kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『バビロン』 野崎まど(著)を読んだ時の例えようのない感覚について。。

とにかく衝撃を受けたことは確かです。。

小説で読んでも、アニメで見ても、とにかく、うまく言葉に言い表せられない衝撃を受けたことは確かです。

普通の恐怖とは趣の違う恐怖も味わいました。
個人の恐怖というわけでもありません。
集団の恐怖とも言い切れません。

人類というモノの存在根底が揺るがされるような気分でした。

たぶん正解のない問題を、解こうと抗う主人公の姿に、共感してしまったんだと思います。
泥沼にはまって、抜け出せずに、どこまでも落ちていく。
決して這い上がれないという絶望感。
負の連鎖は、静かに、ものすごいスピードで、広がって行きます。

バビロン1女 バビロン2死

子どもの頃、オセロで遊ぶのが好きでした。
結構得意だったんです。

保育園の先生や周りにいる子供たちに勝利することも多々ありました。

オセロ対戦する時あなたなら、白と黒、どっちを自分の駒に選びますか?

私は圧倒的に「黒」を選びました。
白と黒が同数の時、たぶん視覚の問題だと思うのですが、「黒」のほうが多く見えるような気がするんです。
そう思うと、白であるより「黒」の方が、勝率も上がるような気になります。
実際の勝率は白も黒も一緒なのだろうとは思いますが。

保育園・幼稚園に通うような年ごろの子が、勝率なんて論理的に考えるわけではありません。
ただ、好きか嫌いか、もしくはそんな気がするとか、気分的な問題が優先されるだけです。

だから、私はオセロで勝ちたい時、必ず「黒」を自分の駒にしてプレーしたいと思っていました。

バビロンを読んだとき、オセロが好きだった頃の自分を思い出しました。
白かったものがどんどん「黒」にひっくり返されていくような感覚に陥りました。

何か、起死回生の一手があって、劇的に黒から「白」に変更されていく様を期待しながら読んでいる自分もいました。

白は黒と同数ではとても勝てた気になりません。
黒を1つでも多く上回わらなければ、確実な勝利にはなりません。

一方で、「黒」はそれなりに魅力的にも見えます。
白に色をつけるのは簡単ですが、黒に色を付けるのは不可能なのではないか?と思うからです。

黒かったものを完全な「純白」に戻すことは無理なのではないでしょうか?
読むほどに、そんな不安が広がって行きました。


バビロン1と2は、登場人物も時間軸も続いているため、一気に読んだほうがいいでしょう。
もともと1区切りが短く、だいたい10ページ未満で区切りがくるため、読みやすいし、息継ぎ(休憩)も楽です。

1と2は、誰にどんな危険が迫っているのか、また一体、どんな陰謀をはらんだ話なのか、全貌がなかなか見えてこないため、ずっとハラハラしっぱなしで、落ち着く暇がありません。

巨悪に勝つ話なのか、負ける話なのか、全く判断がつきません。
表紙に描かれる女性の正体に近づくにつれ、言いようのない恐怖も増していきます。



バビロン3終

3は、かなり違った視点から始まります。
別の次元の話なのかな?と最初は思ってしまう程でした。

最終的にこの物語は、非情に難しいテーマを抱えていることになります。

現代日本に暮らす私たちは、ある程度の生活水準を持ち、ある程度の平和を維持できています。

そういう平和な時代だから、一概に、多数派が勝ち、少数派が負けるという単純な図式は描けません。
少数派でも、道徳倫理的に「有かも」と判断される内容によっては、無下に切り捨てることができないからです。

また逆に、道徳的倫理的に問題がある事柄であっても、そこに生産性が生まれたり経済効果が期待出来たりする場合は、問題自体に蓋をして見なかったことにするなんて場合もあるかもしれません。

AかBかの論争が起こった場合、私も結局は、「どちらとも言えない」と回答して、誰かの判断に委ねてしまうタイプかもしれません。
でもだからと言って、何も考えていないというわけでもないんです。

結局のところ、複雑な感覚を味わう読書となってしまいました。