kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『下鴨アンティーク』シリーズ6・7・8『暁の恋』『白鳥と紫式部』『アリスの宝箱』白川紺子(著)の感想を書きました!③

あとがきについて

『白鳥と紫式部』巻末に、白川先生のあとがきがあります。
先生は大学生の頃、京都の寺町二条に住んでいたとのことです。
はるか昔のものと、今のものが混在する京都が、本作のテーマだったとのことでした。

本作を読み終わっての印象は、京都弁が生き生きとした作品だったなという感じです。
セリフが、時に色っぽく、時にすがすがしく、鹿乃と良鷹の掛け合いに、心が和みました。

特に、良鷹が感情的になって、慧の背中を押す場面でのセルフが、強烈に響いてくる感じです。

私は関東生まれの関東育ちなので、いざという時の京都弁の迫力に圧倒されてしまいました。
良鷹の言いようのない感情が、そのまま、物語の意思を受けついで、鹿乃の気持ちも読者の願いも、すべて、慧に届けてくれたのだなと思います。

鹿乃と慧の物語は、ここで終わりとなりますが、いつか良鷹の話の続きを読んでみたいと思ってしまいました。

暁の恋

今回も裏表紙に、とっても重要な鹿乃の決意が書かれています。
普通は読まない方がいいとアドバイスするところですが、前回の終わり方で、ハラハラしているかと思いますので、今回は、先に読むのもありかなと思います。

良鷹が怠け者なのは、やはり、お役御免していたせいだったのです。
良鷹いわく、慧に譲ってやっていたということなんです。

良鷹は、確かに慧が来る前は、鹿乃の世話を一新にやっていましたし、たぶん器用だし、頭もいいんだと思うし、つまりなんでもできる器用貧乏なのかもしれません。
タッチでいうところの、和也が慧ちゃんで、達也が良鷹だったんです。

だから、たっちゃんはかっちゃんにまかせて、長年身を引いてましたもんね。
良鷹もそれだったんですね。
良鷹にとって自分の命よりも大事なのは、鹿乃だけなんです、たぶん。

慧ちゃんがいない時は、張り切って昔の良鷹に戻ったがごとく、お兄ちゃんをかいがいしくやってましたもんね。
本巻では。

良鷹は、一番に鹿乃の味方です。
そして二番は自分です。
で三番に慧なんだと思うんです。

四番以降は、今のところなしという気持ちでいるんでしょう。
なんですが、一瞬、順位が入れ替わったように感じました。

一番は鹿乃です。
二番が一瞬だけ慧に変わったように思いました。

そして自分のことを、その瞬間は忘れていたんだと思うんです。
それが、良鷹のあの行動につながったのではないでしょうか。

私は断然、慧ちゃん押しでした。
ですが、本巻においては、完全に、良鷹押しになってしまいました。
良鷹に惚れてしまいそうです。
いや、惚れてしまったのかもしれません。

そのくらい良鷹の行動と言動に衝撃の波が押し寄せました!

鹿乃の相手は慧以外に許すことができない、でも、慧を選んだら自分の立場が辛いことになる。

それをわかっていても、自分を止められない良鷹の苦悩を、ぜひ読んでみてください。
もちろん苦痛から慧が解き放たれることを信じて、読んでみてください。

そうして最後には、鹿乃の幸せがどういう形になるのか、それが一番大事なことなんだと改めて認識しました。

白鳥と紫式部

裏表紙を読むと、ああ、本当にもう鹿乃の最後の冒険なんだなと感慨深くなります。

良鷹が、キューピットなのか、お邪魔虫なのか、本人も何してんのか、ようわからんようになってしもうたのではないんでしょうか。

わざとなのか何なんか、複雑で根深い恨みが籠っているいるようにも見えました。
まあ仕方ありません。
この世でただ一人の肉親と、この世でただ一人の友を、同時に奪われてしまったのですから。

いつも自分から仲間外れを気取っていた良鷹ですが、本当に仲間外れになってしまうと、何だかもの悲しく、いいようのない虚しさがこみ上げてきても仕方のないことです。

そして鹿乃と慧です。
慧ちゃん、そろそろ三十路ですよね?
なんという時代錯誤な恋愛をなさっておいでなんでしょうか。

どう考えてもおままごとにしか見えません。
手を握るだけで、精一杯だなんて。
どういうことなんだ。
いくら鹿乃がおこちゃまでも、これじゃあ、付き合う前とやっていることが、一向に変わらないのではないでしょうか。

本人たちは、全然違うと思っているようですが、結果は同じですよね。
慧は結局、父性が抜けきれないのかもしれません。

本当に結婚するまで、何もしない気ではないでしょうか。
じれったいものです。

それはそうと、芙二子さんの心配は、鹿乃と慧だけではなかったんですよね。
鹿乃と慧が片付かないと、良鷹が踏み出せないことを誰よりもわかっていたんでしょう。

良鷹の傷と時間が解決に向けて、やっと今、動き出したところです。
良鷹は、お嫁さんをもらっても幸せになれる男ではないのかもしれません。

嫁はいなくても、その先の道を作ることはできるもんなんですね。
鹿乃が良鷹を卒業してしまっても、新たに良鷹には任務ができてしまったようです。
またこの任務の先にある物語も、読めたらいいのになと思います。

アリスの宝箱

鹿乃については、その兄としての役割を慧に譲り、昼行燈と決め込んでいた良鷹ですが、あらたに幸という娘ができてしまったわけです。

ぐーたら良鷹は汚名返上となり、しっかり父親を頑張ってる姿に、母性本能がくすぐられます。
なんだかんだと真帆も毎回くっついてきますしね。

良鷹、幸、真帆の冒険が始まってしまったようです。

そんな良鷹ですが、兄であることも忘れてはいません。
鹿乃と慧にちょっかいだすという役割も、しっかり変わらずにやっています。

これまでの良鷹は、鹿乃を育てることで、鹿乃に救われることで、長い時間をかけてゆっくり両親の死を、傷ついた心を癒してきました。

そしてこれからは、幸と一緒にそれらを乗り越えていくことになるのでしょう。
まあ普通に考えたら、こぶつきなんで普通の結婚は無理でしょう。
真帆が気の迷いを一瞬でも起こせば、違ってくるのかもしませんね。

本巻は、番外編だったんですが、最後にもう一度、最後の鹿乃と慧の姿を見たい!と、読者としては思っていたわけです。
ですが、ちょっぴりしか登場しません。
しかも良鷹の妨害が入りましたしね。

もうちょっとイチャイチャした感を楽しみたかったですよね。

さて、本巻では鹿乃のご先祖様(芙二子の祖母の時代)のエピソードが登場しました。

一昔前は、憑き物とか不可思議な現象は、庶民の生活の中ではありふれた出来事だったのかもしれません。
そんな時代のお話です。

つまり陰陽師とか拝みやなどが、必要とされる時代でした。
そしてまたそれはそれで、とてもドラマチックな馴れ初めでした。

携帯電話もメールもできる現代では、いつでも言えると思いがちで、肝心なことを伝え忘れることもあるのかもしれません。
ですが、昔昔においては、移動手段も徒歩ですし、逢いたいと思ってもすぐに逢えるものではなかったのでしょう。

だからこそ、逢えた時にはしっかり自分の気持ちを伝えないといけなかったのかもしれません。
言葉に出さないと伝わらないことは、言葉にする努力を忘れてはいけません。
どんなに便利な世の中になろうとも、それは変わらず、人にとっては必要不可欠なことだからです。