kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『下鴨アンティーク』シリーズ1・2『アリスと紫式部』『回転木馬とレモンパイ』白川紺子(著)の感想を書きました!①

作品の恋愛事情

白川紺子先生の数々の作品の中で、ダントツ大好きな作品が、本作『下鴨アンティーク』シリーズです。
ヒロイン:鹿乃と、同居している兄の親友:慧ちゃんの淡い恋物語が本作の最大の魅力です。

そして、白川先生の作品の特徴と言えば、ヒロインに兄がいることなんですが、、

たいていは、兄が、妹の恋愛に反対するパターンが多いのですが、本作は少し毛並みが違っていて、妹と親友の仲を取り持つキューピットの役割を果たしている兄:良鷹が登場します。

慧の魅力には勝てませんが、良鷹もかなり良い男です。

そして、兄は妹を守るために人生をかけて来たのに、毎回、最後の最後に別の男に取られるという憂き目を見ることになるわけですが、本作の兄は、兄が妹を思う複雑な気持ちを抱えつつ、妹の幸せを守るために、最終的には一肌脱ぐという役割となります。

おそらくそこには、妹への愛情と、親友:慧に対する想いが込められているからです。

良鷹は、不遇な子供時代を過ごし心に深い傷をおった慧が、慧自身の人生と、慧自身の幸せを見つけて欲しいと願ったのではないか?と思うのです。

本作は、蔵に眠っていたアンティークたちを起こし、アンティークの謎を解き、アンティークたちに再び息吹を吹き込むのが作品のコンセプトですが、

同時に、慧の心にも鹿乃が少しずつ息吹を吹き込んで、慧の気持ちを引き出していっているようにも感じます。

これまでは、自分から何かを望んだり、手を出そうとはしなかった慧が、自ら欲して鹿乃の手を掴むことができるのか?

じれったく、こそばゆい鹿乃と慧の恋模様を楽しみましょう。

作品の背景

表紙をみると、ハイカラなイメージを持ちます。
ハイカラと言えば明治時代を連想しますが、物語の舞台はしっかり現代です。

ですが、アンティークをモチーフにしたお話ですので、そのアンティークが作られた、もしくは何かしらの事情を背負った時期は、一昔前ということになります。

つまり、鹿乃や良鷹や慧が生まれる、ずっと以前に、なにかしらの事情をかかえて、いわくつきになったアンティークが登場します。

そして、そのアンティークの謎を解いて、アンティークの望みを叶える、もしくはアンティークを解放してあげることが、鹿乃の役割となります。

慧は鹿乃の保護者兼、助手として、鹿乃を守るように一緒に行動します。

良鷹は、どちらかというと、相談役になります。
どうやら鹿乃のおもりは、慧に譲ったようなので。

表紙を見ていても少し不思議な雰囲気を感じるかもしれませんが、
本作は現実と非現実のはざまを行き来するため、読みながら、フワフワとした浮遊感のような感覚を味わうことができます。

うまく表現できないのですが、
白川先生の他の作品も同様のことが言えるのかもしれませんが、

独特の雰囲気と世界観があるのです。
それは、どこか夢心地な世界です。

アンティークが醸し出す雰囲気と、アンティークが奏でる幻想的な物語が、鹿乃と読者を異世界へ連れて行ってくれる。

正直、本作は、とにかく美しいという表現が、まず思考に浮かびます。
淡く儚く、物悲しく綴られていく、アンティークの物語と、鹿乃と慧の物語。
異世界に囚われそうになりながら、現実に戻って来る瞬間のじんわりとした感覚。
不思議なようでいて、不思議ではない。
ありえないと頭ではわかっているけど、ありえるかもしれないと願う気持ち。
心に傷を負った慧の周りを、遠慮がちにヒラヒラ飛ぶ蝶のような鹿乃の雰囲気。

両親を幼い頃に失い、祖母と兄と慧に育てられた鹿乃の古風な感じ。
鹿乃が着こなす着物たち。
アンティークな館と蔵。

そういったものが、織り交ざり、独特の雰囲気となって、読者の心にジワジワとした感動を呼びます。

心の一番奥の大切な何かを失ってしまったかのように見える慧と、少し何かが欠けてしまったようにも感じる鹿乃。

傷を舐めあうように一緒にいた二人が、そうではなくなる瞬間、1歩踏み出す瞬間。
その瞬間が来た時に、読みながら心が熱くなって、どうしようと思うほどの感情の波が押し寄せました。

ぜひ多くの方に、この感動を味わって欲しいと思っています!

アリスと紫式部

本作の主人公は鹿乃という女子高生です。
たぶん、すごく可愛い女子なのではないかと思っています。
そして同居している兄の親友:慧に恋をしています。

慧は大学の准教授ですから、少し年上の大人の男性です。
そしてイケメンです。

たぶん慧もかなり鹿乃が好きなんだと思います。
ただ妹のように思っているだけだと、自分に言い聞かせている感じもします。

それが最近になって、急に大人びた鹿乃にドキドキし始めたのではないでしょうか。
つまり、間違いなく相思相愛なんですけど、近くに居すぎて、一歩前に踏み出せない歯がゆい二人のお話なのだと思います。

鹿乃の兄:良鷹は、美青年で長身で、変わり者です。
これまでの白川作品の兄たちは、妹のために翻弄され、苦労を強いられる存在でした。

ですが、良鷹はちょっと違います。

遠くから妹を静観している感じで、実際の鹿乃の世話は、慧に任せている節があります。
そして、ぐーたら兄貴です。
ぐーたらだけど、ここぞと言うときには役に立ってくれそうな気がします。

そして1巻なのにもう、恋のライバルも出現していますし、ハラハラする展開も待っているかもしれません。
本巻はいずれも、恋に関する謎を説くお話のようです。

戦後の人々が様々な事情を抱え、強く生き、楽しい恋も苦しい恋も乗り越える様を感じることができました。

アンティークの物語に触れながら、現代を生きる鹿乃が、どんな恋をしていくのかを楽しみながら読むことができました。

回転木馬とレモンパイ

表紙を見ていると、楽しい思い出の詰まった着物たちが、蔵の中で待っているような感じがします。
ですが、今回はかなり悲しい恋のお話もありました。
人も物も時として、その時代の歯車の犠牲になるものなのかもしれませんよね。

ヒロインには兄がいます。
ですが白川作品において、その兄たちはいずれも、妹のために生きていて、自分自身の幸せをつかむことはなさそうな雰囲気を漂わせていました。
ですが、本作は、ちょっとばかり違う趣です。
シスコンは変わりませんけど、ちゃんと自分の道を貫きそうな兄がここにいます。
そして、もしかしたら兄も恋愛をするのかもしれません。

本巻は、全部で4話が収録されてましたが、兄:良鷹は最初の話には登場せず、ちょっと寂しいなと思っていたら、最後のお話では主人公でした。

最後のお話は鹿乃と慧は友情出演程度しか登場せず、代わりに、良鷹の相棒になりそうな女子大生:真帆が登場します。
真帆は良鷹の外見に騙されていませんし、良鷹に冷たく、なびかない唯一の女子です。

良鷹もだらしない本来の自分を真帆には見せているんです。
これって恋愛に発展しそうな予感がしますよね?

さて、鹿乃と慧ですが、相変わらず仲がいいけど進展しない関係が続いています。
でも少しずつ慧の気持ちが傾き始めているようにも思うんです。

女子大生から貰ったプレゼントに対して、鹿乃に言い訳していましたしね。
鹿乃に女性の陰をチラつかせて誤解されるのが嫌なのが、明らかにわかります。

冷たいようで優しい慧が、優しさだけで鹿乃を見ているわけではないということを、どうやって鹿乃に知らせていくのか、お互いの意識がどうやって変わっていくのか、とても楽しみです。

そして、鹿乃の友達:奈緒の恋も始まりそうな予感がしますし、今回登場してお友達になったプリシラも、恋が始まりそうな感じがしてきました。

実は、恋にあふれた物語だったんですね。
蔵の管理をすることで、新たな出会いと、本当の恋に出会う展開に、今後も期待します。