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『心霊探偵八雲 失われた魂』本編第8巻 神永学(著)を語ります!

ファンサービス巻

以前書いた記事の中で、お話したのですが、

『心霊探偵八雲』は複数の語り部が、バトンリレーのように交代しながら物語が進んでいきます。
ですが、主人公の「八雲」が語り部になることが、ほぼ無いんです。
0ではないんですが、ほぼ0に近い確率で、八雲の気持ちが語られることはありません。

と書かせていただきました。
決して嘘ではありません。
嘘ではないんですが、実は、黙っていたことがあります。
この第8巻だけは、例外になるということをです。

どういうことかと言いますと、この第8巻は、八雲が殺人の容疑者として逃亡し、孤立するというストーリー展開でして。。

つまり、いつものように八雲の気持ちを想像して教えてくれる語り部が、八雲の周りからいなくなるんです。

なので自動的に、八雲の心情は、八雲自身が明かしてくれることになります。
そしてそれが、想像以上の明かしっぷりなんです!

今まで、何も明かしてくれなかった分のすべてを、語ってくれます。
もうこれは八雲ファンへのファンサービスと言ってしまってもいいでしょう。

八雲が心で呟き出したら、注目してください!
これまで、読者として勝手に想像してきた八雲の気持ちを、答え合わせするのもまた楽しいかと思います!

そして、9巻以降は解禁になりますので、毎巻、八雲が心情を読者に伝えてくれます。
そちらも楽しみにしていてください。

例えば、9巻は、後藤への想いを少し語ってくれます。
10巻では、自分の恋愛についての考え方を語ってくれます。

11巻では、なんと、八雲の周りにいる人々に対する感謝の気持ちを、順番に呟く場面があります。

なんだかもう、終わりが近づいているようで寂しくもなりますが、最後までめいいっぱい八雲を味わってみたいと思います。

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心霊探偵八雲8 失われた魂

斉藤八雲:大学生。死者の魂を見ることができる。
小沢晴香:八雲と同じ大学に通う学生。
後藤和利:刑事。
石井雄太郎:後藤の部下。
英心:僧侶。亡くなった斉藤一心の師匠。


宮川英也:刑事課長
畠秀吉:監察医
土方真琴:新聞記者
斉藤奈緒:後藤の養女になる
後藤敦子:後藤の妻
中本:英心の古い友人の医師
夏目葉子:西多摩署の刑事
戸田山誠道:寺の住職
戸田山初音:誠道が引き取った捨て子
戸田山高広:誠道の自殺した息子
秀英:修行僧
松本浩:殺害された高校教師
増岡美波:10年前行方不明なった少女
増岡珠恵:美波の母
内藤洋介:殺害された男性
七瀬美雪:両眼の赤い謎の男に心酔する
両眼の赤い男

悪夢から八雲が目を覚ますと、そこは、見覚えのない薄暗い場所でした。
それがどこで、なぜ自分がここにいるのか、思い出そうとすると、それを拒むように首の後ろが痛みます。

断片的な記憶しか残っていない八雲の前には、血まみれの遺体が横たわっていました。
そして、「赦さない」と呟く少女の幽霊が現れます。

混乱しながらも、この場を離れる決断をした八雲は、殺人の容疑者として追われることになります。

一方、八雲に会うため、八雲の部室に集まった晴香と後藤は、八雲が殺人事件の容疑者になっていることを知り、それぞれがどうにか八雲を救おうと、動き始めます。

【第一章 疑惑】
八雲が悪夢から目を覚ますと、そこは知らない薄暗い場所でした。
そして目の前には、血まみれの遺体が横たわっています。
思い出そうとしても断片的な記憶しかない八雲は、自分が犯人なのかもしれないと、疑心暗鬼になります。
そして、殺人現場を離れる決断をした八雲は、警察に容疑者として追われることになりました。

一方、八雲の無実を信じる晴香、後藤、真琴と、信じきれない石井は、それぞれ、八雲のための捜査に乗り出します。

【第二章 逃亡】
唯一の手がかりは、そもそも英心が八雲に依頼した輪廻転生にまつわる騒動です。
晴香・石井・真琴は、協力しあって、この騒動に関係しそうな殺人、事故、自殺、行方不明、噂などを調べていきます。
ですが、どの関連性もバラバラに配置されていて、何度も繋がりかけてはバラバラと解けていきます。

それでも今は、どんな小さな欠片でも、拾ってみなければなりません。3人は、手がかりをしらみつぶしに調べる道を選びます。

【第三章 円相】
いよいよ八雲が直接動き出します。
まず八雲は、英心と後藤の力を借り、事件当日の欠落した記憶を埋めるために動きます。
そして、晴香・石井・真琴が捜査で掴んだ結果をもとに、事件の概要を知ります。

さらに八雲は、事件の裏に隠された真実と宿命を知ることになります。

八雲と後藤にはもう後がありません。
二人の帰る場所を作るために、それぞれがそれぞれの方法で奮闘します。

【終章 その後】
まず、事件の顛末が石井視点で語られます。
そして<未解決事件特別捜査室>の次の展開が始まります。
さらに、後藤の新しい展開についても語られます。

最後に、八雲と晴香は誠道の寺を訪ねます。
そもそも、八雲がこの寺に足を踏み入れたのは、一心のことが知りたかったからでした。
その目的を果たします。

【添付ファイル 火の玉】
真琴の持ちこんだトラブルを、八雲と晴香が解決するために出かけていきます。
でも、それは、真琴の粋な計らいだったのです。

【あとがき 作者:神永学】
八雲の心情は、八雲が自らの意思で明かしてくれたのだそうです。

感想

本巻は、WANTED八雲が表紙になっています。

背表紙を読んで、目次を見てしまうと予測できてしまうのですが、八雲が逃亡犯になるお話です。
探偵役が逃亡犯になる、それは推理小説というジャンルにおいては王道中の王道です。
これまでにも様々なシリーズものの推理小説で、そのシリーズ中に最低1回は、こういうお話が存在してきたかと思います。

読者である私たちには、すぐにピンと来るものがありました。
これは間違いなく冤罪で、七瀬美雪と赤眼の男が仕組んだ罠なのだと。

ですが、物語はまず八雲が八雲自身を疑うところから始まります。
運悪く記憶を無くしてしまった八雲は、自分を信じ切ることができず、疑心暗鬼になります。

そして、晴香、後藤、石井も、八雲を信じる気持ちと、そうでない気持ちが入り混り葛藤します。
人は時間ができると、あれこれ考え始めます。
一人でいるとなおさら自分だけの思考に陥ってしまいがちです。

それもこれも八雲が逃亡してしまったせいなんです。
八雲がいないから不安になって、余計なことまで考えてしまったんです。

その証拠に、後藤は、八雲を発見した途端、何もかもが吹っ飛んでしまったようでした。
さすが、あれこれ考えるより先に行動してしまう後藤らしさだなと思いました。

晴香もそうです。
八雲の声を聞いた途端、やっぱり八雲は無実だ!という何の根拠もない自信を取り戻したように見えました。

石井は、後藤や晴香とはちょっと違った感情から一時的に疑ってしまっただけでした。
八雲が戻ってきさえすれば、その瞬間に元通りに戻る。
全く現金な人たちです。

今回のテーマは、「後藤を見習え」だったのかもしれません。

動物は本能で動くものです。
考えることが苦手な後藤は、つねに行動が先です。
あれこれ考えてしまうと、先に進めません。

答えが見つからないまま、立ち止まっていてもただ時間を浪費するだけです。
そのことに気づき、それぞれが自分で決めて、それぞれの道を行くことにしたんです。

人は一人では弱い生き物です。
ですが、みんなが揃えば強くもなれるのです。

さて物語本編についてですが、現在進行形で起こっている事件と、八雲自身に隠された秘密とを一遍に解決していく展開でした。

でもあいかわらず、こうなるとは思いもよらなかったんです。
現在進行中の事件の犯人は、わりと中盤で察しがつくんですけど、八雲がなんで濡れ衣を着せられることになったのかは、最後まで見当もつきませんでした。

それにしても、七瀬美雪と赤眼の男との決着を付けないと、おちおち晴香とお付き合いすることなんてできないのかもしれません。
中途半端に恋愛をしてしまうと、感情が入りすぎて、互いのピンチのときに冷静な判断ができなくなりそうです。

もうすでに晴香は冷静ではなくなって来てますし、まだ八雲が冷静だから何とか助かっているようなものなのかもしれません。

確かめ合ったわけではないけど、互いに自分の気持ちは自覚していますし、両想いだということも何となくは理解できているはずです。
だからこのままステイするのが賢明な判断になるのでしょう。

ただ一つ確実となったのは、八雲の帰る場所が晴香のいるところだということです。
それだけは間違いないでしょう。

逝ってしまってもなお、その存在感が大きく、残った者たちに影響を与えている一心ですが、、やはり、一心は全部知っていたんです。
これまで一心が生かされていた理由もなんとなくわかりました。

一心がもう不必要になったということにも、合点がいきました。

一心は自分が八雲のそばにいられなくなった後のこともちゃんと考えて、ある意味準備をしていたのかもしれません。

その一つ一つを八雲はちゃんと乗り越えて、前へと進んでいます。
さらに後藤も大きな一歩を踏み出す結果となりました。
今後の展開を想像すると、ちょっと笑えて来ます。