kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』『私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。』『皆さん、このクラスに鬼がいます。退治しましょう!』日向奈くらら(著)をご紹介します!

現実にはありえそうな世界で非現実的な物語

ホラーがそもそも大の苦手で、映画は絶対に見れません。
小説や漫画は、ソフトなホラーであれば多少は読めます。

主人公が恐怖を感じる時には、一緒に恐怖を感じたり、主人公が何か得体の知れない恐怖から追いかけられている時には、一緒になって逃げたくなる。
我が身が、その恐怖を背負ってしまうほどの恐怖を感じるレベルだと、もう、夜眠れなくなってしまうので、手を付けることが難しいです。

そんな私でも多少読むことができるのが、角川ホラー文庫から出版されている小説です。
と言っても、藤木稟先生や、内藤了先生の作品しか読んだことがないんですが。。

今回ご紹介する日向奈くらら先生の作品は、手に取ることに対して、かなりの葛藤がありました。
ですが、恐怖という感覚と、好奇心という欲求が戦った結果、好奇心が勝っていました。
恐怖はまだ味わってないので、好奇心に勝てるはずがありませんでした。

現実には、ギリあり得そうな世界の中にあって、非現実的な何かが、主人公のあずかり知らない次元で進行している。

主人公は、一体、何に恐怖していて、何から逃げているのか?
それに気づいた瞬間にはもう、取り返しのつかない場所まで来てしまったのだと、思い知らされることになります。

私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。

題名からすでに、その斬新さを感じます。
この題名の斬新さを生かすためには、具体的な感想を披露することが難しくなります。

本作は、普通の推理小説とはまた違った意味で、最終的にどうなるのかが、全く読めないお話でした。
作者は、どう決着をつける気なんだろうか?と思いながら読み進めていく感じです。

自分の深淵をのぞき込むことが、この物語のテーマだと思います。
身もふたもない終焉を迎えそうな予感はありました。

主人公は、二年C組の担任をしている北原奈保子という女性です。
題名のとおり、奈保子のクラスの生徒が、一晩で24人も亡くなってしまいました。

生徒たちが亡くなって初めて、生徒たちの間に起こっていた問題が想像以上に大きく、事態を悪化させ続けていることに気付きます。

そして、奈保子の中の罪悪感と後悔が、奈保子を突き動かし、やがて事件の真相へとたどり着きます。

人は雰囲気とか、感覚とかいったものに、流されやすいものです。
特に、マイナスイメージのものに対して強く反応するし、同調しやすいものなのかもしれません。

周りのみんなもやっているし、みんながいいなら、私もそれでいいや。

誰だって「協調性がない」とは思われたくありません。
誰かに決めてもらったほうが楽ですし、誰かの考えについていった方が安全な場所にいられると思うものです。

ですが、今回は、大多数の和の中にいたみんなが、悲劇に見舞われました。
亡くなった生徒たちは、みな、自分は完全に安全な場所にいると思っていたはずです。
ですが、そこには大きな落とし穴があったんです。

落ちてしまったと気づいた時にはもうとっくに、手遅れとなっていました。


私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。

本作は、『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』に比べると、亡くなった人の数がぐんと減りました。
ですが、クローズドサークルを根底に繰り広げられる殺戮は、さらに恐怖を増したようにも思います。

学生生活を共に過ごした仲間だったとしても、一緒に遊びや旅行にいったのだとしても、友達とは限りません。

互いに嫌いあっているのに、体裁を整えるためだけに一緒にいる。

それなりの打算やメリットがあって、集団というものはできているのかもしれません。
友達であっても家族であっても。

人間の奥にある魔を、前作とは違った角度で描いている作品だと思いました。

一度負のサークルに陥ると、なかなか抜け出せないのかもしれません。
それどころか、どんどん負のスパイラルに魅せられていく人もいるのかもしれません。

些細な行動が、大きな事件となり、人生が思わぬ事態へ変化して、すべてを失うこともある。
常に何を選択するかで、運命は変わるのです。
でも、やばいとわかっていても結局、人はどうしても欲望とか好奇心とかいうものに負けてしまうものなんです。

だから、ダメだとわかっている方向へと、意識は必ず向かってしまう。
人は、平凡な日々より、非凡な出来事を望む生き物だからです。

結末は惨憺たるものですが、生き残った人間もいます。
生き残ったものがどんな人生を送るのかが、本当の物語なのかもしれませんね。


皆さん、このクラスに鬼がいます。退治しましょう!

本作は、『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』『私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。』2作品を足して、さらに2倍したくらいの迫力があるグロテスクな作品です。
少なくと、食後満腹時には、読まない方がいいように思いました。

途中、鬼と戦っているのか、鬼と化した人と戦っているのか、わからなくなって行きます。

そして本当に鬼がいるのか、ただの比喩なのか、叙述に操られて、読みながら混乱する時間もありました。

極限状態に陥った人が、次にどんな行動に出るのか?
自分の中のタガが外れたとしても、理性を保てる人もいます。
理性を完全に取っ払って、快楽にふける人もいます。

どう考えても、鬼よりも人のほうがよっぽど怖いものです。
人のほうがずっと、信用できません。
人は嘘をつきますから。

とにかく、最後の10ページを切っても、結末が想像できませんでした。
ギリギリのせめぎあいが続く中、突然、ポンと物語が終焉に向かいます。

結局のところ、静かにひっそりと暮らしている鬼をわざわざ起こす必要はなかったんです。
触らぬ神に祟りなしが教訓だったような気がします。