kei-bookcolorの文庫日和

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『Jの神話』『リピート』乾くるみ(著)新感覚のミステリーをお伝えします!

そのセンセーショナルさは圧巻

乾くるみ先生の作品は、間違いなくこの世界のお話なのに、どこか、異世界のような感覚を味わえます。

自分の中に、何か、モヤっとした感覚を残します。
不思議な高揚感も感じます。
納得が行くような行かないような?
こういうことをパラドックスと言うのかもしれません。

けむに巻かれて、いつの間にか終わってしまっている。
何とも言えない後味があります。

もっと、この先を読んでみたい。
更なる未知の世界に行けるような気がする。
そんな感覚も味わえます。

『Jの神話』は、乾先生のデビュー作なのだそうです。
最後に、文芸評論家:円堂都司昭さんの解説がありますので、ぜひ読んでみたほうがいいかと思います。

作者である乾先生の歴史と同時に、新本格ミステリーの変遷なども語られているため、今後の読書ジャンルを選ぶのにも役立つ解説でした。

新感覚のミステリーを口頭で述べるのは、難しいように感じますが、円堂都司昭さんが解説の中で、「不可解な謎が論理的に解き明かされ、意外な真相の待っている本格ミステリー」という表現をされていて、なるほど、その通りだと思ってしまいました。

Jの神話

とにかくセンセーショナルなお話でした。
聖母マリアの処女受胎をモチーフにしたミステリーです。

アダムとイブの禁断の果実にも触れていますし、何か、新たな解釈を聞いたような感じにもなりました。

物語の舞台は、全寮制の名門女子高で、登場する女性たちは皆美しく、まさに百合の園でした。
とにかく女性の美しい面と、醜い面を同時に目にすることになり、同じ女性としてはちょっと複雑な気分にもなります。

でもわかるような気もするんです。
私の中にも、作中で苦悩する女性たちと同じ一面が確実にあるからです。

羞恥心から、常に隠している自分の本音を、暴露されているかのような作品でした。
読んでいて恥ずかしくもなり、続きを早く知りたいという気分にもなり、もっと先の自分の奥に存在する感情にも触れてみたいという欲求がうごめきます。

とにかく複雑な感情が、自分の中で渦巻いてしまったんです。

作中の女性たちが体感する感覚は、現実にはありえない感覚でもあります。
1度でも味わったらもう、もとの自分には戻れない。
わかっていても、その世界にはまっていく女性たちが、哀れでもあり、うらやましくもある。
そんなお話でした。

怪奇事件の犯人も、最後まで予測不可能でしたし、結末も、思っていた以上に残酷で、ちょっとしたホラー小説を読んだ後のような感覚です。

結局のところ、禁断の幸せを得るためには、自分の命を削るしかないわけで、だからこそ、人は理性で自分を抑え込まなければならないという教訓だったのかもしれません。

リピート

推理小説の定番で、無人島に閉じ込められた男女が、次々に殺害されていくというストーリーがあります。
また、天候悪化で山奥の山荘に閉じ込められた男女が、これまた次から次へと殺害されていくというストーリーもあります。

これは「クローズドサークル」というジャンルです。
いずれも、閉じ込められたくて閉じ込められたわけではなく、罠にハマって閉じ込められてしまったわけで、逃げたくて逃げようと頑張ってみるけど、逃げることができず結局殺されてしまう。

「犯人はこの中にいる!」というのが定番だと思います。

ところがこの『リピート』は、犯人の罠にはまって、時間と情報を共有しているものたちだけが集うサークル内に、心理的に閉じ込められてしまうストーリーです。

味方はサークル内にしかいない、外にいるはずの敵は誰だかわからない、だからサークルの仲間と団結して、自分の身を守らなければならない。
心が通じ合えるものはこの仲間たちでしかない。

そう思い込まされて、自ら檻の中に自分を閉じ込めてしまうキャストたちがいます。

自ら選んだ道が自らを破滅の道へ追いやる結果を招く。
未来が消滅するということは、同時に過去の自分も消滅するという節理・法則に全く気付かない哀れなキャストたち。

それぞれがどんな最後を迎えるのか、最後まで全く予想ができないストーリーです。

やっぱり人は運命には逆らえない生き物なのかもしれません。

そして乾くるみ作品のいくつかで思ったのですが、女性の行動がいまいち釈然としません。
それに対する解明もされないで終わることが多いように思います。

今回も想像はできるのですが、それで合っているかどうかの答え合わせはなされませんでした。
読む側としては解けない問題を提起されたような気分にもなる終わり方でした。
ですが、それが乾くるみ作品の魅力であり、新感覚の高揚感の源でもあるのです。