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『心霊探偵八雲 闇の先にある光』本編第3巻 神永学(著)を語ります!

後藤の正義もしくは信念

毎回、事件が起こるたび、当たり前のように八雲を連れまわす後藤ですが、八雲が以前、晴香に言っていたことがあります。

八雲の世界には、赤い左眼を奇異の眼差しで見る奴と、それを利用しようとする奴、その二種類しかおらず、後藤は後者だと。

ちなみに晴香はどちらにも当てはまらないと、八雲は解釈しています。

そんな後藤ですが、実は、八雲が幽霊を見ることができるという特異体質を持っているからだけで、警察の捜査協力をさせているわけではないんです。

幽霊がいようがいまいが、八雲の洞察力や推理力が抜きん出ていることに目を付け、事件解決には必要不可欠な存在だと思っているからなんです。

たまに、刑事にならないか?
と八雲に言っていることがありますしね。

後藤と八雲の関係は左眼の因縁とも言うべきものですが、後藤は、左眼だけで八雲を判断しない人物の筆頭になります。

左眼以上に八雲の人間性や才能に目を付け、それを高く買い、生かそうとしている。
助けてしまったからには、まっとうに生き続けて欲しいと願っているのだと思います。

自分の懐に一度入れてしまった者は、最後まで面倒を見る。
放ってはおけない。

後藤はもしかしたら、八雲を生かす道を、八雲のために用意しようとしているのかもしれません。
八雲には大きなお世話なのかもしれませんが。

さて、八雲シリーズ第3弾では、八雲も後藤もそれぞれ、自分の中の正義について、あれこれと考えてしまう場面がありました。

どちらかが迷って立ち止まると、もう片方が、それに気づいて助言し、前に進むという形を何度か繰り返していました。

つまり、八雲と後藤の正義は非常によく似ている。
そういうことなのでしょう。

互いに共感しあっているようにも見えます。

面白いのは、後藤の考え方です。
善悪の判断は関係ないのだそうです。
ただただ人の命を守りたい。
相手が誰であっても、どんな事情があっても関係ないのだそうです。

いずれ死んでしまうのだとしても、とにかく、後藤の目の前では誰も死なせない。
緊急事態に、うだうだと考えている場合ではない。
まず行動する。
その先のことはその先で考える。
それが後藤の信念なのではないでしょうか。

心霊探偵八雲3 闇の先にある光

斉藤八雲:大学生。死者の魂を見ることができる。
小沢晴香:八雲と同じ大学に通う学生。
後藤和利:刑事。
石井雄太郎:後藤の部下。
神山栄治:霊媒師。

【序章】
斉藤梓:八雲の母
小沢恵子:晴香の母
小沢一裕:晴香の父
サングラスの男

【本編】
畠秀吉:監察医
島村恵理子:刑事、後藤の同期
後藤敦子:後藤の妻
井手内:刑事課長
土方署長:警察署長
土方真琴:新聞記者、土方署長の娘
井上麻美:真琴の友人
村瀬伸一:麻美と真琴がバーで知り合った男性
井手裕也:伸一の弟分
八木慶太:バーのマスター
飯田瑞穂:心霊調査の依頼人
和江:真琴の隣の席のお局
沢口里佳:自殺した女性
沢口里佳の父
大利和志:レイプ犯
滝沢:真琴と同じ社の新聞記者
間宮:高校教師、神山のもと同僚

新たに心霊現象を調査することになった八雲の前に、怪しげな霊媒師が現れます。
どうやら八雲と同じ能力(死者の魂が見える)を持っているようです。
八雲と霊媒師の対決になるのか?
そしてこの霊媒師の正体とは?
最後まで目の離せない展開が続きます。

本巻では、うまく言葉に表現できない、後藤の正義と八雲の正義が、語られていたように思います。
他人の人生に関わるというこは、特に、その人の人生を左右するような行動をとってしまうということは、のちにどんな結果をもたらすのか、後藤と八雲が躊躇しながらも、選択する正義が心に響きます。

【序章】
八雲の母と、晴香の母が出会う場面が描かれています。
それぞれのお腹の中には、八雲と晴香・綾香がいました。

【第一章 消失】
八雲のもとへ、心霊現象に悩まされている女性が相談に来ました。
何でも、飛び降り自殺を延々と繰り返す女性の幽霊が出るというものです。
早速調査に乗り出した八雲と晴香ですが、心霊現象が起こる現場で、霊媒師:神山栄治に出会います。
神山は、どうやら八雲と同じ能力を持っているようなんです。
時を同じくして、前巻より登場している新聞記者の真琴も、またもや別の心霊体験に遭遇していました。
数年ぶりに再会した友人:麻美と訪れたバーで、女性の幽霊に遭遇します。

この章では、さり気なく大事なことがありました。
晴香がなんと映画研究同好会に入部したんです。
八雲の部屋は、もはや八雲だけの部屋ではなく、晴香の部屋にもなったんです。

【第二章 呪縛】
八雲の手伝いで、自殺した女性:沢口里佳の父親に会った晴香は、父親から里佳の日記と、里佳の事件の真相解明を託されました。想いが溢れて泣き出した晴香を八雲が。。その後、二人はなんと。。言いたいところですが、ちょっと我慢します。飛び降り自殺を繰り返す幽霊と、真琴が遭遇した心霊体験が、完全につながり、八雲が本格的に動きだします。

【第三章 怨念】
パズルのピースが揃わないまま、八雲の謎解きが始まります。
全部出揃ってからでは間に合わなくなったからです。
人に対して、誰よりも冷たく、誰よりも優しい八雲は、この事件を解決すべきかどうか悩みながらも前に進みます。
また、後藤も後藤で立ち止まってしまいそうになりながらも、前に進みます。
八雲と後藤が交互に立ち止まっては、相手に活を入れ、複雑な心情を抱えながらも、事件の真相に迫ります。

【終章 その後】
事件の顛末が語られています。
罪を犯した者は、それ相応の罰を受けることになりました。

【添付ファイル 返却】
八雲と晴香は、そもそも、事件の捜査がしたかったわけではなかったんです。
事件を解決しなければ、飛び降り自殺を繰り返す女性の幽霊を救うことができないと悟ったため、事件に首を突っ込んだわけです。
ここでは、本当の意味での今回の騒動の顛末が語られています。
晴香がトラブルメーカーから助手に昇格して、初めての心霊騒動の解決です。

【あとがき 著者:神永学】
文庫版 八雲は、前だけを見て走り続けている作者が、時折立ち止まって、少し過去を振り返りながら描く、新たな作品なのかもしれませんね。

 

 

 

 



感想

八雲が関わる事件には、必ず、悲しい過去とその真実が付きまといます。
真実を告げることが正しい選択なのか? 

告げないことで救われる命もあるのかもしれません。
いつだって難しい選択になります。

どんな選択をしても結局は後悔するのかもしれませんしね。

私は常に、後悔しない生き方をしようと自分に言い聞かせて生きてきました。
でも最近この作品を読んでみて思ったんです。

後悔とはあくまで自分自身の問題であり、他人がどんな後悔をするのかは予測ができないということ。

自分にとって、あるいは相手にとって良かれと思って取った行動が、本当に、双方にとって後悔させない人生を歩む選択になったのかどうか?はわからないということです。

自分の取った行動の結果、相手が悔やむ人生を送ってしまったのだとしたら、結局は自分もずっと苦しむことになるわけですしね。

かといって迷ってばかりいては先に進むこともできなくなってしまいます。

だから、最近はこう思うことにしました。
後悔をすることを覚悟のうえで、あえて選択するのだと。

自分の気持ちだって変化するのに、自分以外の人の気持ちをコントロールすることも、どんな風に転ぶのか予測することも、完全にはできないんです。
想定外のことはいつだって起こるものですからね。

だったら、その後悔も込みで生きていくしかないのかもしれませんよね。
どっちみち、立ち止まってばかりもいられませんしね。

その時その時で、最善の選択をするしかないんです。
後悔は、後悔するべき時に対処することにするしかないのです。
そしてそれをバネにまた大きく羽ばたくしかないんです。

結局は、そういう風にしか生きられない代物なんです、たぶん。

さて、本巻の冒頭になかなか興味深いエピソードが描かれていました。
八雲の母親を助けたのは、ある意味、晴香だったのかもしれません。
このエピソードは、物語全体にとって非常に重要な意味を含んでいるのではないかと思います。