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『SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』中村啓(著)シリーズを読んで、科学と人類の未来について考えさせられました!①

作品紹介

サイエンスミステリーといえば、東野圭吾先生の『ガリレオ』シリーズがありますが、そう簡単にどんな小説家でも描けるジャンルではないと思うのです。

科学的にあり得そうで、あり得ない、すれすれの部分を扱うことになりますし、科学だけでなく、哲学的な要素も必要です。
最終的には人としてのモラルも問われることになると思うのです。

とすると、小説家という素質以外の才能も必要になるのかもしれません。
専門知識も要していなければなりませんし、秀才でなければ描けないのではないでしょうか。

本作は、『パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜』という名称で、2022年にドラマ化されました。
主演は、ディーンフジオカさんで、主人公:小比類巻祐一 役でした。

ディーンフジオカさんは、カッコよすぎです!
原作の祐一はですね、もうちょっと情けない感じの男性なんです。
実母を「ママ」と呼んでますし、人前で号泣することもあります。

マザコンのお坊ちゃまで、めそめそした感じなのに、なぜか美人に好かれます。
亡くなった奥さんが大好きなんだなとは思うんですが、最上博士のことも好きそうです。

これから起こる不可思議な謎の解明も興味深いですが、祐一と最上博士の微妙な関係も気になるところです。

そして、科学とともに生き続ける道を選んだ人類の一人として、科学との付き合い方を、本作を通じて考えてみたいと思いました。

登場人物紹介 SCISチームメンバー

小比類巻祐一:警察庁刑事局の警視正。
最上友紀子:警視庁のアドバイザー、元帝都大学教授、祐一の大学の同窓生。
長谷部勉:警視庁捜査一課の警部。
玉置孝:巡査部長。
山中森生:巡査。
奥田玲音:巡査。

SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦

妊娠する男
おそらく、世界のどこかには、これを実現すべく研究をしている機関もあるのではないでしょうか。
男性が妊娠できるようになると、人類の未来は大きく変わってしまうような気がします。
男女の差が完全になくなる時代、もしくは、性別自体が意味をなさない時代が来てしまうのでしょうか?
いよいよ科学が、神の領域に足を踏み入れることになるのかもしれません。

131から132ページで、祐一が科学の根幹と、科学の現状と未来について熱く語っています。
人間が持つ「知的好奇心」は、可能性があるかぎり、いえ、可能性がたとえゼロだったとしても、チャレンジし続けることをやめられないということなのでしょう。

自分が諦めたとしても、いつか、どこかで、誰かが実現してくれるはず。

人は、今を生きる社会の制約を維持しながら、ギリギリのところで踏みとどまりつつ、危険な領域に片足を突っ込み、未来の誰かの役に立つために、少しづつ冒険をし続けている生き物なのかもしれません。

科学は、人間を幸福へと導くし、同時に、予期せぬ大きな副作用をも与える。
誰かにとっての幸せは、誰かにとっては不幸でしかない。

それでも進化したいという奥底にある願望には逆らえない生き物なのでしょう。
もしくは、楽に長生きしたいというのが本音でしょうか。

ところで皆さんは、飛行機が飛ぶ原理が科学的に証明されていないという話を耳にしたことはありますか?

本作を読む以前に、『バチカン奇跡調査官』シリーズで、主人公の平賀が話していたことがありましたので、何となくは知っていました。
本作でも58ページで、最上博士が語っています。

人を殺すAI
ロボットに心が宿るのかどうかがテーマのお話です。

日本では古くからそういったテーマの夢のような作品があります。
鉄腕アトムや、ドラえもんも猫型のロボットです。

ロボットが心を持ち、人間と共存して生きていく。
そんな素敵な世界が遠い未来には実現するのでしょう。
最近のAI技術革新を見ていると、遠い未来ではなく、すぐそこにある未来のような気がしてきます。

さて、物語では事件が起きますので、夢の話とは程遠い展開となります。

まずは、ロボットは嘘をつくのか、つかないのか?
ロボットに自我があるのか、ないのか?
つまり、ロボットの証言と主張を信じると、矛盾が生じます。
逆に、嘘をついているという前提で考えてみても、また同様に矛盾が生じます。
祐一と長谷部は、パラドックスに陥ります。

自我(自分が自分である、自分は何者で、どういう人間であるのかがわかっている状態、自分が自分で認識している意識があるということを言うのでしょうか?)がなければ、ロボットが嘘をつかないという証明になるのでしょうか?
まるで悪魔の証明です。

自我については、175ページで、最上博士が語ってくれています。

人類はもしかしたら、アダムとイブに自我が芽生えた瞬間から、無数に存在する禁断の扉を開け始めていて、閉じようとしても、また別の誰かが開けてしまうので、開け続けて、進化しつづけるしかない未来を選んでしまったのかもしれませんね。

最上博士とAIの対決が、とにかく面白いんです。
あまり詳しく書けないのが残念ですが、、
天才博士と天才ロポットが、誰も口を挟めないテンポで、論理に論理をぶつけていく。

2者の言葉の応酬が、かなりの見ものです。
博士は、ロボットが「私には自我があります」と答えても、「私には自我がありません」と答えても、どちらの答えも信じないということを主張しているように見えました。

223ページから、最上博士の信じる正義と、最上博士を形成している概念のようなものが熱く語られています!

科学は、どんなに発展したとしても、科学自体が何かをするわけではありません。
科学は、ただそこに、存在しているだけ。
証明されたものだけが、科学として存在している。
善でも悪でもありません。
使うべき人のモラルが、世界を支えているのかもしれません。

焼け焦げる脳
頭にマイクロチップを埋め込んだ人が亡くなります。
脳の中にあるチップが焼ける感覚なんて感じられるモノなんでしょうか?
ちょっと疑問です。

まずはトランスヒューマニズムです。
最上博士の解説が265ページにあります。
最新の科学を使用して、人間を次のバージョンに進化させようとする思想なのだそうです。
具体的には、体にインプラントを埋め込んだり、ボディ増強剤を使用するなどです。
自分で自分の体を改造したいということなのでしょう。
さすがにちょっと、、私には無理そうです。

次は、シンギュラリティ(技術的特異点)です。
人間の脳と同レベルのAIが誕生する時点を表す言葉なのだそうです。
つまりAIが、全人類の総知能を上回る臨界点を差す言葉なのだそうです。

278ページに最上博士のより詳しい解説があります。
かつては2045年ごろ臨界点に達すると言われていたようですが、進化が加速したため、速まる見込みのようです。
AIが全人類を上回る瞬間が近い将来、確実に来るということになりますし、確実に私が生きている間に臨界点に達するということでもあります。

人間が、自分で何かを考える必要のない未来がくる。
すべての答えは用意されているし、AIが導く選択に従って生きていける時代になってしまうのかもしれませんね。

そう、人類はもう後戻りのできないところまで来てしまったのです。
そしてすべての事象は奇跡であり、必然でもあるのです。

ところで、これまでの人生、何の疑問も持たずに生きてきたんですが。。

ICカード(クレジットカードや交通系IC等)と呼ばれるカードを、誰しも1枚以上は携帯している時代かと思います。

ICとは集積回路のことで、つまり集積回路を内蔵しているカードということになるんですが、、

そもそもカード自体に電池やバッテリーがあるわけではないのに、いつでも半永久的に読み取り機に反応し続けていますよね。

当たり前の現象すぎて、なぜなのかを考えたことがなかったかもしれません。

244ページに答えが書いてありました。
読み取り機側が電波を発信して、カードのコイルに電気を発生させてICを起動させる仕組みなのだそうです。

知らなくても知っていても、別にどっちでもいい情報かもしれませんけど、、
知ってみると、なぜか、なんとなく人生に得をした気分になりました。