kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『心霊探偵八雲 魂をつなぐもの』本編第2巻 神永学(著)を語ります!

心霊探偵八雲は、ホラー小説か推理小説か

心霊探偵八雲は、主人公:八雲が死んだ人の魂(つまり幽霊)をみることができるため、オカルトとかホラー小説とかいった類の分類にあてても間違いではないでしょう。

ですが、死んだ人の魂は、もはや何かをすることはできません。
事件を起こすのはいつだって、生きている人です。

始まりは死んだ人の魂に導かれて、事件を負うことになりますが、人が起こす犯罪を推理で解決するのが八雲のライフワークです。
個人的にはやはり、心霊探偵八雲は、推理小説という分類として見るのが正しいように思います。

心霊探偵八雲2 魂をつなぐもの

斉藤八雲:大学生。死者の魂を見ることができる。
小沢晴香:八雲と同じ大学に通う学生。
後藤和利:刑事。
石井雄太郎:後藤の部下。
斉藤一心:八雲の叔父。寺の住職。
畠秀吉:監察医。

【序章】
後藤和利:お巡りさん
サングラスの男:通報者
斉藤梓(八雲の母):子供の母
八雲:子供

【本編】
真由子・美樹:晴香の大学の友人
相澤哲郎:晴香の大学の先輩
綾香:晴香の姉
恵子:晴香の母
小河内:八雲の大学の英語講師
小河内聡子:小河内の娘
井手内:刑事課長
土方署長:警察署長
土方真琴:新聞記者、土方署長の娘
依田巡査部長:交番のお巡りさん
木下英一:産婦人科医
木下亜矢香:英一の亡くなった娘
木下和美:英一の亡くなった妻
内山:水門管理事務所の男性
松本美穂:殺害された少女
加藤恵子:行方不明の少女
橋本留美:殺害された少女
安藤聖:交通事故で死亡した男性
安藤博子:聖の姉
安藤家の家政婦

サングラスの男:?
斉藤奈緒:八雲の従妹?

いくつかの心霊体験を経て、すっかりトラブルメーカーとなってしまった晴香ですが、やはり今回も八雲のもとに幽霊騒動を持ち込みます。

同時期に起こった誘拐事件を解決し、幽霊にとり憑かれた女性を救うために、八雲の冴えわたる推理が炸裂します。

しかしその結果、晴香の持ち込んだトラブルへの対応が後手に回ってしまうんです。
思わぬ落とし穴にはまり、晴香が大変なことに。。。

八雲が晴香を救い出すために、懸命に走る姿が必見です。

【序章】
八雲の母親:梓が、幼い八雲を殺害しようとした時のエピソードが語られています。
八雲は本当に、生まれた瞬間からずっと母親に忌み嫌われていたんでしょうか?
このエピソードだけを読むとそんな風にも思えてしまいます。
そして、この事件が、八雲のこれからの人生を大きく左右したと言っても間違いではないでしょう。
母親との別れ、後藤との出会い、そしてサングラスの男の登場。
運命の歯車が無情な音を立てながら、大きく動いたように感じました。

【第一章 憑依】
前巻で、完全に姉:綾香の事故から立ち直ったと思われた晴香ですが、実は、まだまだ心の奥底にくすぶる火は残っていたようです。
13年もの間、抱えて来た心の重石です。
いくら綾香本人が許してくれたからと言っても、そんなに簡単には吹っ切れるものではないのでしょう。
晴香はたぶん、自分で自分を許すことができないのだと思います。
その気持ちが晴香を突き動かし、友人が体験した幽霊騒動に首を突っ込むことになります。
そして、八雲への特別な感情から、友人の幽霊体験について打ち明けられず、一人で試行錯誤することになります。

一方では、ほぼ同時期に起こった女子中学生連続誘拐・殺人事件が世間を騒がせていました。
そしてその死体発見現場では、サングラスの男が目撃されています。
また別の場所では、土方真琴という新聞記者の女性が、交通事故で死亡した男性の霊にとり憑かれるという騒動が起こっていました。
八雲はこの騒ぎに巻き込まれたことで、女子中学生の事件にも関わることになります。
新たに後藤の部下として加わった石井雄太郎と、土方真琴は、このシリーズの最後まで一緒に活躍する仲間となります。

【第二章 除霊】
真琴にとり憑いた霊と、女子中学生連続誘拐・殺人事件には何か関連があると掴んだ八雲は、後藤と一緒に、事件の捜査に乗り出します。
その過程で、八雲が誕生した時の産婦人科医:木下英一に出会います。
第一の被害者:木下亜矢香ちゃんの父親でもありました。
そして、なぜかそこに晴香がいたんです。
つまり、晴香が首を突っ込んでしまった幽霊体験と、八雲たちが追っている事件が交わった瞬間でもありました。
ここで重要なのは、八雲の家族が新たに登場したことです。
奈緒という耳の聞こえない少女です。
テレパシーのような不思議な能力があります。
晴香には従妹と紹介していましたが、それについてはのちのち語られる日が来ます。

【第三章 蘇生】
八雲と後藤の捜査によって解決したかに見えた女子中学生連続誘拐・殺人事件ですが、新たな被害者が発見され、後藤も警察もパニックに陥ります。
さらに、死体発見現場ではまたしてもサングラスの男が目撃されていました。
そんな中、晴香は木下医師と自分との境遇を重ね合わせて、木下医師に近づいていきます。
木下医師を救うことで自分も救われる。
晴香がとった行動は、晴香自身を危険にさらしてしまうものでした。

【終章 その後】
事件は何もかもすっかり解決したものと思っていましたが、最後の複線がまだ1つ残されていました。
八雲が最初にとりかかった騒動の幕引きです。
最後まで丁寧に描かれています。

【添付ファイル 帰郷】
また八雲の優しい一面が見られました。
八雲は死んだ者の魂を救うのと同時に、生きている者をも救い、生かそうとする。
生きていく道を示そうとしているのかもしれませんね。

【あとがき 著者:神永学】
巻末のショートストーリーは、文庫版のみの特別収録なんです。
事件と関係のない八雲と晴香の日常を描いているそうです。

 

 

 

 



感想

八雲は、「線が細くて色白のイケメン」というイメージがあります。
食も細そうです。
というか、カップラーメンを毎日食べているイメージです。
本編には食事のシーンが出てこないので、実際のところはわかりませんが、出てきたら注目しておくことにしようと思います。

八雲のことは、インドア派だとばかり思っていましたが、どうやら少し違ったようです。
本巻のとあるシーンで、運動神経も良さそうな一面が見られました。

つまり、事件が起きない限りは、例の私物化した部室に引きこもり、ひとたび事件が起これば率先して動くタイプだったということなんでしょう。
確かに心霊探偵なんですから、現場で幽霊に会わなければ、話が始まりません。

母親にさえ忌み嫌われた赤い瞳。
こんな眼のせいで人生台無しだと思うより、せっかくだから利用して生きていこうと、どこかで悟ったんでしょうね。

心霊関係以外では動かないというより、心霊関係でしか、他人に必要とされないと思っている節をどうしても感じます。

自分が誰かから愛されるなんていう概念自体、失念しているようです。
だから、自分が人と関わる接点は心霊関係しかないものと思っているのかもしれません。

当然、晴香が自分の元へくる場合だって、心霊トラブルに違いないと思っているのでしょう。
そんな理由だったとしても、晴香が来てくれるのは、内心嬉しいのかもしれませんが。

むしろ、そんな理由で晴香に頼りにされると、そこから自分の存在価値や意義を見出せるのかもしれませんよね。
晴香は自分の赤い瞳を好きになってくれた唯一の人ですから。

でも晴香の方はどうでしょう。
心霊トラブルの時だけ八雲を訪ねることに、罪悪感を抱きますよね。
八雲をただ自分の都合で利用しているだけのように感じてしまうはずです。
八雲を男性として意識していれば尚更、都合のいい男にしたくはないはずです。

でも意識しているから尚更、会う口実もなく会いに行くことができないのも乙女心でしょう。
二人がいつか素直に向き合ってくれる日を信じて読んでいきたいと思います。

そして、晴香は確実にトラブルメーカーとなってしまいました。
今後も、かなり危ない目に合うことは間違いないでしょう。
晴香は八雲の足かせとなるんでしょうか。
今回のようにカッコよく、毎回、晴香を守って欲しいと期待します。