kei-bookcolorの文庫日和

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『後宮の烏2』『後宮の烏3』白川紺子(著)の感想を書きました!②

籠の中の鳥

皇帝:高峻は、間違いなく美しい顔立ちをしています。
ですが、あまり男性としてモテている印象がないのです。

本人も後宮というものに嫌気を感じているようですし、どちらかと言うと、後宮を憎んでいるのかもしれません。

ですが、後宮を無くすことも、後宮をないがしろにすることも、結局は国の破滅を招くことに繋がるとわかっているため、後宮には角が立たない程度に通っているという印象を受けます。

重役たちの娘を、重役たちのご機嫌を損ねないように、後宮に向かい入れ、妻として見合った位を授ける。

位に見合う程度に妻の元へ通う。
夜伽も皇帝として最低限の回数をこなす。
どの妻たちにも優しく、平等に気遣い、心配もする。
それらを全部、淡々と、仕事のようにこなしている。
後宮では単に世渡り上手に過ごすだけの男性に成り下がっている。
そういう印象なのです。

後宮以外では、その手腕を発揮して国政を行っているのでしょうけど、後宮においては、あまり皇帝の威厳のようなものは感じられません。

そして、皇帝以外の男性を愛している妃もいるのです。
それすらも高峻は容認しているのです。
嫉妬もしません。
なぜなら後宮にいるどの妃にも心を奪われていないし、奪われることはありえないとわかっているからです。

うまく言葉に表現できないのですが、高峻が収める後宮は、不思議な雰囲気を醸し出しています。
高峻という主と同じような雰囲気をまとった後宮と言ってもいいのかもしれません。

もしかすると高峻は、皇帝になることを、本当は望んでいなかったのかもしれません。
他に皇帝になるべき人間がいなかった。
皇太后のせいで腐敗した国を救いたかった。
そのためには皇帝になるしかなかった、ということなのかもしれません。

そうなってくると、寿雪以上に、高峻の方が、籠の中の鳥にも見えてくるのです。
だからこそ高峻は、寿雪だけでも外に放ちてやりたいと願うのでしょう。

高峻は、寿雪と出会った時に、自分の妃にしたかったのではないかと思います。
ですがそれはまだ、寿雪のことを何も知らず、ただ後宮の奥深くに一人侘しく朽ちていくことを不憫に思ったからなのでしょう。

高峻は、後宮で不遇な生涯を送る女性を救ってやりたいと思っている節があります。
亡き母の無念を思い、代わりに他の女性たちを救いたいと思っているのかもしれません。

正式に自分の妃になれば、それなりの待遇もできるし、他の妃と同様の幸せを与えることができると思ったからなのでしょう。

ですが、寿雪のことを知り、そして烏妃の秘密を知っていく過程で、妃として扱うわけにはいかないという気持ちになっていったように思います。

なぜなら、高峻にとっての妃は、特別な存在の女性ではありませんし、特別にはなりえない存在だからです。

寿雪が特別な人になればなるほどに、高峻の妃からは遠ざかっていくように思います。

高峻は、これまでにこの国で起こった間違いを正し、寿雪を本来あるべき姿に、歩むべき道に戻してやりたいと、自由にしてやりたいと思うようになっていくのです。

その高峻の想いが、寿雪の未来をどう切り開いていくのか、期待しながら読みましょう。

後宮の烏2

満月は煌々と後宮を照らし、後宮は赤赤と輝き、烏妃を挟んで、梟と烏が睨みあう。
そんな表紙です。
烏妃は、何も飾らず、必要なものだけを身に着け、ひっそりと佇む女神のようです。

寿雪にかかわると、皆が寿雪を好きになる。
皆が寿雪になつく。
そんか感じになってきました。

寿雪が猫なら、高峻は犬なのでしょうか。
律儀に、忠実に寿雪を守っているようにも見えてきます。

高峻は無表情ですが、寿雪と一緒にいる時には、たまに笑うようになりました。

宦官の温螢も、いつの間にか寿雪の宦官になりつつあります。
そういえば温螢も無表情なんですけど、寿雪と一緒の時には、表情が豊かになって来たように感じます。
よくしゃべるようにもなって来ましたしね。

寿雪は、皆が心に負った傷をいやし、溶かして流してくれる巫女のような存在なのではないでしょうか。

とにかく、夜明宮は思いのほか早く、人が集まってきてしまったようです。
寿雪が素で見せる優しさに、みんなが気づいてしまったのでしょう。

今回は、寿雪がかなわないほどの強敵が現れます。
どう乗り切るのか、最後まで分からなかったので、かなりハラハラしました。

終わりではないのですが、とりあえず今直面している危機は、乗り越えたんだと思います。
ですが、大きな爪痕を残してしまいました。
その爪痕が、今後の展開にどんな影響を及ぼすのか、心配です。

夏の王と、冬の王は、心を通わせようとすればするほどに、破滅の運命へと導かれていくように感じます。

運命は、二人が諦めてしまうことを望んでいるのでしょう。
それでも二人が最後まで諦めなかったら、すべての理を乗り越え、ともに生きる道が開かれるのでしょうか。
そう信じたいと思います。

後宮の烏3

何やら物思いに耽っている烏妃が表紙です。
深淵をのぞき込もうとしているようにも感じます。
小さく儚げなこの少女は、周りにどんなに人が集まってきても、やはり、孤独なままで生きていることに、変わりがないような感じがします。

前巻で高峻の体に残った傷跡は、思わぬ方向へと舵を切りました。
今のところ、高峻と寿雪にとっては、良い方向へと向かっているように思います。

たとえ敵であっても、目的が同じであるなら、手を組むこともやぶさかではない、という感じでしょうか。

そして侍女の九九の突っ込みが絶妙のタイミングで面白く、突っ込みに磨きがかかってきたようにも感じます。

ところで、高峻と衛青に仕えていた宦官:温螢ですが、いつのまにか温螢にとっての一番が、寿雪となってしまったようです。

そして寿雪にとっても、温螢は自分のすべてを任せることができる特別の存在へと変化してしまいました。

さらに、淡海という弓の名手の宦官が夜明宮に、寿雪警護に加わることになりました。
淡海は、何やら一瞬で、寿雪に懐いてしまったようです。

淡海が今後、どう役に立つのか、もしくは足をすくうのか、ちょっと楽しみになりました。

前巻から寿雪の宦官になった少年:衣斯哈ですが、出会ったのには意味があったようです。
寿雪にとって吉となるのか凶となるのか、全く予測がつきません。

寿雪に唯一なびかない、寿雪を嫌っている宦官:衛青ですが、何という運命の巡り合わせなのでしょうか。
衛青だけが気づいてしまった秘密を、いつか打ち明ける日がくるのか、それも楽しみとなりました。

衛青にとって高峻は、本当の意味で命の恩人だったのだと思います。
体も心も救ってくれた人だったのでしょう。
でも衛青にとっての高峻は、ただの恩人ではないのかもしれません。
もしかすると愛する人なのかもしれません。
ずっと片思いのままでいる道を選んだようにも思えてきました。

本巻で起こった様々な事件を、寿雪が解決したことによって、寿雪は、おそらく後宮の女神のように、慕われ扱われていくような感じがします。

皇帝が長年かけて手に入れた、友も部下も、妃も、全部あっという間に烏妃に取られてしまう結果になりそうです。

だから、皇帝と烏妃は、相反するままでいなければならなかったのかもしれません。
それに気づいても、もう元には戻れない。
一度手にとってしまった温もりを手放すことは、おそらく無理なのでしょう。