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『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』本編第1巻 神永学(著)を語ります!

心霊探偵八雲の世界へ!

ある時、本作が、長い年月をかけて、ようやく終わりを迎えたということを、朝の情報番組で言っていました。
ニュースの一つのように取り上げられるというのは、すごいことです。
確かに、ドラマ化もアニメ化も舞台化もしている有名な作品ですからね。

サイドストーリーは、その後も出続けていますが、情報のとおり、八雲の長い闘いを描いた本編はすでに完結しています。

個人的には思い入れの深い物語なので、長く語ってしまいそうですが、少しずつご紹介していきます。

読むポイント①八雲の気持ちを想像せよ

登場人物たちの気持ちや感情は、時折、心の中のつぶやきとして見え隠れします。
ですが、八雲の気持ちだけは、一切語られません。
なので、八雲の動きや顔の表情などを想像しながら、そこから心情も想像しなければなりません。
八雲は一体、いつから晴香を想い始めたのか? 想像してみてください。
個人的には、最初っからなのかなぁと思います。

読むポイント②添付ファイル

巻末に登場する「添付ファイル」というショートストーリーがあります。
ある意味、本編より大事な要素が詰まっているように思います。
心霊探偵八雲2の巻末に、神永先生があとがきで書かれているんですが、この添付ファイルは、文庫版の特典なのだそうです。神永先生が添付ファイルを書く理由も、ぜひ、2巻のあとがきで確認してみてください。
神永先生の八雲と晴香への愛が詰まったショートストーリーです。

心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている

斉藤八雲:大学生。死者の魂を見ることができる。
小沢晴香:八雲と同じ大学に通う学生。
後藤和利:刑事。
斉藤一心:八雲の叔父。寺の住職。
畠秀吉:監察医。
【プロローグ】
 木下英一:産婦人科医
 飯田陽子:看護師
 斉藤梓(八雲の母):妊婦
 八雲:赤ちゃん
【ファイル1 開かずの間】
 美樹・和彦・市橋祐一:晴香の大学の友人
 相澤哲郎:晴香の大学の先輩
 綾香:晴香の姉
 恵子:晴香の母
 高岡先生:晴香のゼミの先生
 篠原由利:女子大生
 山根:大学の校務員
【ファイル2 トンネルの闇】
 中原達也:晴香の知り合い
【ファイル3 死者からの伝言】
 伊藤詩織:晴香の高校時代からの友人
 加藤謙一:心不全で亡くなった男性
 加藤恵美子:謙一の妻
 加藤純一:謙一の弟
1巻は短編集です。
全巻に対するプロローグ的な役割を果たしています。
つまり、これから心霊探偵八雲を読む上での、設定条件が詰まっている巻ということです。
今後の様々な事件に対して関わってくる、大切な何かを含んでいる巻でもあります。

同じ大学に通う八雲(探偵役)と晴香(相棒)が、学内で起こった幽霊騒動を解決するために出会います。
これが運命の始まりでした。
これから始まる二人の物語の最初の事件です。

【プロローグ】
八雲誕生秘話です。
初めてわが子を抱いた瞬間から、母親に拒絶されてしまうという過酷な人生の始まりとなりました。
産婦人科医:木下英一は、のちに起こる事件に再登場する重要人物です。

【ファイル1 開かずの間】
八雲と晴香が通う大学敷地内の奥深く、雑木林を分け入った先に、誰も近づかない廃屋があり、昔から幽霊が出るという噂が。。
その廃屋へ肝試しに行った学生3人が怪事件に巻き込まれます。
この3人は晴香の友人でした。
晴香は心霊現象に詳しいという八雲を尋ね、友人を助けて欲しいと頼みます。
八雲と晴香の出会いのお話であり、晴香の過去が明らかとなり、八雲の赤い眼の秘密も語られます。
決して泣かないと誓っていた晴香が、八雲の前だけでは素直に泣いてしまうんです。
晴香が何回泣くのか、しっかり八雲が数えています。
そして誰に対しても心を閉ざしている八雲が、初対面の晴香に自分の特異体質と、過去に母親との間に起こった不遇な経験を、全部話してしまいます。
さらに、二人の物語の肝になる場面があります。
八雲にとっては生涯忘れられない一言を晴香が言う場面です。
その一言で、八雲の人生は救われることになりました。
八雲は晴香を「君」と呼び、晴香は八雲の希望で「八雲君」と呼ぶことになります。

【ファイル2 トンネルの闇】
死を呼ぶトンネルで、怪事件が起きます。
晴香は、合コンで知り合った達也という男に言い寄られます。
達也の車にしぶしぶ乗せられ、目的地に向かう途中にあるトンネルで、怪事件に巻き込まれました。
当然のごとく、晴香は八雲のもとへと相談に行きますが、達也が一緒だったせいか、八雲の態度は微妙です。
晴香を突き放そうとする態度を取ったり、晴香を引き留めるような言葉を言ったり、少し焼きもちを焼いているようにも見えます。
このお話で重要なのは、八雲の叔父:一心が出てきたことでしょうか。
一心から見た八雲の一端を知ることができます。
八雲の名前の由来も明らかになります。
八雲の家庭事情、八雲が抱える苦しみと苦悩、それらを全部知ってしまった晴香が、八雲と向き合い、八雲のそばにいるという決意をしたように思いました。

【ファイル3 死者からの伝言】
このお話は、晴香が虫の知らせを受け取ったところから始まります。
高校時代からの友人:詩織が、大事なことを伝えるために、霊体となって晴香の前に現れます。
もちろん晴香は、すぐに八雲のもとへと向かい、八雲に助けを求めます。
読んでいる読者も、おそらく八雲も、詩織の身に何かが起こり、もうこの世のものではなくなっている可能性が高いと、予感することができましたが、晴香は、それらの可能性を否定して、詩織を探し出そうと必死になります。
健気な晴香が傷つかないように、八雲は詩織の身に起きた事件を解決しようと動きます。
ですが、やはり予想どおり、悲しい結末を迎えるわけです。
すべての想いがこみ上げて堪えきれなくなった晴香は、八雲にしがみついて泣いていました。

【添付ファイル 忘れ物】
トンネルの事件から1週間後のエピソードです。
晴香が心の中でささやきます。
八雲は、「黙ってれば、かっこいいのに」と。
皮肉屋で素直ではない八雲ですが、実は情に篤く、困っている人を見たら放ってはおけない。
それが、生きている人でも亡くなった人でも。
そんな八雲の魅力を再確認できるエピソードでした。

 

 

八雲について思うこと

八雲は想像していた以上に俺様キャラでした。
自分を他人から遠ざけることで、自分自身を守っているかのような、態度と毒舌ブリです。

眼の色が変わっているという奇怪な性質と、幽霊が見えるという特異体質のせいで、不遇な幼少期を過ごしたのでしょう。

だから、人と深く関わる前に、自分を知られてしまう前に、嫌われてしまう前に、自ら人を遠ざけるといった感じに見えます。

特定の誰かに心を許すのが怖いのかもしれません。

でもいいことが全くないわけでもないように思えます。
両親との関係は良好ではなかったかもしれませんが、命の恩人とは腐れ縁になったわけですし、叔父さんには間違いなく愛されています。

限られた少数の理解者たちは、八雲を正面からちゃんと見て、存在を認めてくれてもいる。
広く浅い関係性を築くより、本当の自分をわかってくれる何人かを大切にしたほうがいいという考え方もあります。

誰もが忌み嫌う八雲の左眼を、晴香だけは好きになってくれたんですから、それでもう十分なのかもしれません。

八雲の葛藤=晴香を遠ざけなきゃいけないという論理的思考と、晴香をそばに置いておきたいという強い願望=が見え隠れする一瞬一瞬を見逃さないように読んでいきたいと思います。

八雲と晴香について思うこと

八雲にまとわりつく霧も、幾重にも重なる無数の雲たちも、一瞬にして吹き飛ばして晴にしてくれる。
晴香は八雲にとってそんな女性なのではないでしょうか。
晴香が隣にいれば、八雲も青空を見ることができる。
心の闇すら振り払ってくれる。
彼女が居るだけで一瞬にして幸せになれる。
八雲にとって、晴香との出会いは、そういったものだったのでしょう。

晴香は一見、普通の女子大生です。
本人は自覚していませんが、ちょっと可愛いのだと思います。
たぶん八雲もそう思っているような気がします。

二人の出会いは、運命的でもなんでもなく、単に晴香が八雲に会う必要があったからというだけのものでした。(→実は、この解釈は、のちに大きく覆ります!)

けれど、八雲がどんなに毒舌で晴香を攻め立てても、そのことで八雲から離れるという思考は、存在すらしていないようで、文句を言いつつ、結局は八雲のところに戻ってきます。

純粋で人を疑うことを知らない晴香は、さまざまなトラブルに巻き込まれていきます。
八雲と出会ったこと自体、トラブルだったのかもしれません。

最初から最後までずっと危ない目にあう晴香を、助けずにはいられない。
晴香は周りの人にそう思われるだけの魅力がある女性です。
そんな魅力に、八雲がどんどん惹かれていくさまを楽しみながら読んでいきたいと思います。

最後に、どうしても思ってしまうことがあります。
八雲は、生きている人には、冷たい態度を取るんですが、亡くなっている人には、優しいように感じてしまうときがあるんです。

生きているときには、赤い眼のせいで向き合うことができない人でも、亡くなってしまったら、八雲を受け入れるしかなくなると、わかっているからなんでしょうか。
皮肉なものです。
でもそれでも、八雲は亡くなった人に寄り添って、希望を叶えようと行動します。
それがある意味において、八雲の生きる意味になってしまっているような気がするんです。
そこが少し心配です。

晴香目線の八雲

1巻を読み終わったところで、試しに晴香から見た八雲の容姿や雰囲気を追ってみました!
長身。陶磁器のように白い肌をしている。薄く赤い唇。鼻筋は真っすぐ伸び、尖った顎。モテそうな青年。長く白い指先。切れ長の目。整った眉。黙ってれば、かっこいい。

上げてみると、こんな感じでしょうか?
皆さんはどう思いますか? 
八雲は絶対、イケメンですよね。
少なくとも晴香の目には、そう映っていますし、作中に登場した晴香の友人も、いい男だと言っていました。

晴香は容姿で恋人を選ぶわけではないタイプですが、読者としては、やっぱり八雲はイケメンのほうがいいです。