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『嘘つきなレディ 五月祭の求婚』白川紺子(著)デビュー作品をご紹介します!

白川紺子先生のデビュー作品

『嘘つきなレディ 五月祭の求婚』は、白川先生のデビュー作になります。
2013/1/10にコバルト文庫から発売されました。
そして、2023/5/19にリメイク版が発売されています。

これは、私の勝手な解釈なので、偏見が入っていると思って聞いてください。

むか~しの、
まだライトノベルズという呼び方が確立されていなかった時代の、
今で言うところのライトノベルズに当たる作品、
つまりライトノベルズというジャンルを作ってきた作品たちは、

読んでいても、どこかわざとらしく、初々しさがあって、読みながら恥ずかしくなるような作品が多かったように思います。

もちろん、そこがライトノベルズの魅力でもあります。
一般文芸のような洗練された感じではなく、もっと自由に、漫画のような側面を持つのがライトノベルズの良さでもあります。
読みながらつい、にやけてしまうのが醍醐味です。

よって、作家先生は、描きながら上達していく、より洗練されて一般文芸のような魅力的な文体に成長していく

そんな風に感じていました。
つまり読者である私たちも、作家先生を育てる一因になっているような気分を味わっていました
かなり傲慢な考え方でした。

ですが、コバルト文庫や講談社X文庫ティーンズハートは、作家先生のあとがきなどがありましたので、最初は、本当に読者からすると身近な存在に感じられました。

ファンレターなんかも募集していましたし、ちゃんと読んでいらっしゃるという感覚もあったので、とにかく、手を伸ばせば届く世界にいるんだと、思えるような距離感で作家先生に接していたように思います。

作家先生も読者に歩み寄ろうとしていたように思います。
あとがきを読むと、読者と作家先生が同じレベルで、きゃぴきゃぴ、登場人物談議ができるような気分になりました。

だからこそ、何でも有りで、一般文芸のような硬さのないライトノベルズは、高揚感を味わいたいとき、現実を忘れて没頭したいときなどに、すぐに作用する薬のような存在でもありました

では白川先生の初期作品はどうかと言いますと、

新人感や文章のたどたどしさは、全く感じられません。
登場人物たちの動きにも、わざとらしさは感じられません。

すんなり受け入れられるストーリー展開です。
だからリメイクされて今読んでも、色あせることのない魅力を感じます。

昨今の、昔の名作をリメイクするという動きは、読者からするととてもありがたい企画です。
有名どころでは小野不由美先生の『ゴーストハント(悪霊シリーズ)』などがあります。

昔読もうと思っていた作品がたくさんありました。
ですが読む機会を逃してしまって、忘れてしまっていた作品に、現代でもう一度出会えるというのは、読者にとっては幸せなチャンスです。

『後宮の烏』や『下鴨アンティーク』や『契約結婚はじめました』で、白川先生を知ったという方も多いと思います。

新人のころから魅力的な作品を作り続けている白川先生の原点もぜひ、読んでみることをお勧めします!



あらすじ

舞台は19世紀、ヴィクトリア朝時代のロンドン。
社交界で噂の的になっている伯爵令嬢:メアリ(16歳)が主人公です。

メアリは、赤ちゃんのころに乳母に誘拐され、行方知れずになっていましたが、12歳のときに発見され、伯爵家に戻ってきます。

それから4年、伯爵令嬢としての教育や作法を受けてきました。

教養を身に着けても、レディに相応しいドレスを着ても、どうしても伯爵令嬢という自分に馴染むことのできないメアリは、ある重大な嘘と秘密を抱えていました。
誰にも相談することができず、苦しい日々を送っていました。

そんなある日、目の前にジョシュアという美貌の青年伯爵が現れます。
ジョシュアは、メアリの秘密を知っていて、メアリにある頼みごとをしてきます。

ジョシュアもまた、大きな秘密を抱えていました。
互いの苦しみに気づいたとき、いつしか、二人の心に変化が訪れます。
嘘を真実に変えるラブストーリーです。

感想

背表紙などのあとがきを読んでしまったので、下町育ちの少女が、運命の王子様に出会い、幸せになるというお話なのかなと想像しながら読みました。

どこか、おとぎ話や童話や世界名作劇場を連想させる作品です。

そういったことが根底設定にはあったのでしょうけど、一癖も二癖もひねってあったので、予想できない展開を楽しむことができる作品でした。

定番なんですけど、始めは最悪の印象でしかなかった二人でしたが、出会ってから恋に落ちるまでが、かなり短い時間でした。

にも関わらず、恋に変わっていく二人の気持ちの変化がとても自然で、違和感も無理な設定をしているような感じもありませんでした。

読者としては、すんなり二人の気持ちを受け入れていました。

読む前から、根底設定を読者に持たせることも大事なのかもしれません。

二人の出会いが最悪でも、読者は根底に、嫌っていても惹かれ始めているはず!という期待感を持って読んでしまうわけです。

貴族の家に生まれたとしても、必ずしも幸せであるとは限りません。

奇麗な衣装を身にまとっていても、自由に生きられるわけではない。

そんな二人の苦悩も物語のエッセンスであり、読者への訴えだったのではないでしょうか。

そして、白川先生の作品において女性は、とても強い生き物です。

『後宮の烏』のヒロインも圧倒的な強さで敵を倒していましたが、こちらのレディも負けていません。

彼女の力でピンチに立ち向かいました。

絶対絶命に陥っても、ポンと敵を倒してしまう。
男性に寄りかかるだけではない、ヒロインのその強さに心を奪われました。

登場人物

メアリ
ハートレイ伯爵令嬢。16歳。
赤ちゃんころさらわれて、12年ぶりに戻ってきた令嬢。

ジョシュア
ラヴィントン伯爵。その美貌で社交界中の注目を集めている。

ディヴィッド
ジョシュアの友人。ある変わった趣味を持っている。

ヴァイオラ
サンドリッジ侯爵令嬢。メアリに嫌味を言ったりする。

ハートレイ伯爵夫妻
母親はジュリア、父親はリチャード。
下町で花売りをしていたメアリをひきとり、大事に育てている。