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『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』内藤了(著)シリーズ『AID(3巻)』『LEAK(4巻)』の感想②

思っていたより暗い雰囲気がない作品

『猟奇犯罪捜査班』という題名と、角川ホラー文庫から出版されているということと、フジテレビで放送されたドラマを見た方は、当然、本作は暗くて陰気な雰囲気で物語が進むのかな、と思うでしょう。

ですが、実際には少し違います。
確かにそういった側面もありますが、ホラーという感じでもないんです。

事件が陰惨なだけで、主要キャラたちは、いたって普通の感覚で生きていますし、わりと皆、やさしくて思いやりのある人たちが揃っています。

個性豊かな方もいますが、殺伐とした警察環境のイメージは、感じられません。
そして、たまに笑えることもあります。

本編では、大ぴらに描かれているわけではないのですが、いくつかの恋愛も語られています。(恋愛はスピンオフの巻の方が、断然、おもしろいです!)

事件の陰惨さに目を向けるより、キャラクターたちの動きに注目して読んだ方が楽しいように思います。

救いようのない事件ばかりでもありません。
本編を全巻制覇するとわかるのですが、最終的には、救われるお話だと思います。

AID 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子

表紙には蝶が描かれています。
蝶は、美しいと思う反面、不気味にも感じます。
でも蝶がもたらすものは、基本的には吉兆と捉えるのが一般的でしょう。

人は蝶を見るとつい追いかけたくなりますから。

普通の虫は、よけたり逃げたりしてしまいがちです。
でも蝶だけは、人が追い求める夢を運んでいるような気がします。
少しだけ、他とは違う特殊な何かを持っている、そんな存在のように感じてしまうものです。

本編ですが、、
保のいる世界は、決して誰とも触れ合うことのない世界というわけでもなかったのです。

多少は人間っぽいこともできますし、救いがないわけでもないようです。
良かったです。

今回は、ガンさんと死神女史の過去も語られていましたし、ガンさんがたぶん今でも女史を愛していることが、ジンワリ感じられるエピソードだったのかなと思います。

保の気持ちも明らかになりました。

そして三木鑑識官です。
とても素敵な恋愛をされている、とても素敵な方でした。
彼女もパワフルです。

どのカップルも、すごくお似合いです。

たくましい女性陣を、後ろから見守る男性陣とでも言ったところでしょうか。
いつも見ていてくれる人がいるって、いいものですよね。
うらやましくなってきました。

人は1人では生きていけない生き物です。
愛する人、守りたい人がいるからこそ強くなれる。
それが如実に物語られているエピソードでもあったような気がします。

誰かのために生きるからこそ幸せなんだと思います。

自分の命は自分だけのものではない。
本人であっても、粗末に扱ってはいけないのだと思います。

みんなそれぞれ、自分にしかない魅力を持っているものです。
なかなか、自分の魅力には、自分自身では気づけませんが、気づいてくれる人だって、きっとどこかにはいるのだと思います。

そういう人を見つけることができたならもう、一緒の人生を歩むしかないのでしょう。

さて今回の事件は、切ない事件でした。
そして切ない結果となりました。

これまでの比奈子のすべてが否定されるような感覚にもなりました。
でも比奈子の優しさが事件を解決したのかもしれません。

猟奇犯罪だったのかな? 
ちょっと違うような感じもしました。

始めた時は、こんな終わりを迎えるなんて、予想もできなかったことでしょう。
純粋な動機で始めたことが、次第に自分の範疇を超えてしまったのかもしれません。

超えてしまうともう止めることもできず、突き抜けていくしかなくなるものです。

一体自分は何をしたかったのだろうか?
どこで間違えたのだろうか? 
それとも初めから間違っていたのか、むしろ始める前から間違っていたのか。

私が犯人ならば、そう思うような結末だったように思います。
もしかすると、人が人を救うなんてことは、できないものなのかもしれません。

LEAK 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子

今回のテーマは間違いなく「コイン」でした。
敷き詰められたコイン。
表紙のように大量にあると何だか不気味です。
でもちょっと切なさを感じる表紙です。
丸くなっている女性からも恐怖はあまり感じませんし。
少し暖かい感じもします。
どうしてでしょうね。

今回の事件も読んでいる読者には、犯人が何となく誰なのかわかってしまいます。

出来れは予想どおりの犯人ではない結果に終われないだろうか?
と願いながら読んでいました。

前巻以上に、辛いお話でした。

そして何となく登場人物たちが、前の巻から次の巻へと、繋がっていくストーリーなんだなとも思いました。

犯人も事件に関わった人たちも、出続けています。

それよりも、今回ものすごく気になったのは、倉島刑事です。

ちょっと素敵で、年齢的にもいい感じで、大人な男性です。
優しくてスマートで紳士的でもありますしね。
「忍」一筋なところでさえ、何だか魅力的なんです。
なんかちょっとこう、恋バナとか、あったらいいなと思います。

今回、保はあまり出てきませんでした。
比奈子とメールでやりとりしただけです。
姿が見えないと不安になります。

前巻がちょっとラブっぽい雰囲気だったので、本巻では少し物足りなく感じてしまいました。

でもその分、倉島刑事というイケメンが出番多めだったので、仕方なかったのだと思うことにします。

東海林刑事は案外、いいやつです。
単純バカな感じなんですけど、憎めないというか、可愛い奴めと思ってしまいました。

前巻から鑑識に加わった真紀ちゃんも、従順で可愛い感じです。
順調に育って欲しいと願います。

それにしても比奈子の行動力と、人を引き寄せる引力は半端ないですよね。
ほんとにちょっとしたことが、少しづつあるだけなんです。
まるでパズルのピースのようでした。

それが最終的にどうはめ込まれていくのか、今回は、それを楽しみながら読んでいくストーリーだったのだと思います。

それぞれ独立した点が線になって、ぴたりと辻褄が会ったとき、比奈子は事件を解決しますが、その解決が意味するものは今回の事件だけに留まる感じではないような気がしました。

過去に起こった事件にもつながっていくような気がしたんです。
少なくとも比奈子の心の中では。
何だがグンと成長した比奈子を目にしたような感じがしました。