでしょうし、本巻でも初めは信じていたんだと思います。

ですが、それは全くの勘違いであったと悟る瞬間がやってきます。

それはおそらく、互いにとっての最大の敵となった瞬間だったのかもしれません。

そして、平賀の一途な思いが、ロベルトの道をも照らしているのだと核心する瞬間でもありました。
さらに、平賀とロベルトは、二人で一つであるということも再認識できました。
二人揃わないと、謎は永遠に解けないんだと核心しました。


千年王国のしらべ

アントニウス十四世司祭が表紙です。
司祭というより、どこかの王子か王様のようにも見えます。

本巻はいきなり、平賀の心停止から始まります。
そして、アントニウス司祭の奇跡によって、平賀は生き返ります。

衝撃のスタートでしたが、平賀が生き返るところまでは、冒頭で描かれていたので、何かの危機に陥っても、助かることがお墨付きで、読み進めることができました。

よもや、4巻にして早くも聖人誕生となるのか!と思いながら、奇跡調査の全容を読むことになるわけです。

本巻では、もう何年も前から平賀とロベルトの知らぬところで始まっていた奇跡を、調査することになったんですが、なんと根気よく執念深く、用意周到に行われた犯罪なのかと、最終的には舌を巻きます。

昨日今日、調査を始めた平賀とロベルトなんて、到底かなう相手ではなかったんでしょう。

読み終わった今はそう思うんです。

それでも、二人なりに精一杯頑張った結果は、それなりにはありました。
そもそもこの二人でなければ、真実の兆候すらつかめなかったはずです。

どんなに徳のある人物でも、簡単に騙されてしまう中、二人はそれぞれの違和感から、真実にたどり着きます。

真実にはたどり着きましたが、後味の悪い結果に終わった感は否めません。
しばらくは、平賀もロベルトも夜眠れなくなるような終わり方でした。

ところで、今回もFBIのビルが出てきました。
気が付けばもうスタメンメンバーのような感じです。

実際の犯罪が絡んでしまうと、平賀とロベルトだけでは捜査に限界が生じます。
そんな時に登場してくれるので、頼もしい仲間となりつつありますよね。

ローレンはまだ、ほとんど姿を現さないので、少し残念です。

本巻で登場した水圧オルガンですが、初めて聞き知りました。
本巻は、失われた古代の技術に触れる旅だったとも言えるでしょう。

科学が発展した現代の人間の方が、古代に生きていた人たちより遥かに、劣っているようにも思えてしまいます。
何もないからこそ、想像できた、生み出された技術なのだと思います。