kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『心霊探偵八雲 魂の道標』本編第10巻 神永学(著)を語ります!

奈緒について

『心霊探偵八雲』を読み始めたのは、文庫版が出始めた後でした。
文庫がでる順番で読んでいたため、SECRET FILESや、ANOTHER FILESなどのサイドストーリーも合わせて読んでいました。

だから違和感がなかったんです。

今回、ブログを書くことにしたので、改めて、本編のみの12巻を再読してみて気が付いたんですが、本編では一切、奈緒の素性について名言されてないようなんです。

本編で唯一、奈緒の素性らしき一文があるのが、この10巻の背表紙のみなんです。

背表紙を読むと、奈緒が八雲の妹であることがわかります。
そう実は、八雲と奈緒は異母兄妹なんです。

今回は、八雲チームの一番弱い部分でもある奈緒が心霊現象に巻き込まれます。
一心がずっと大切に守ってきた奈緒を、後藤と晴香、そして八雲が守れるのか?
ここが注目ポイントになります。


傷ついた左眼

前巻(9巻)の最後で七瀬美雪に、左眼を傷つけられた八雲でしたが、運よく、瞼を切っただけですみ、眼球は傷ついておらず、失明は免れました。

ですが、その左眼の視力が回復することはありませんでした。
つまり、死者の魂を見る力を失ってしまったのです。
精神的な問題で、視力に影響が出たものと思われます。

八雲は生まれたときから、ずっと死者の魂を左眼で見続けてきました。
その左眼の体質について、向き合おうと向き合うまいと、それは自分の意思に関係なく見えてしまうものだったのです。

見えなくなった今、初めて、八雲は本当の意味で、左眼との付き合い方について、向き合うときが来たのかもしれません。

人の気持ちとは不思議なものです。
一見、全く真逆の考えや想いが、同時に存在するときがあります。
真逆の考えをどちらも欲していると感じてしまう瞬間があります。

さんざん見たくないものを見せられ続けた左眼をいらないと思う気持ちと、
やはり見たい、真実を確かめたい、と思う探究心です。

不必要だからいらない、必要になったからまた見たい。

そんな単純な考え方では、自分の本当の気持ちには永遠に気づけないでしょう。
そして、真逆に存在するどちらの気持ちも、同等の価値ある、自分の本心だと認める必要があります。

短所には必ず長所があるように、弱さと強さを同時に持っているからこそ、人は人らしく輝けるのです。

八雲は八雲らしい答えを見つけるためにあがきます。
そして、失意の八雲に光を照らせるのはやっぱり、晴香しかいないのだということも、改めて思い知らされることとなりました。


心霊探偵八雲10 魂の道標

斉藤八雲:大学生。死者の魂を見ることができる。
小沢晴香:八雲と同じ大学に通う学生。
後藤和利:元刑事。今は探偵。
石井雄太郎:刑事。
英心:僧侶。亡くなった斉藤一心の師匠。

宮川英也:刑事
畠秀吉:監察医
土方真琴:新聞記者
斉藤奈緒:後藤の養女になる
後藤敦子:後藤の妻
高部:真琴の同僚のライター
広田節子:後藤に心霊現象を相談した妊婦
広田雅秀:節子の夫
佐山武:フリーカメラマン
重森:ライター
笹岡:交通事故を起こした運転手
ガソリンスタンドの店長
目撃者の中年の女性
見山:不動産会社の従業員
山品:不動産会社の従業員
山品秀幸:ショッピングモール建設に関わった男性
竹本:マンションの管理人
広澤一枝:もと養護施設園長の奥さん
徳江:養護施設で育った女性
七瀬美雪:両眼の赤い謎の男に心酔する
両眼の赤い男

七瀬美雪に左眼を傷付けられ、死者の魂を見る力を失ってしまった八雲は、自分がこの世に不要の人間であるかのように、自暴自棄になっていき、これまでの生き方もこれかの生き方も見失ってしまいます。

そんな時、妹の奈緒が心霊現象に巻き込まれ、行方知れずとなってしまいました。

同じく、八雲の隣にいても何もできないと無力感に襲われていた晴香でしたが、後藤のある行動がきっかけとなり、目を覚まします。

晴香は、奈緒と八雲のために立ち上がります。
晴香には晴香にしかできないことがあると気づいたからです。

ついに八雲も、これまで否定してきたすべての事柄を受け入れる覚悟をし、晴香とともに立ち上がる決心をします。

そして奈緒を救い出すため、事件と赤眼の男に挑んでいきます。

【序章】
これまでほとんど語られたことがなかった奈緒の想いがつづられています。
そして、奈緒の穏やかな日常が壊れていくような漠然とした予感を感じさせるエピソードです。

【第一章 予兆】
死者の魂を見る力を喪失した八雲は、後藤や真琴が心霊相談を持ちかけても、拒絶するかのように断っていました。
そんな八雲を隣で見てる晴香は、八雲の気持ちを察すると何も言えなくなり、もどかしい想いを抱えることになります。
後藤は後藤で、真琴は石井に応援を頼んで、自分たちだけで心霊現象を調べようとします。
そんな中、後藤が関わった心霊相談の影響が奈緒に降りかかってしまい、奈緒が行方不明になってしまうのです。

【第二章 告白】
後藤が追っていた心霊現象と、自分が追っている心霊現象が同じものかもしれないと気づいた真琴は、心霊現象の謎を解かなければ奈緒を見つけることができないと思い始めます。
石井は宮川とともに、奈緒の足取りを追い捜査を続けます。

ですが、肝心の八雲は、死者の魂が見えなくなってしまったことで、自分の存在価値を見失い、晴香にさえ背を向けて、失意の中へ沈み込んでいきます。

【第三章 道標】
さて、いよいよ八雲が動きます。
復活した八雲の元に、晴香、真琴、石井、英心が駆けつけます。
八雲チームはそれぞれが優秀なメンバーばかりなので、自分たちで調査したり捜査したりと、迅速に的確に動くことができます。
ですが、せっかく掴んだピースをつなぎ合わせることができるのは、やっぱり八雲だけなんです。
石井と真琴の捜査と調査をもとに、八雲が司令塔となり、事件解決への更なる指示を出していきます。
石井、真琴、英心は、八雲がどういう推理をしているのかはわからないまま、八雲を信頼し、八雲の指示に従って捜査を続行します。
晴香は、ただ八雲の側にいて離れず、八雲を見守りながら一緒に事件を追います。

【終章 その後】
八雲ファミリーが勢揃いで賑わっている風景が語られています。
そして八雲はどうやら、晴香の想いに応える決心をしたように見えました。

【あとがき 作者:神永学】
八雲と晴香が出会ってから、ほんの2・3年しか過ぎていないというのに、私はもう何年、この作品と過ごしているのだろうかと、感慨にふけることになりました。

感想

敵も焦っているのでしょう。 
攻撃が短絡的にも見えます。
ですが、その狡猾さや、えげつなさは強度を増していくようにも見えます。

次に誰が狙われるのかわかっていても、防ぎようがない。
敵は実体を持たず、どこにでも侵入できるわけですから。

八雲は誰よりも清い心を持った存在なんでしょう。
汚れてしまうほうがずっと楽です。

でも八雲は清いままでいることを望んでしまった。
そんな風に感じました。

だからこそ敵は、八雲を汚したくなるんでしょう。
汚れてしまった自分たちと同じようにしたいわけです。

八雲が汚れないままでいると、汚れてしまった自分たちの存在価値がなくなってしまいます。

自分たちが生きていること、生きようとすることが間違っていることになってしまうのかもしれません。

だから清いままでいる八雲を肯定することはできない。
認めてしまったら自分たちはこの世のどこにも居場所がなくなってしまうからです。

それから、八雲に対する嫉妬もあったのかもしれません。
八雲には家族がある。
魂の深い部分で結ばれた人たちがいる。

何も持たず、闇の中にしか生き方を見いだせない者たちにとっては、八雲はまぶしすぎるのかもしれません。

本巻で八雲は、赤眼がなかったら今の自分は存在せず、今ある仲間や家族も存在しなかったと考えていたようです。
なんだかいじけているようにも見えました。
ふてくされて、家族に背を向けている反抗期の少年のようでした。

赤眼がなかったら、普通の当たり前の平凡な人生が待っていたのかもしれません。

ずっと赤眼がない人生をうらやんで、平凡な人生を望んでいたはずなのに、いつの間にかそれは変化していたんです。
今や赤眼のない人生はありえないし、出来てしまった家族や仲間は失いたくない、大切な存在なんです。

どんな境遇であっても、それは関係ありません。
自分は自分です。

同じ境遇にあるものが同じ道を選ぶとは限らないし、同じ結果になることはありえないからです。

赤眼のせいで出会えた人たちがいることは確かです。
でもその仲間たちが八雲の元に集まってくるのはあくまで、八雲だからなんだと思います。
単に八雲が好きだから、八雲の眼が赤かろうが、黒かろうが、八雲のそばにいるだけなんです。
そう思います。
今回、そんなみんなの思いが八雲に届いたと信じます。