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『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』内藤了(著)シリーズ『ON(1巻)』『CUT(2巻)』の感想①

作品紹介

本作は、2016年に波瑠さんが主演で、フジテレビでドラマ化されました。
ドラマでは、波瑠さん演じる藤堂比奈子が、まるで猟奇犯罪を自ら犯しそうな雰囲気を醸し出す主人公を演じられていたように思います。

クールで、影があって、どこか人を寄せ付けない。
そんな印象を感じました。

ドラマ自体も全体的に暗い感じでしたが、なかなかに興味をそそられる見ごたえのあるドラマだったように記憶しています。

ちなみに、個人的には波瑠さんが大好きです。

ですが、原作の藤堂比奈子は、少し印象が違うように思います。
小動物のような可愛さがあり、健気ですし、どちらかと言うと尽くすタイプの女性のように思います。

猟奇犯罪捜査班のマスコット的な存在でもあります。

ですが、何故か事件を呼び寄せる、特に異常犯罪ばかりを引き寄せるキャラクターでもあるのです。

周りが男性ばかりの社会にあって、紅一点、女性としての視点から事件を見て、解決に向かって走り出す比奈子を応援したくなります。

ドラマの比奈子とはまた違った魅力をもつ原作の比奈子は、愛されキャラですし、愛嬌もありますので、物語全体を、ドラマとは違った角度で楽しめることは間違いありません。

そして、少しだけ恋愛もあります。

スピンオフも含めると15冊くらい出版されていますので、長丁場にはなりますが、本編を読み終えた時の達成感は、ひとしおです。

爽快な気分を味わえます。
私的にはかなり、納得のいく結末になっていました。
ぜひ比奈子ワールドを楽しんでみてください。

ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子

本巻を初めて手に取った時の印象を今でも少しだけ覚えています。
真実は目で見るものではないのかもしれません。
たぶん直観で最初に浮かんできたことが真実なのでしょう。
目で見ているだけでは、たどり着けない場所もあるような気がしました。
目で見れば見るほどに、真実から遠ざかっていくようなそんな予感がありました。

ドラマを見た時も感じましたが、本巻は、かなり難しい事件だったように思います。

時代とともに人々の生活は大きく変化し、犯罪の種類も多種多様化してしまったように感じました。
だからこそ、難しいテーマに取り組む小説家の先生方も増えたのでしょう。

いつかは目を背けるのをやめて、誰もが考えなければならないテーマが秘められているお話だったように思います。

今のところは、まだまだ現実には起こりえないのかな? 
フィクションの息を出ないのかな? 
いやいや、いつかはこういうことも可能な時代も来るのかもしれない、と複雑な気分にもなるお話でした。

確かに、誰もが平和に暮らしたい。
犯罪に巻き込まれることもなく、平凡な人生を送りたい。
そのためには、何がどこまで許されるものなのか。
考えても考えても、出口があるようでいて、出ていくことの出来ない問題のようにも感じます。

人によっては幸せの形も、心の幸福感も、きっと違いますよね。
皆が皆、幸せになれるわけではない。

自分が今、本当に幸せか?と問われれば、そうなのかどうか、少し悩みます。

人は常に幸せになりたいと思い続けるものです。
だからきっと、本当の意味で幸せな人は、この世にいないのかもしれません。
幸せになりたいと思っている時点で、まだその人は、完全な幸せを味わってはいないのだと思うからです。

もしかしたら、幸せとは何のことであるのかも、本当の意味ではわからないのかもしれません。

形のない曖昧なものを相手にすることほど、難しい問題はないとも思えるのです。

始めは誰しも、ただ幸せな人生を送りたかっただけだったのかもしれないのに、人は、ほんの小さなきっかけで、行く道が分かれてしまうものなのかもしれませんよね。

そう思うと、とても切なくなるお話でもありました。
どうにもならないジレンマと戦っている。
戦い続けている。

被害者は時に加害者にもなり、加害者は被害者だった可能性もある。
そんな気さえしてきました。

でも最後は、これで良かったんだとも思える方向に向かいます。
決着は着かないのかもしれませんが、これがある意味正解だったのだろうと、納得する結末ではありました。

CUT 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子

本巻では、途中で犯人がわかってしまいました。
もちろん物語的には、最後まで犯人はわかりません。
でも、私には犯人がわかりました。

読んでみるとわかりますが、たぶん誰でもわかります。

謎解きはそれほど難しくはないということです。
全部の条件に当てはまる人物は限られているからです。

そして無事、比奈子と保が再会できました。
保の行方を比奈子も私たち読者も皆、心配してました。

消して触れ合うことのない世界に保は行ってしまいましたが、消えたわけではありません。
生き続けることが贖罪であり、苦しみもがくことが生きる意味でもあるわけです。

保は、救われない道を行くしかないのでしょうか。

猟奇殺人犯は、当然、猟奇的な思考の持ち主で、その思考に基づき行動を起こすわけです。
警察に捕まりたくないという気持ちは、もちろんどっかにはあるのでしょう。
しかし、警察に捕まらないように犯罪を犯そう、という気持ちがない場合も多いかと思われます。

警察を避けようとする反射行動みたいなものはあるかもしれませんが、警察に捕まるか捕まらないかは問題ではないのかもしれません。

ただひたすら、自分の思考に忠実に、自分の飽くなき欲求を追求する。
欲求が満たされない限り、終わることができないし、我慢することもできないのでしょう。

永遠に満たされない欲求を、満たされるまで、追い続ける。
無限ループのように続く、果てしない欲求。

当然、自分自身でやめることはできません。
だから誰かが強制終了をしてあげるしか、止める方法はないわけです。

まず比奈子たちは、大きな勘違いをしていたと思います。
普通の犯罪者の普通の思考で、物事を考えようとしていました。

だから普通の犯罪者の行動を予測して、犯人を追っていたんです。
でも、読み終わった今、物語を振り返ってみると、、犯人はとても素直な人間で、自分の考えを素直に話していたようにも思います。

行動も素直でシンプルなものでした。

警察に怯えるでもなく、単に、自分の生活を送り、趣味の時間に自分の欲求を満たしていただけのようにも思われます。

警察が来ても怯えるでもなく、普通に接していました。

たぶん罪悪感というものがないので、警察にも物怖じすることもなく、普通の態度で接していたわけです。

演技をしているというわけでもなかったのだと思います。
追い詰められた犯人がどう行動するのかを考えても無駄だったんです。
追い詰められてないのだとしたら、何をするのか?を考えるべきだったのでしょう。

なにせ今回の事件は、前回以上に、誰にも理解できない、不可解な犯罪だったのです。

それにしても恐ろしくて、気持ちの悪い事件でした。
人より美しく生まれることは、普通の人より多くのものを手にすることができるし、一般的には幸せに生きられるはずなのに、、、美しさが不幸を招くという、いたたまれない事件でした。