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『SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦(著者:中村啓)』シーズン1 全話の解説・あらすじ・登場人物等をまとめました!

本ページは『SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』中村啓(著)シーズン1の解説・あらすじ・登場人物等を紹介しています!

※事件の真相には触れませんが、ネタバレが多少ありますので、ご注意ください!

中村啓先生の作品を読ませていただくのは、本作が初めてだったのですが、その圧倒的なクオリティの高さに衝撃を受けました。

現代科学に、するどくメスを入れ、科学の安全性・危険性・将来性を取り扱っている作品です。
そのテーマ柄、シリアスな場面も多いのですが、どこかコミカルにも描かれていて、物事にはすべて両局面が存在するということを暗示しているかのような感覚も受けます。

謎を解くのは、なにも探偵ばかりの専売特許ではありません。
科学者だって、世界の大いなる秘密や神秘の謎をときます。

本作は、科学者が科学の見地から謎を見つめ、やがて、人の心理へと切り込んでいく、サイエンスミステリーであり、ヒューマンミステリーでもあります。

科学には善も悪もありません。
正しく科学を使うという意味について、考えさせられる作品でもあります。



現代は、人が空想しうることはすべからく、科学の分野で、世界の誰かが実現しようと研究し、実際にいくつかの奇跡が科学的に、現実のものとなって実用化されている時代です。

本作は、これまでに映画やアニメなどで描かれてきたファンタジーを題材に、科学的に証明され実現された部分と、仮説が成り立っている事象と、近い将来現実に実現される可能性が高まって来ているテーマを大胆に組み合わせ、少々の跳躍を加え、バラエティー色も豊かに脚色されたファンタジー小説だと思います。

例えば、マトリックス(映画)、ターミネーター(映画)、バイオハザード(映画)、アバター(映画)などが、話のネタとして登場しますし、ドラえもん(アニメ)、PSYCHO-PASS(アニメ)、攻殻機動隊(アニメ)、ブラックジャック(アニメ)などの話題もでてきます。

難しいテーマを扱いながらも、読者に苦手意識を持たせないように、身近にある題材を取り入れているのは間違いありません。

一方で、専門知識については、しっかりとした解説があります。

また、科学とは真逆のスピリチュアルな解釈もふんだんに物語を彩っていますし、哲学的な考え方も出てきます。

そしてたまにですが、科学とは全く関係のない雑学が語られることもあり、様々な方向から本作を楽しむことができるようになっています。

やがて、完全なる科学社会が到来することは必須です。
人は、科学をどのように捉え、どのように扱うのか、誰もがそれぞれ、考えなければならない時代が近づいてきています。

本作は、『パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜』という名称で、2022年にドラマ化されました。
主演は、ディーンフジオカさんで、主人公:小比類巻祐一 役でした。

ディーンフジオカさんは、カッコよすぎです!
原作の祐一は、もうちょっと情けない感じの男性なんです。
実母を「ママ」と呼んでますし、人前で号泣することもあります。

マザコンのお坊ちゃまで、めそめそした感じなのに、なぜか美人に好かれます。
亡くなった奥さんが大好きなんだなとは思うんですが、最上博士のことも好きそうです。

これから起こる不可思議な謎の解明も興味深いですが、祐一と最上博士の微妙な関係も気になるところです。

社会的な影響を考慮して表に出せない事案を取り扱い、秘密裏に解決するために結成されたチームが、「SCIS(サイエンティフィック・クライム・インベスティゲーション・スクワッド=科学犯罪捜査班)」です。

具体的には、最先端科学技術の絡んだ事件が発生すると、緊急招集される特別捜査班ということになります。

捜査班のメンバーは6名ですが、2チーム(3名ずつ)に分かれて行動します。
個性豊かな2つのトリオが独自の捜査を行うんですが、その会話の掛け合いが面白いです。

祐一&最上博士&長谷部チーム
祐一は、インテリ風でまじめなお坊ちゃまタイプです。
正義感が強く、理想が高く、冗談が通じないタイプです。
正義が必ず勝つと思っていそうな感じです。

最上博士は、不思議ちゃんの美少女です。
科学に従って生きているし、科学のために生きていると言っても過言ではなさそうです。
科学の申し子であり伝道者です。
よって言動や行動は、およそ一般人の常識とはかけ離れているし、奇抜なものです。
マスコット的な存在でしょう。

長谷部は大柄で強面ですが、その実、ひょうきんでムードメーカー的な存在でもあり、話し方や思考や発想が、一番、読者に近いキャラクターです。

相容れないタイプの3人ですが、相容れないまま仲良く一緒にいるところが、本作にエンターテインメントさを加える要因になっています。

玉置&森生&玲音チーム
玉置は、見た目も中身もチャラくて、ふざけている感じのタイプです。
わざとやっているようにも見えます。
よく祐一をムッとさせてますが、それに気づいてないのか、気づいていても気にしていないのか、判断がつきません。

森生はこちらのチームのマスコットです。
一見、居ても居なくても、物語に影響がないキャラですが、居るとホッとする感じがします。
SCIS全体のバランスを取るために存在しているようにも感じます。

玲音は一見、まともでまじめそうに見えますが、ある意味においては一番、危ないタイプですし、思考もズレているように感じます。
冷静そうに見えて、その実、短気だったりもします。

全く違うタイプに見える3人ですが、実は、似たものトリオなのかもしれません。
会話する時のノリやつっこみが、絶妙なバランスを取っていて、読者に笑いを与えることもしばしばです。

それぞれの正義があるように見えて、実は、同じ正義感を持ち、同じ方向に向かって進んでいる6人です。
その微妙な会話の駆け引きを味わってみましょう!

小比類巻祐一
警察庁刑事局刑事企画課の警視正。34歳。帝都大学理工学部出身。SCISの指揮官。5年前にがんで亡くなった妻を、ずっと想い続けている。

最上友紀子
警視庁SCISのアドバイザー。元帝都大学教授で世界的にも有名な天才科学者。祐一の大学の同窓生で34歳。甘党で、爬虫類好き。見た目が、おしゃれな中学生にしか見えない童顔の美少女。

長谷部勉
警視庁捜査一課第五強行犯殺人犯捜査第七係係長で警部。47歳。バツイチ。独身。大の映画好き。アニメにも詳しい。鬼瓦のような顔。

玉置孝
警視庁捜査一課第五強行犯殺人犯捜査第七係の捜査員で巡査部長。結婚7年目。8歳の長男、7歳の長女がいる。愛妻家。できちゃった結婚。35歳。長身。全体的にだらしない感じ。軽薄かつ非常識な感じのイケメン。

山中森生
警視庁捜査一課第五強行犯殺人犯捜査第七係の捜査員で巡査。ぽっちゃりとした子熊のような体形。大きな黒縁めがね。26歳。見た目40歳、体力40歳、中身は中学生らしい。

奥田玲音
警視庁捜査一課第五強行犯殺人犯捜査第七係の捜査員で巡査。29歳のクールビューティ。目鼻立ちがはっきりした冷たい感じの美人。そして死体愛好者。

江本優奈
警視庁捜査一課第五強行犯殺人犯捜査第七係の捜査員で巡査。28歳で剣道三段、ネットにも通じた文武両道の才女。中肉中世の丸顔で、あどけなさの残る顔立ち。快活な性格。髪がポニーテール。本シリーズⅤ巻で登場。

島崎博也
警察庁刑事局刑事企画課課長で警視長。42歳、祐一の上司。
たぶんストライプ柄のスリーピースのスーツしか持ってない。
たぶん部類の珈琲好き。

柴山美佳
東京都監察医務院の監察医。175センチで金髪。
ピアスをいくつもつけていて、胸元にカラフルなサソリのタトゥがある。

小比類巻星来
祐一の娘で5歳の女の子。

小比類巻亜美(旧姓:四宮亜美)
祐一の妻。
5年前、妊娠九か月の時、帝王切開で星来を出産。
出産から一週間後、乳がんで息を引き取った。

小比類巻聡子
祐一の実母。星来の面倒を見ている。59歳。
私立の女子高で理科の臨時講師。
祐一のマンションの下の階で一人暮らし。

三枝益生
厚労省医政局経済課の課長。
祐一の高校時代からの親友で大学の同級生。
社交的、物おじしない、軽薄な性格。

榊原茂吉
古都大学教授でライデン製薬顧問。65歳。190センチ。
日本生物進化学会や日本大脳生理学学会などの会長。
最上博士を学会から追放したと言っても過言ではない人物。

榊原吉郎
国際科学大学の准教授で榊原茂吉の息子。

カール・カーン
30代くらい。ボディハッカー・ジャパン協会(トランスヒューマニズムの促進をはかる団体)の代表。
剃髪して山羊ひげをはやしている。
顔の彫りが深くハーフのよう。
義手義足。
悟りの境地にいる僧侶のような人物でカリスマ的なオーラがある。

序章(最上博士の事件)
5年前、最上博士がまだ帝都大学理工学部教授だった頃のエピソードです。
帝都大学理工学部准教授の速水真緒が不可解な死を遂げます。
この事件の後、最上博士は大学からも科学界からも姿を消すことになりました。

妊娠する男
不妊治療を行っているマタニティクリニックで、医院長の男性医師が殺害される事件が発生しました。
驚くべきことにその男性医師には子宮があり、妊娠していたのです。

どのようにして男性が妊娠できたのか、なぜ医院長は殺されたのか?

科学に疎い警視庁と警察庁は、世界的に有名な科学者で、5年前、科学界から姿を消した最上博士を呼び寄せ、事件の真相を解き明かします。

人を殺すAI
AIを搭載した人型ロボットが登場します。
ロボット開発チームの一人が殺害されるという事件が発生しました。

状況から見て(部屋は密室のような状態のため)、ロボット以外の人が男性を殺害することは不可能です。

ロボットは嘘をつくのか、つかないのか?
ロボットに自我があるのか、ないのか?
最上博士とロボットの対決が見ものです!

焼け焦げる脳
祐一と長谷部が打ち合わせをしている喫茶店で、店内にいたある男性客が、突然叫び声をあげながら絶命する事件が発生しました。

男性は息を引き取る直前に、「頭が燃える」と祐一に言い残します。
遺体を調べると、この男性の脳にはマイクロチップが埋め込まれていました。
なぜ男性の脳にマイクロチップがあったのか、そしてなぜマイクロチップが燃えたのか?

トランスヒューマニズムやシンギュラリティ(技術的特異点)についての話題も飛び出します。
そしてカール・カーン(ボディハッカー・ジャパン協会代表)という都市伝説的に謎の多い人物が登場します。

終章
祐一の亡き妻:亜美にそっくりの女性が登場します。

序章
祐一は亜美にそっくりの女性を探し始めました。

よみがえる死者
死亡宣告を受けた遺体がよみがえり、自分の足で歩き、姿を消すという事件が発生しました。
いわゆるゾンビもののエピソードです。
なぜ、遺体がよみがえったのか?
ゾンビになった人に意思が宿るのか? 

事件にはウイルスが関係していました。
ウイルスは、生物の細胞に感染し、そのウイルスが持っている遺伝子の一部を、宿主の遺伝子に、組み込むことができる無生物です。
ウイルスについての勉強になるエピソードでした。

仮想された死
「わたしはもう死んでいる」
と主張する精神障害の患者が同時に13人も見つかるという事件が起こりました。

患者たちの共通点を調べてみると、全員、とある危険なゲームに参加していたことが判明します。

VRが、どこまで脳を錯覚させることができるのかがテーマのエピソードです。
VRには、人類をユートピアに導く可能性も、デストピアに導く可能性もあるということが語られてしました。

本事件には直接は関係がないのですが、祐一の娘:星来が、亡き母:亜美にそっくりの女性に遭遇します。

凝固する血
ここ半年の間に、帝都大学付属病院で、がん治療中の患者が7名も亡くなるという事案が発生しました。
全員、急性肺血栓塞栓症で死亡したことになっています。

ですが、急性肺血栓塞栓症とは似て非なるもので、見たこともない病変だったため、解剖した医師が警察に通報し、事件が発覚しました。

本話は、ナノテクノロジーを題材にしたエピソードです。
ナノテクノロジーは最上博士の専門でもありました。
ナノボットでがん治療中の患者ばかりが亡くなる。
これは一体、どんな事件なのか?

実は5年前に、最上博士の研究室で起こった事件の真相にも近づきます。

終章
祐一がボディハッカー・ジャパン協会を訪れ、カール・カーンに会います。
翌日、祐一は亜美とそっくりの女性と再び遭遇することになります。

序章
祐一が亜美とそっくりの女性と話をします。

編集される生命
変死体が見つかったという連絡を受け、祐一と長谷部が現場に急行すると、皮と骨だけのミイラのような干からびた遺体が待っていました。
この遺体は、驚くことに死後3日しかたっておらず、夏の暑さのなかにあっても、ほとんど臭わず、安らかな顔をしていました。
遺体の身元は、東京科学大学の教授で、ゲノム編集の第一人者だといいます。

本話では、「生命倫理」について考えさせられる問答がありました。
ゲノム編集とはDNA情報を書き換える技術だからです。
とうとう人は、科学を使って神の領域に足を踏み入れようとしているのかもしれません。

同じ夢を見るクローン
関東圏内で10歳の男の子が9人、行方不明となる事件が発生しました。
おどろくことにこの9人の男の子は、全く同じ顔と体つきをしていたのです。

そして、祐一の亡き妻:亜美にそっくりの女性も、4人いることがすでに判明しています。

誰かが神の領域に足を突っ込み、クローン技術を使用したと認めなければなりません。
SCISは、9人の男の子の行方を追いながら、亜美にそっくりの女性たちの行方も追います。

本話は、シリーズ全体の謎に関わる重要なエピソードです。
ここから先は、シリーズが始まった当初から抱えている事件の核心へと迫って行きます。

ところで、本話では、とうとう厚生労働省の三枝が登場しました。
三枝は大きな秘密を抱えていました。

移植される記憶
三枝と話をした祐一は、「完全自己完結型」の人工臓器が存在し、人の体に移植される技術が実用化されていることを知ります。

実際に、人工臓器を移植された男性に話を聞くなどの調査を始めますが、その最中に、有名な資産家が殺害され、臓器が抜き取られるという事件が発生しました。

記憶転移(臓器移植を受けた人が、ドナーと同じ記憶や性格や体質に変化すること)という現象があります。

人の記憶は脳にあるというのが一般的な解釈ですが、臓器にも記憶は宿るのでしょうか。
もしくは、人の記憶がその人の中にあるという考え方自体が、間違っているのでしょうか?

本話のエピソードは、「集合的無意識(カール・ユング:地球上にいる人間はみな、集合的無意識のレベルで繋がっている)」の存在を強く意識させられるものでした。

ところで、人が体の悪い個所を、どんどん人工物に交換していった場合、それは人と言えるのでしょうか?
どこまでが人間で、どこからがそうではなくなるのか?
最後は、人間としてのアイデンティティだけが頼りになるのかもしれません。

終章
祐一が、カール・カーンに事件の顛末を報告に行きます。
二人の水面下での戦いが静かに幕を開けました。

序章
クローンが入っているカプセル型の容器がいくつも並んでいる場所の情景が描かれています。

操縦されるヒト
大学生の男女3人が、断崖絶壁の自殺の名所で、3人揃って投身自殺をするという事件が発生しました。
この3人は人気のあるユーチューバーで、自殺するような要因は一切ありませんでした。
自殺じゃないとしたら、事故なのか、他殺なのか?
SCISチームは、マインドコントロールを被害者たちが受けていたのではないか?という仮説から捜査を進め、寄生虫に辿り着きます。

寄生虫が人を操れるのかどうかが争点となるエピソードです。

増殖するヒト
東京生命大学の教授が二週間前から行方不明という事案が発生しました。
実は、SCISメンバーである玲音が、この教授の治験ボランティアに参加していました。
教授は、玲音の皮膚の細胞からオルガノイド(試験管内で三次元的につくられる臓器)を生成し、研究をしていました。
そして、その玲音のオルガノイドも、何者かに盗まれてしまったのです。

玲音のミニ臓器をつなぎ合わせることができれば、フランケンシュタインさながらの怪物を作り出すことができのかもしれません。

原初に生まれた生命(ルカ)
いよいよ、榊原茂吉が登場しました。
榊原茂吉がノーベル賞候補に挙がっている研究成果の人工生命体(必要最低限のゲノムで人為的に作られた極小の生命体)が、研究室から盗まれたという連絡をSCIS にしてきました。
敵対するSCIS に助けを求めるというはおかしいと考える祐一。
これは何かの罠なのか?
罠であったとしても、祐一と最上博士は、直接対決の道を選びます。

終章
榊原茂吉とカール・カーンの秘密に迫ります。

序章
祐一が、眠る亜美の姿を眺めながら、真実を明らかにすると改めて決意した夜のことが描かれていました。

処女懐胎する少女
青森の11歳の少女が、処女でありながら妊娠するというニュースが世間を騒がせることになりました。
日本よりも海外の反応のほうが顕著で、特にキリスト教徒の多い国では大変な衝撃をもって報じられることになりました。
国際問題にも発展しかねない事態で、最悪、日本でテロが起こる可能性もあります。

処女懐胎が科学的に可能なのか、それとも、何かからくりがあるのか?
科学的にありえない事象があったとしても、それが現実に目の前で起こっているのであれば、まず科学者は、その事実を科学的に証明するところから始めなければなりません。

DNA解析の結果、胎児と母親のゲノムが同一のものと判明し、処女懐胎の科学的な裏付けがとれてしまったところから、SCISの捜査が始まります。

永遠の命を得る方法
世界中を震撼させている処女懐胎の事態に手を打つため、警察が記者会見を開くことになりました。
会見内容は全くの虚偽で、処女懐胎などというものは事実無根であるという姿勢を貫く警察。
正義感の強い祐一は憤りと怒りに震えます。
自分が果たして正しい側にいて、正しく動いているのか?
これからも動いていけるのか?
一人苦しむ祐一の隣に最上博士が寄り添います。

一方では、処女懐胎した11歳の少女が拉致されるという事件が起こりました。
少女を拉致したのは誰なのか?
宗教団体なのか、CIAなのか、まさか警察上層部なのか?
踏みとどまって捜査を続ける祐一の苦悩が続きます。

終章
事件が解決すると毎回、祐一と最上博士がサンジェルマン・ホテルのラウンジで乾杯しながら、事件について振り返り、科学について考察します。
その会話に今回は長谷部も加わって、3人が事件の結末を語り合っている最中に、島崎課長からの電話がかかってきました。

解説 山前譲(日本の推理小説研究家)
科学の現状をリアルに描きながら、同時に、人間としての情愛をも描いている。
SCISチームと中村啓先生の魅力について解説されていると思います。

中村啓先生は、もしかしたら、コーヒーがお好きなのかもしれません。

『SCIS 科学犯罪捜査班Ⅱ』の序章で、水出しコーヒーをホットで頼む最上博士の姿を見かけました。
祐一の上司である島崎課長は、出てくるたびに、コーヒーを飲んでいる感じもします。

関係ないかもしれませんが、祐一のあだ名は「コヒ」ですしね。

『SCIS 科学犯罪捜査班Ⅲ』の116ページで、島崎と祐一が一緒に飲んでいるコーヒーがあります。
「コピ・ルクア」です。

コーヒーの実を食べたジャコウネコの糞から採れた、未消化のコーヒー豆を焙煎したものなのだそうです。
残念ながらまだ、飲んだことはありません。

『SCIS 科学犯罪捜査班Ⅴ』の24ページに、またもや島崎が紹介する「ブラックアイボリー」というコーヒーがあります。

こちらは、ゾウの糞から採取されるコーヒー豆なんです。
本作を読んで初めて存在を知りました。
コピ・ルクアよりも高額とのことです。

世の中には、動物の糞からコーヒーを作ろうなどと閃く、変わった思考の方がいるのだなと不思議に思いました。
私には、思いつけない趣向です。

だいたいのパターンはですね、 、
物語はまず、祐一が島崎に呼び出されて、コーヒーを飲みながら、SCISを招集するような事件が発生したことを知らされます。

そして事件が解決すると、、
祐一は島崎に事件の結末を報告します。

それについての島崎の見解を聞くと、たまにですが、、ちょっとだけがっかりした気分になります。

締めくくりとして、、
最上博士と祐一が、赤坂にあるサンジェルマン・ホテルのラウンジで、一杯やりながら、事件や科学についての談義を行います。

一般人代表の島崎の意見と、科学者代表の最上の意見。
毎回、祐一はどちらの意見も聞きますし、自分の意見も主張します。
どちらの話も最もだと思う反面、ちょっとした疑問も残ります。
そうやって物語は幕と閉じます。

SCISシリーズは、上記で紹介したⅤ作目で、シーズン1が終了します。

世界的に有名な天才科学者・最上友紀子博士は、科学界の新星であり、異端児でもありました。
それゆえに、日本科学界の重鎮たちから疎まれ、殺人事件に巻き込まれ、博士が長年積み重ねてきた研究データは何者かによって盗まれ、科学界から姿を消すことになってしまったのです。

殺人事件が解決しないままに、5年の月日が経ちました。
八丈島で、隠遁生活を送っていた最上博士を迎えに行ったのは、警察庁刑事局刑事企画課の警視正:小比類巻祐一です。

祐一は、アドバイザーの最上博士と、警視庁捜査一課の警部:長谷部勉と、その部下3名を率いて、特別捜査班SCISを指揮することになりました。

最先端科学技術の絡んだ事件が発生すると、緊急招集される特別捜査班SCISは、様々な事件を解決していきますが、シリーズ全体を通して、追い続ける事件があります。

5年前に最上博士が巻き込まれた殺人事件。
そして、祐一の妻:亜美とそっくりの女性が複数存在する(クローン)事件です。

その過程で、ボディハッカー・ジャパン協会(トランスヒューマニズムの促進をはかる団体)の代表:カール・カーンとのセッションがあり、最終的には、日本科学界の大御所:榊原茂吉博士との対決が待ち受けていました。

榊原茂吉は、ノーベル賞候補にもなる偉大な科学者ですが、自分の地位や名誉を守ることを最優先にしたため、最上博士を科学界から追放しようと企んた黒幕であるという推測は、5年前の事件発生直後からわかってはいましたが、証拠が何もありませんでした。

ですが5年という月日が経ち、最上博士が提唱した科学の功績を、盗み出し研究し続けた誰かによって、新たな事件が発生することになります。

最上博士は自分が生み出した研究成果と対峙することにもなるのです。

読みながらつくづく思うのですが、榊原茂吉は、自分のエゴを優先すべきだったのではないか?ということです。
素直に、最上友紀子という科学者の提唱する研究を認めてさえいれば、科学はもっと飛躍的に発展しただろうと思いますし、榊原茂吉が目指す究極のエゴの実現にも繋がったはずです。

地位や名誉を優先したため、博士を科学界から排除して、自分たちだけで研究を進めたことが、破滅への道に繋がっていったのだと思います。

途中でわかってくるのですが、カール・カーンは、榊原茂吉のクローンです。
榊原茂吉は、最上博士を毛嫌いしていました。
なのに、カール・カーンは、最上博士に対して、好意的な態度を取っているように見えました。

カール・カーンは榊原自身といっても過言ではないのに、不思議なものです。
カール・カーンと最上博士は、おそらく同年代かと思われます。
世代が違うために榊原茂吉と最上友紀子の間には、摩擦がおこったのでしょうか?
同じ時代に生まれていたら、状況が変わったのでしょうか?

科学はただそこに存在するだけで、善でも悪でもありません。
なのに、使う人間によっては、善にも悪にも変化してしまいます。
もしくは、その人間が生きる時代や、その時置かれている状況によっても、科学が人類にもたらす恩恵が、変化してくるのかもしれません。

科学を正しい方向へと導こうとする最上博士の言葉に、時にハッとさせられることがありました。
また、法治国家を守る立場から捜査をする祐一の言動にも、気づかされることが多々ありました。

何が正解なのかは、のちの歴史が証明します。
今はどうなるのかを100%予測することは不可能です。
ですが、出来得る限りの未来を予測し、今現在の人類の生活を守り、未来の地球を守れるように、1人1人が考え、自分が所属しているコミュニティで相談し、しっかり前を向いて生きていくしかないのではないかと思います。

つまり、本作を読んで様々な想いを巡らしましたが、1週回って、元の位置に戻ってきたような感覚です。
生命は死と再生を繰り返す生き物です。
何か間違ってしまったら、いっぺん元に戻ってやり直すしか、方法がないのかもしれません。