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『心霊探偵八雲 失意の果てに』本編第6巻上下 神永学(著)を語ります!

嫌な予感は定番

『心霊探偵八雲』は、本編全12巻の中で、何度も、八雲や晴香や後藤が、いなくなってしまうかのような、嫌な予感がすることが定番の作品です。

そして、その予感は、実現されないというのが定番でもあるように思います。
だから、読者はきっとこう思いながら読んでいるんです。

八雲チームは誰も死なない!
そんなこと言ったって、絶対、助かるに決まっている!

ですが、この第6巻だけは、少々事情が違ってきます。
ですから、ページ数も長いのだと思います。
上巻を読むだけでも、、
何かが、いつもと確実に違う。
定番どおりではない方向に動いている。
そう思うことになるでしょう。

本巻を読む際には、間違いなく、ハンカチやティッシュが必要になります。
読む前に、読む覚悟をしてください。


心霊探偵八雲6 失意の果てに

心霊探偵八雲 失意の果てに,神永学,鈴木康士,鈴木久美,角川書店,角川文庫,2010/9/25

斉藤八雲:大学生。死者の魂を見ることができる。
小沢晴香:八雲と同じ大学に通う学生。
斉藤一心:八雲の叔父である僧侶。
石井雄太郎:刑事。
七瀬美雪:両眼の赤い男に心酔する。

後藤和利:刑事。
後藤敦子:和利の妻。
斉藤奈緒:斉藤一心の娘。
榊原:一心が収容された病院の勤務医。
両眼の赤い男:八雲の父親と名乗る。

【序章】
石田直人:患者

【本編】
畠秀吉:監察医
宮川英也:刑事課長
土方真琴:新聞記者、父は元警察署長
小沢恵子:晴香の母
新井真央:一心の大学時代の友人。医師。
古川:看護師
木村佳子:心臓病で入院している少女
石川・須藤:刑務所の刑務官
山村幹生:刑務所の刑務官
小松:刑務所の医務官
小林:刑務所の庶務担当刑務官

【上巻】
シリーズ最大の危機がシリーズ最大の長編として幕を開けました。
七瀬美雪が拘置所の中から、一心を殺すと殺害予告をしてきました。
物理的に不可能な犯罪ですが、美雪なら可能にする何かがあるのかもしれません。
疑心暗鬼になりながらも、後藤と石井は一心の元へ駆けつけます。
一方、一心は、長年抱えてきたジレンマを克服します。
そして先に進む道を選びました。
一心の八雲と奈緒を思う深い愛情が、切なく心に響いてきます。

【下巻】
七瀬美雪の予告通り一心が倒れます。
八雲や奈緒だけでなく、晴香や後藤にとっても特別な存在だった一心。
歩むべき道を見失いかけた八雲チームでしたが、支えあい分かち合う仲間と一緒に再び立ち上がります。
そして真相に向かって歩き出します。
やがて八雲は、真相の先にある一心の意思に気づきます。
辛く哀しい想いを胸に抱きながら、苦しい決断をすることになりました。

【序章】
とある病院で、少女の幽霊が彷徨っている現象が描かれています。

【第一章 予言】
死亡フラグが冒頭から立ちました。
そして、七瀬美雪による一心殺害予告もありました。
後藤と石井は、罠だと承知の上で、美雪の罠にかかって行きます。
いつから企まれていたのか、どこからどこまでが真実で嘘なのか、美雪の言動や行動が更なる疑心暗鬼を生み出します。
一方、八雲と晴香は、一心の友人が勤める病院で、少女の幽霊が出るという相談を受け、調査のために病院を訪れていました。
後藤と八雲の連携がうまく取れず、すれ違っている間に、美雪の魔の手が一心に迫ります。

【第二章 彷徨・陰】
一心が倒れたことで、八雲と晴香は、悲しみの中に沈んでいきます。
男性陣は皆、それぞれが自分のせいだと思い込みます。
皆が一時、支えあい分かち合う関係だということを忘れてしまったかのような時間が流れます。
ですが、いざという時には女性陣の優しさと強さが男性陣を救うんです。
晴香の気持ちは八雲へと真っ直ぐ向かいます。
これまで、物語全体を通して、八雲の気持ちはほとんど語られてきませんでしたが、少し八雲の心情も語られています。
また、後藤夫婦の関係も変化して行きます。

【第二章 彷徨・陽】
いよいよ八雲が捜査へ乗り出します。
自分の中にある闇と闘い、復活したようです。
一見、いつもの八雲のようにも見えますが、事件の確信に触れていく中、気づいてしまった真実に、胸を痛める八雲の姿が、切なく、やはり深い悲しみの中にいるのだと気づかされます。

【第三章 決別】
一人ですべてを抱え込み、すべてを一人で背負って、晴香に背を向けようとする八雲に、晴香がなんと、思い切った行動を取ります。
と言いますか、どうやら晴香の我慢が限界に達したようです。
さすがに八雲の目も覚めます。
そして二人で一緒に、真相へ向かって歩き出します。
やがて大きな決断の時が訪れます。

【終章 その後】
八雲は一心の意思を継ぎます。
そして、晴香と後藤はそれぞれ、一心の遺言を胸に刻み、自分の進むべき道を歩み始めます。

【添付ファイル 夜桜】
時期外れのお花見会に向かう八雲と晴香。
穏やかな春の日が心地よく、八雲と晴香の新たな旅立ちを祝福しているようにも感じられる場面でした。

【あとがき 作者:神永学】
あとがきなのに、少しホロっときます。
一心のことでまた、グッときてしまったのだと思います。
八雲たちだけでなく、私の心にも何かが刻まれたような感覚でした。

 

 

 

 

 

 



感想

【上巻】
本編は、一心のジレンマから始まります。
愛する姉と、愛する女性を奪われ、同時に、八雲と奈緒と家族になった一心。
不幸と幸せは紙一重なのかもしれません。

そして、この冒頭が漠然と、一心に何か起こるかもしれないという暗示になっています。

前作では、両眼の赤い男と晴香が出会ったので、てっきり次に狙われるのが晴香なのかと思っていましたが、その前に、今まで安全圏にいたかのように思われていた一心に矛先が向かったようです。

このタイミングで一心を狙ってくるとは、八雲の父親のいやらしさを感じます。

生きることに希望を見出しかけていた八雲にとって、ここで一心を失ったら、取り返しのつかない闇を抱えることになりかねない、そんなタイミングでもあります。

でもまだ八雲には晴香がいます。
だからまだ大丈夫なはずです。
晴香がいるからダメになる可能性も捨てきれませんが、きっと大丈夫だと信じたい! 乗り越えて欲しいです、絶対に。

【下巻】
八雲が、その身に背負ってしまったすべてのことから、逃げずに立ち向かい、乗り越えるために必要な事件だったように思いました。

一心はまさに命がけで、八雲を守り導いたんだと思います。
最後まで、子供たちを愛して、子供たちのために道を切り開こうと尽力した一心は、まさに、御仏の化身です。

今後はこれまで以上の危険が待ち受けていそうです。
特に晴香のことが心配ですが、、

八雲がどうやって晴香を守るのかも気になるところですし、そもそも二人の関係が発展したのか、してないのか、はっきり明示するような何かはなかったんです。
このままだと腐れ縁とか同志みたいな関係で終わってしまいませんかね? 
そこらへんも非常に心配なところです。

どっちにしろ、他の相手と幸せになるなんてことはできないくらい、深く二人は結び付いてしまったように思います。
今でなくてもいいから、いつかは二人が本当の意味で結ばれることを願います。

これまで後藤の奥さんは話題としてしか登場せず、存在自体が希薄なものだったように思います。
今回は、しっかりメインキャストだったかのように登場し、その存在感を誇示し、物語の中心に割り込んできました。
思っていた通り、すてきな奥様でした。

そして、案外、後藤が愛妻家だったことがわかり、ふわっとした気分も味わえました。

仕事ばかりでなかなか会えなくても、何年もまともな会話をしてなくても、すれ違ってしまっても、二人の深い愛情は目に見えて感じられましたし、いざとなったら女性のほうがずっと肝が据わっていて、強いんだと思いました。

後藤の奥さん:敦子は、八雲にとっても晴香にとっても頼もしい存在になってくれそうな気がしました。
お姉さんのようなお母さんのような存在です。

結局のところ、後藤は八雲の命を助けたその日からずっと、八雲を背負って生きていてくれたということなんだと思いました。
後藤は1度背負ったら、最後まで下ろさないし、全部を背負って生きている人なんですね。

その1つを、奥さんである敦子が一緒に背負おうとしている姿に感動しました。

晴香は八雲の隣にいていい存在なのか、違うのか、これまでは曖昧だったような気がするんですけど、本巻では少なくとも、隣に並ぶべき存在だということがはっきりしたようには思います。

つまり相棒のような関係なんでしょうかね。
互いが互いに寄りかかっているようにも見えます。
個人的には、寄り添っていく二人を早く見たいものですが、今回はこれで我慢しましょう。