kei-bookcolorの文庫日和

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『バチカン奇跡調査官』シリーズ9・10 『月を呑む氷狼』『原罪無き使徒達』藤木稟(著)の感想を書きました!⑤

マギー・ウオーカー博士の影響

本作は女性らしき女性が登場しない作品です。
もちろん奇跡調査の過程で、一時的に出会う女性はいます。
ですが、主要メンバーの中に、女性がこれまではいなかったんです。

バチカンの神父が主人公ですし、男性社会とも言えますから、当然と言えば当然なのかもしれません。
それに、平賀がちょっと女性っぽく感じられなくもないですし、平賀がいるからいいのかな?とか思っていました。

ここで語るのは、本作についての私個人の勝手な解釈になりますが、、
このまま女性が登場しないなら、どこかBLの要素を感じつつ、読んでいった方がいいのだろうか?
と考えていました。

男女の恋愛が描かれる雰囲気が、作品からは感じられないということもあります。

だったんですが、ここで少し自分の中の解釈が変更されることになりました。
マギー・ウオーカー博士が登場したからです。

マギー博士は、一人で、世界の陰謀と闘っている、強く賢くカッコいい女性です。
登場した瞬間から、ファンになってしまいました。

本編には、なかなか関わって来れないキャストにはなりますが、その存在感は絶大なんです。

なかなか登場できなくても、奇跡調査に関係しなくても構わないので、彼女の同行を知りたいと思ってしまいます。

今回は、FBIのビルが『月を呑む氷狼』で登場しますので、ついでにマギー博士の影が見え隠れします。

マギー博士は、味方とは言えないかもしれませんが、決して、敵ではありません。
目的が一致した時には、とてつもなく大きな味方となることは間違いないでしょう。

今後、マギー博士が本編にどんな風に関わってくるのか、その動向は注目すべき事項だと思います。


月を呑む氷狼

表紙はローレンです。
うつろな目をした小柄な少年です。
とうとうローレンが登場するのか!
ローレンの立ち位置が今後、どう変化するのか?楽しみです。

久しぶりに、FBIのビルが登場します。
ビルがどうなってしまったのか?
心配だったので、とりあえず元気そうで良かったと思ってしまいました。

なにせビルの周りには、何一つ真実がない。
すべて偽りの人生だったわけですから。
それに、弟という人質も取られているようなものですし、自分だけの問題でもなさそうなので、身動きが取れず、仕事もやめることができず、大人しくしているしかなかったように思います。

つまり久しぶりの登場で、久しぶりに捜査官に戻れるお話だったとも言えます。

ビルが出てくると、セットのようにジュリアも登場するような気がします。
今回もジュリアとは無関係ではなさそうなんです。

それに、ジュリアに関わると、ロベルトが毎回試練を乗り越える羽目にもなります。
ロベルトが試練と戦うときというのは、いつも孤独です。
読んでいて切なくなります。
たぶん平賀も同じことを感じているでしょう。

ロベルトの痛みを知ることは、誰にもできないからです。

本巻では、最初、ロベルトだけがビルと行動を共にしていて、平賀は遅れて参加する形でした。
ですが、颯爽と現れた平賀は、突如として奇怪な行動をとり、皆を驚かせ、いつの間にか謎を解いてしまいました。

相わからず動きもコミカルで、奇想天外でした。

本巻で特出すべきことは、ロベルトが平賀に隠し事をしたことでしょうか。
隠したというより、話す時期を見たといったほうがいいのかもしれませんが。

その隠し事は、シン博士との取引です。
シン博士の読みは概ねあたっているのではないでしょうか。

だからロベルトもシン博士を敵とはみなさなかったのではないでしょうか。
シン博士は、誰よりも純粋で正義の人なのかもしれませんよね。

シン博士のローレンとの関わりも、よくわかりました。

シン博士はローレンとは面識がありません。
ですが、ローレンが行ったゲーム(犯罪)に巻き込まれ、辛さを経験したわけですから、恨むのもある意味権利だと思わざるを得ません。

今回の事件はシン博士の過去とも関わっているものでした。
物語は、いつもより少し短めでしたが、大きく1歩前進したような感じがしましたし、いつもより、登場人物たちそれぞれの生きざまが、はっきり見られるお話だったのではないかなと思います。

原罪無き使徒達

平賀が表紙です。
日本が舞台だからかもしれません。
背後には、日本の妖怪らしきものが、少し見えています。

とうとう平賀とロベルトが日本にやってきました。
いつかきっと来ると思っていました。
10巻目にしてやっとです。

日本の歴史上の人物としてはとても有名な天草四郎と隠れキリシタンの謎に迫るお話でした。
隠れキリシタンの財宝にも、ロベルトが迫ります。

いつの世も、日本という島国の人々は、他国の力を借りている。
借りなくては生き続けられない種族なのかもしれません。

だから常に受け身の体制をとり、事なかれ主義と言いますか、現状に甘んじて生きていこうとする種族なのでしょう。

ですが決して不幸というわけでもなく、他国の力を逆に利用して、吸収して、激動の時代にあっても、そんな中での密やかな幸せを掴もうとする。
そういう底力の強い人種なのかもしれないと思いました。

本巻では改めて、ロベルトの正義感というものがどういう信念のもとにあるのかが、思い知らされるような感じでした。
とても純粋な一途な想いがロベルトの中にあるのだと思いました。

ですがロベルトのいいところは、その正義感を全面に打ち出して、周りに強要しないところです。
周りには強要しなくても、自分は、たとえ自分の身が危うくなったとしても貫ぬこうとしてしまう強さと頑固さを持っているんです。

平賀よりもロベルトのほうが案外、無鉄砲なのかもしれません。

一方の平賀は、相変わらずビュアで物事もピュアで新鮮なまなざしで捉えようとしています。
正義感の強さは、ロベルトのそれとはちょっと違うように思いますが、平賀は平賀で、ロベルトよりもさらに大きなところからの正義感を貫いているようにも見えます。

平賀のいいところは、科学者として科学的な検知からも、正義を捉えることができることでしょうか。

心情で補えない正義感は、科学的な検知からの正義を取る。
そんな風にも見えます。

何にしても、ロベルトと平賀は、全くかぶらない形で、謎に迫っていくんです。
本当に良いコンビだと思いました。