kei-bookcolorの文庫日和

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八咫烏シリーズ⑤⑥『玉依姫』『弥栄の烏』阿部智里(著)をご紹介します!

あとがきと解説について

前巻の解説にありましたが、今回ご紹介するシリーズ第5弾「玉依姫」は、阿部先生の原点と言ってもよい作品でしょう。

「玉依姫」を最初に執筆されたのが高校生の頃だったようなので、、
初めて書かれた原稿からは、大幅に改稿はされたのでしょうけど、これをおそらく十代の頃にはすでに世に出していたのかと思うと、感動というか感激というか、とにかく、すごいことだと思います。

これまでの八咫烏シリーズ①~④がスピンオフ作品で、5作目の「玉依姫」が本当の物語の始まりだったのです。

主人公の志帆は高校生、阿部先生もこの作品を書いた当初は、同じく高校生。
ある意味、志帆は阿部先生自身なのかもしれません。

「玉依姫」巻末には、阿部先生のあとがきがあります。
その後に、阿部先生と荻原規子先生の対談もありますので、そちらもぜひお楽しみください。
互いが、互いの作品のファンになって、ファン同士がお話している感じ、お二人の作品への思いや盛り上がりが、読み手にも伝わってきました。

さらに「弥栄の烏」の巻末には、夢枕獏先生との対談もあります。
対談の中で、3作目の「黄金の烏」が最後まで初めて描き切った、阿部先生のデビュー作になるらしいことをおっしゃってました。

夢枕獏先生と阿部先生だと、おそらく、おじいちゃんと孫くらいの年齢差なんじゃないかと思います。
阿部先生が、夢枕獏先生に色々聞いてくれるんですよね。
特に「陰陽師」のことを。
私もそれ聞きたかったていう話題を。
年齢も世代も小説家歴も超えて、本音の楽しいトークが見れて、良かったです。

玉依姫

本巻では、雪哉は全く出てきません。
いや、もしかしたら出ていたのかもしれませんが、読んでいる我々には、その存在は感じられませんでした。

そして、若宮をかばって大ケガをするモノがいます。
また、亡くなったモノもいます。

それらが誰だったのか、作中では名前などが出てこなかったので、わからないんです。
雪哉がどうなったのか、雪哉の友人たちがどうなったのか、非常に心配なところです。

本巻はその名のとおり、玉依姫が主人公です。
新たに登場する玉依姫:志帆(女子高生)の物語です。

前巻で開かれた禁門の向こうがどうなっていたのか、その答えはあっさり解明されました。
そして、禁門の向こうにいる山神を相手取るお話でもあります。

山内を作った神でもあります。
猿と戦う前に、山神と対峙することになった若宮の苦悩が語られていました。

猿がなぜ八咫烏を食らうのかも、わかったような気がします。
山内という異世界の存在価値もわかって来ました。
山内は、何百年経とうとも、化学や科学の発展しない、古典の世界の中でしか生きられない八咫烏たちの物語だったのです。

そして、山内は、現代の私たちと同じ時代に存在する異世界だったのです。

今回もこれまで以上に、予想の範疇にないところから、お話が始まりました。
明後日の方向からやってくるので、新鮮な驚きがあり、味わったことのない感覚に見舞われることになります。

最初は、私がこれまで読んできた山内とは別の時間軸のお話なのかな?
と誤解するほどに、全くもって、同じシリーズとは思えませんでした。

ですが、この裏切りに近い展開は、読んでいくうちに心地よいものへと変化して、最終的には、なるほど、こういうことだったのかと納得させらてしまうんです。

これぞまさに新感覚!
何とも言えない奥深い味わいを、ぜひ皆さんも味わってみてください。

弥栄の烏

本巻は、前巻「玉依姫」の裏側で起こっていた八咫烏たちの物語でした。

予想通りでした。
前巻で、亡くなった烏の中に、雪哉の同胞たちがいたのか、若宮をかばって重傷を負った者が誰であったのか、気になって気になって仕方なかったんですが、明かされる時が来たわけです。

若宮と雪哉を本当の意味で守る者が、減ってしまったように思いました。
若宮と雪哉の今後がものすごく心配です。

そして山内という世界の生末も心配です。
若宮と雪哉は、山内を守るために、別々の選択をして、ともに歩まなければならない同志になってしまったのかもしれません。

山内を犠牲にするか、山内を守るために、何かが誰かが犠牲になるのか、今後の展開が、全く想像できません。

守るモノと、守りたいモノと、守っていかなくてはいけないモノがあるんですよね。
それが同じ陣営にいても、人それぞれ違うわけです。

違う中で、一緒の道を選んで歩むことは、とても困難だと思います。
いつかこうするしかなかった、仕方がなかったと、言い訳しなければならない日々が来るのかもしれませんよね。

山神の影響もあるでしょうけど、山内自身が、変わっていく時が来たわけです。
外界への扉は開かれてしまったようにも思います。

シリーズを振り返って

ここから先は、第一部の結論に近いことを書きますので、まだ本作を読んでいないという方は、読まない方がいいかもしれません。

本シリーズは、今回ご紹介した「弥栄の烏」で、第一部が終了ということになるのかと思います。

「弥栄」という言葉の意味をネットで検索してみると、より一層栄えることや、繁栄を願うといった意味があるようです。

ぴったりの言葉だと思う反面、なんという皮肉なのか、という気持ちもあり、複雑な心境になります。

やっても無駄なことはやらなくていい、
そんな人生を送っていたであろう田舎者の雪哉を、無理やり、中央に引っ張り出してきたのは、若宮である真の金烏です。

先代の金烏が封印した禁門の結界を解いてしまったのも、若宮である真の金烏です。

真の金烏が選択することすべてが山内と呼ばれる異世界を守ることにつながる。
そう信じて読み続けてきました。

おそらく、先代の金烏までは、真の金烏の役目はそのとおりだったのでしょう。
ですが、先代の金烏は、山内を守るために、山神と真の金烏を捨てることにした。
山神と真の金烏を、八咫烏たちが忘れ去ってしまえば、存在しなかったことになるし、山内という異世界は、延命できる。

根本的な解決ではなく、一時的な措置だったとしても、山内を一日でも長く存続させるための唯一の手段だったのかもしれません。

だから100年間、真の金烏は生まれてこなかったのでしょう。
だとすると、若宮が真の金烏として生まれてきた意味は、どういうことだったのでしょうか?

これまでの若宮の選択を鑑みると、おのずと答えが見えてきそうです。
そして雪哉も、ある大きな決断をしたように思います。

こんなにまで雪哉を好きにさせといて、読者に対してあんまりではないですか!
という気持ちと、
誰かがやらなくてはならないことだから雪哉がやるしかないんだ!
という気持ちが複雑に絡み合っている心境です。

1作目と5作目以外は、どう考えても雪哉が主役なんです。
雪哉が登場した時点からすでに、この物語は雪哉のものだったのかもしれません。
他の誰にもできないことを雪哉が今後、どうやっていくのか?
雪哉の周りのものたちが、どう動くのか?

怖くもあり、期待もあり、複雑な葛藤もある中、これからも読み続けていきたいと思います。