kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

【何かを失った大人が読む絵本】『もしものせかい』ヨシタケシンスケ(著)をご紹介します!

もしもあのとき

人は、時間ができると、あれこれと考えてしまう生き物です。
悩みがないという人は、まず、存在しないでしょう。
人によって悩みの大きさはさまざまでしょうし、悩む時間も違ってくるでしょう。

でも心のどこかで本当はわかっているんです。
悩みは悩んだ時点で、もう解決できないものなのだと。

悩んで解決できる問題は、そもそも悩まないのだと思います。
解決できないとわかっていても、考えずにはいられない。
意思や感情を持って生まれてしまった、人間という生き物のサガなんです。

それは乗り越えることが難しいサガなんです。
だから時間が解決してくれるのを待つしかないのかもしれません。

辛く悲しい経験も、いずれはこれでよかったと思える日がくるのだと信じるしかないのかもしれません。

そもそも、人は常に、何かを選択して生きています。
人生は選択の連続で成り立っているのです。

その瞬間、何が正しいのかは、全くわかりません。
その選択による、その後の展開は予期できません。

それでもどちらかを選ばないといけません。
だから、時間切れになったときに、より身近にあるものを選びます。
もしくは、その時点で、よりましな方の答えを選ぶのだと思います。

だからなんでしょうか?
どちらの答えを選んでも、必ず後悔するんです。

そして自分が掴んだ答えには、興味を示せません。
選ばなかったほうにばかり気が向いてしまいます。

人は矛盾した生き物なのかもしれません。
逆の選択をしたとしても、やっぱり、選ばなかったものを永遠に欲しているに違いないのにです。

とあるドラマのメイキング映像を見ていた時に、
そのドラマの主演俳優さんのインタビューがありました。

「今回のドラマの演技はいかがでしたか? 納得のいく演技はできましたか?」
そんな意味合いの質問だったと思います。

そしてその俳優さんの答えは、
「自分は、毎回、より最善だと思う演技を選択して演じているだけなんです。完璧だと思って演じても、決してそうではありません。だから毎回、少しずつの後悔が残ります。」
そういった意味合いの答え方をされていました。

自分に厳しい方なのだなと聞いた瞬間は思いました。

でも、時間がたって、改めて考えてみると、
むしろ自分に優しい生き方なのかもしれないなと思い始めました。

後悔は必ずするものです。
でも後悔ばかりが大きくなってしまうと、先に進むことができません。

だから、後悔は、あえて毎回少しずつすることにしている。
その反省を生かして、次の選択に進んでいる。

そういう生き方なのではないかなと思い始めています。

そうはいっても、なかなか、こんな風に割り切って生きていくのは難しいものです。

人生の半分は、すでに生きてしまった身ですが、いまだに、自分との向き合い方、残りの人生の過ごし方に、悩まされる日々が続いています。




もしものせかい

作者:ヨシタケシンスケ
出版社:赤ちゃんとママ社
発売日:2020/1/28
サイズ:18.2 x 12.8 x 2 cm

少年には、大切なおもちゃがありました。
そして、そのおもちゃにとっても、少年は大切な存在でした。

ですが、おもちゃは、自分の意思とも、少年の意思とも無関係の事情で、少年のもとを去ることになってしまったのです。

去る前に、おもちゃが、少年の夢に現れます。

そして、少年が一人になっても大丈夫なように、少年が知らないもう一つの世界があることを伝えます。
少年が今まで失ってしまったもの、これからの未来で失うもの、すべてがもう一つの世界に集まっているのだと知らせます。

今、おもちゃがもう一つの世界に行ってしまうということは、少年にとっては悲しいことです。
でもその悲しみは一時的なことなんだと伝えます。

一時的に悲しい場所にいたとしても、そのうちまたゆっくり悲しみが薄らいでいくことを伝えます。
少年が何かをしても何もしなくても、そうなるのだと伝えます。

やがてまた少年のいる世界が豊かになっていきます。
そしてまた大切な何かを失ってしまいます。

それを繰り返しながら、少年のいる世界と、もう一つの世界はゆっくり大きく豊かになっていくのです。

だからいつでも楽しく生きていて欲しいのだと、おもちゃは願っているのです。