kei-bookcolorの文庫日和

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『下鴨アンティーク』シリーズ3・4・5『祖母の恋文』『神無月のマイ・フェア・レディ』『雪花の約束』白川紺子(著)の感想を書きました!②

兄の物語も重要

しつこいようですが、とにかく白川先生の作品は、兄が幸せになれないのがセオリーです。

ですが本作の兄:良鷹は、良鷹が主人公となるエピソードが、たまに登場します。
てっきり、1回だけの単発なのかと思っていたのですが、どうやら違うようです。

『祖母の恋文』の最終話にも登場しますし、本シリーズを最後まで読むと、最終的には、かなり驚く展開を迎えることになります。
まず予想できない結果の幸せが、良鷹に舞い込むことは確かです。

鹿乃と慧の恋愛にばかりとらわれず、良鷹のエピソードにも注目しておく必要があります。
良鷹の物語は決してただのサイドストーリーではないのです。

そして、鹿乃によって救われるのは、慧だけではなく、良鷹も同様に救われているのだということを念頭に置いておく必要があるかと思います。

祖母の恋文

巻末にサービスの挿絵があります。
慧ちゃんはやっぱり黒髪で、良鷹と鹿乃は白髪のイラストでした。
鹿乃が着物を着ているので、昭和初期にタイムスリップしたようにも感じるイラストです。

最初のお話は、時代に引き裂かれた悲恋物語に関わる着物の謎でした。
鹿乃の友人:梨々子の家族が登場しました。
着物の謎とともに、梨々子とその祖父の関係にも立ち入る鹿乃。
梨々子のかっこよさに痺れるお話です。
今回は慧ちゃん抜きで頑張りましたね。
こうやって慧から巣立っていこうとしているのかと思うと、読者としても寂しいです。

次のお話はなんと、祖母:芙二子さんの恋文が出てくるお話です。
日記が出てきた時もそうでしたけど、自分の日記やラブレターを孫に見られるなんて、こっぱずかしい限りですよね。
でも、とてもドラマチックで、祖父と祖母の情熱的なコイバナは、本巻の一番の楽しみでもあります。
今回は慧ちゃんも頼られました。

次のお話は、慧の恋のライバル:春野が登場します。
慧は家にいるのに、春野が来たことにも気づかず、鹿乃と春野が急接近していることにも気づかず、もう!何やっているの!って、慧に言いたくなります。
いつ、気づくんだか。。
春野が何か、本気になってきたようにも感じました。
慧にも本気になって欲しいものです。
鹿乃の本気は、ちゃんとわかりましたけど、鹿乃が危なっかしくて心配です。

最後はまた、単独の良鷹のお話です。
真帆も出てきます。
良鷹の初恋と、女性の好みはよくわかりました。
毎年夏になると、良鷹は初恋の女性に逢いに別宅へ来ているんですね。
妹もほっといて。
そういった意味で言うと、真帆は好みではないってことなんですけど、でもやっぱり真帆は特別のようにも感じます。
真帆には素を見せていますしね。
こちらもどうなるのかすごく気になりますね。

神無月のマイ・フェア・レディ

今回も悲恋物語からのスタートです。
若く、身分も住む世界も違い、時代の事情もあります。
そして、体が不自由であることもあいまって、恋に恋する男女が、自然に消滅していく関係を、大切に心の奥底にしまって人生を終えていくお話です。
何が変わるわけではなくても、何か少しでも救いがあったらいいのにと、芙二子さんは思っていたのでしょう。
それを鹿乃に託していったんだと思います。

次のお話では、鹿乃の亡くなった両親の馴れ初めが語られていました。
なんと、鹿乃と慧のように歳の差があるカップルだったんですね。
しかも、恋愛結婚だったんでしょうね。
というのも、二人の馴れ初めの「ナ」で話が終わってしまうので、あとは読者が推測するしかないんです。
でも間違いなく、父親:慶介のほうは、若くしっかりものの千鶴にゾッコンでした。
それとちょっと思ったのは、慶介のボンボンなところは良鷹が引継ぎ、慶介のおっとりのんびりしたところは、鹿乃が引き継いだんでしょう。

次のお話では、慧の心の深い傷に触れることになってしまいました。
慧と鹿乃の距離は近づいたようで、遠のいたようにも見えます。
もどかしい気分です。
ボタンを掛け違えないようにしないと!、、心配な二人です。
心配というともう一つ、春野の存在が心配です。
春野が気が付くと鹿乃に歩み寄ってくるんです。
鹿乃が気づかぬ間に、近くに居るのが当たり前のようになってきてしまいました。
そしてやっぱり本気になってきた感じもします。
慧が手塩にかけて育てた鹿乃を横から突然現れて、かっさらう気でしょうか?
冗談ではありません。
慧ちゃんしっかりね!

最後は、なんと曾祖父母のお見合い結婚のお話でした。
祖父母もお見合いでしたし、当時はそうするものだったのでしょうけど。
あの時代にあって、なんとドラマチックな純愛を貫くカップルなんでしょうか。
キュンときました。

雪花の約束

表紙より裏表紙の一言のほうが大事です。
でも物語を楽しみたい方は、裏表紙は、最後に見てください。

裏表紙に書かれているセリフを、とうとう鹿乃が言ってしまいます。
でも、この一言って、最後の最後のエピソードで、良鷹が、昔昔の鹿乃との約束を、鹿乃に言ったことが影響した可能性があります。
だとすると、良鷹、ちょっとかわいそう、な気もします。
良鷹は彼女より妹の方が大事なのにね。
兄は切ない生き物です。
とくに白川先生の作品においては。

ここまでの物語では漠然と、良鷹は、鹿乃と慧を応援するんじゃないのかなと思っていました。
でも、良鷹がどうでるのか、現段階ではちょっとわかり辛くなった感じがします。

慧にとっての一番の難関は、春野ではなく、良鷹になるやもしれませんね。

初めの話は、近くに居るのが当たり前すぎて、互いの気持ちに気づかずにいるカップルのエピソードでした。
鹿乃と慧も、同じようなところがあります。
鹿乃と慧も、この二人にアドバイスしている場合ではありません。
自分たちも同じようなループにハマっていることを自覚してもらわないと困ります。
ですがこういうことって、お約束で、当事者たちはてんで気づかないものなんですよね。

次のお話は、また慧の心の傷に触れるお話でした。
鹿乃は、芙二子さんが鹿乃に託した思いに、だんだん気づき始めています。
芙二子さんが歩んだ軌跡を同じように歩むことで、鹿乃が大人になり、自分の力で踏み出せるようになること、だけではないということに。
自分ができなかったことも、鹿乃ならできると芙二子さんは思ったのでしょうけど、それだけでもないような気がしています。
もしかしたら芙二子さんは鹿乃だけの試練として、蔵の管理を残したのではなく、慧ちゃんへの試練と、慧ちゃんと鹿乃が一緒に居られる道をも作りたかったのかもしれません。
なんだかそんな気がしてきました。

次の話では春野が、半ば強引に鹿乃にモーションをかけてきました。
どうしよう、このままでは鹿乃が断れない!とハラハラしました。
おかげで慧が自分の気持ちを、確実に認識できたんですけど、ちょっと別の方向に勘違いが始まってしまいそうで、心配です。
でも慧が、立ち止まることをやめようとしている、その決心をつけさせるような流れには来ているので、まだどうにかなると信じて、次の巻に進みたいと思います。