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八咫烏シリーズ外伝①②『烏百花 蛍の章』『烏百花 白百合の章』阿部智里(著)をご紹介します!

本編には収まりきれないエピソード

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、
八咫烏シリーズはすでに第二部が始まっています。
現時点で、文庫はまだ1冊しか出版されていないため、もう少し待ってから第二部を読み解きたいと考えています。

本シリーズは、これまでの流れで行きますと、2冊一緒に読んだ方が、物語の裏表が同時に楽しめるように思えるからです。

そして、第二部に入る前に、読破しておきたい外伝について、ご紹介しておきたいと思います。

本編はあくまで、山内という異世界を守るための闘いですから、どうしても恋愛関係の話は、複線としてしか描けないという側面を持っているのだと思います。

本編の中で、何かがあったらしいと話題には出ますが、内容の詳細は取りこぼされてしまっていました。

その辺の詳細な経緯を中心に収めた短編集が、文庫で2冊出版されています。
もちろん恋愛以外のお話もあります。

本編のような危険と鉢合わせのハラハラした感じや、叙述トリックはありませんので、純粋に、登場人物たちの日常を楽しめると思います。


登場人物紹介

今頃になって、人物紹介なんて何?と、思われるでしょう。
これまでは、人物紹介ですら、何かのヒントになりかねないと思っていましたので、特定の人物名すら、主役以外は、ほとんど書かないようにしてきました。

ですが、第二部がすでに始まっていますので、第二部に向かう前に、一旦整理する意味で、こちらに第一部の主要キャラクターを記載しておきます。

●奈月彦(なづきひこ)
普段は若宮および日嗣の御子と呼ばれています。
山内と呼ばれる異世界のすべての八咫烏を統べる「金烏」(帝のような存在)として宗家に生まれてきました。

●雪哉(ゆきや)
四大貴族の一つである北家当主の正当な孫として生まれてきました。
少年時代に若宮と出会い、若宮の近習となります。
その後、勁草院という厳しい武官の養成所に入り首席で卒業。
山内衆という宗家直轄の近衛隊に入ります。

●澄尾(すみお)
若宮を護衛する筆頭の山内衆。
若宮の幼馴染であり、最大の味方であり、友人でもある。
西領出身の山烏ですが文武両道の秀才でもあります。

●長束(なつか)
若宮の兄で宗家の長男として生まれる。
朝廷は長い間、長束派と若宮派に分かれて争っていたが、長束自身は弟を愛し守り続けている。
出家後、明鏡院院主となる。

●路近(ろこん)
長束の護衛で明鏡院所属の神官。

●浜木綿(はまゆう)
奈月彦の正室で、桜の君と呼ばれる。
南家の長姫として生まれたが、両親が罪を犯たため身分をはく奪され、山烏として幼少期を送る。
幼少期時代に若宮と出会って、若宮の親友・悪友となる。

●紫苑の宮(しおんのみや)
奈月彦と浜木綿の一人娘。

●真赭の薄(ますほのすすき)
西家の美姫。
かつては若宮に恋をして、その正室の座を射止めようとしたが、実らず終わる。
浜木綿の人としての魅力に気づくと同時に出家し、浜木綿付きの筆頭女房となる。

●明留(あける)
西家の御曹司で真赭の薄の弟。
勁草院で雪哉と出会い、貴族としての傲慢な考え方を改めたのち、若宮の側近となる。

●茂丸(しげまる)
山内衆で、雪哉の勁草院時代からの親友。
本当の意味で雪哉の心の支えとなっている存在。
大柄で優しく、みんなに慕われている。

●千早(ちはや)
山内衆で、雪哉や明留や茂丸の仲間。
南家出身で苦境に立たされていた頃、勁草院で出会った明留に助けられる。

●結(ゆい)
千早の妹。
目が不自由であり、不遇な幼少期を千早と一緒に乗り越える。

●市柳(いちりゅう)
山内衆で雪哉の幼馴染。

●治真(はるま)
山内衆で雪哉の後輩。
雪哉を慕い続けている。
勁草院時代に猿に誘拐されたことがある。

●あせび
八咫烏シリーズ第1巻の主人公。
東家の二の姫で、若宮に恋をして、正室の座を射止めようとしたが、実らず終わる。

●大紫の御前
長束の母で、長束と若宮の父である金烏代の正室。若宮の政敵。
後宮の権力を握っている。

烏百花 蛍の章

本作は短編集となっています。

しのぶひと
本編の中で少しだけ触れられていましたが、雪哉と真赭の薄の縁談話の真相が語られています。
誰が誰をしのぶのか、それは本編を読んだ方ならすでにお気づきでしょう。
なのでそこは一旦外して、別の事を考えてみたいと思います。

若宮は、正室の浜木綿から再三、側室を持つようにと言われ続けています。
その側室は真赭の薄がいいと、ずっと言われ続けています。
ですが、ずっと断り続けているんです。

理由は、真赭の薄が西家の姫だからです。
西家が外戚として権力を持つことを避けるために、真赭の薄を側室にすることはできないと言い続けています。

でも他の側室を持つことも嫌がっているんです。
四大貴族のどの家にも権力を持たせたくないからなのだとは思います。

ですが、本当にそれだけなのだろうか?とも思うんです。
真の金烏は、すべての八咫烏を平等に愛しているため、逆に心がない、あったとしても感じることができないと言われています。

ですが浜木綿にだけは、他の女性とは全く違う、特別な存在としか思えない言動や行動をとっていることもまた事実としてある。

感じることはできなくても、本当は心の奥底には、やはり感情の波が生まれているのではないかなと思うわけです。

だから、本質的に、浜木綿以外の女性と添い遂げることを嫌がっているのではないでしょうか?
読者としてはそう思いたいところです。

すみのさくら
浜木綿が両親の死後どのような境遇で、どのように生きてきたのかが描かれていました。

そして若宮との運命的な出会いのお話でもありました。
それは、浜木綿が若宮に恋を超えた深い愛情を持つ瞬間でもありました。

浜木綿が自分の命を何に使おうとしているのか、はっきり分かりました。

まつばちりて
こちらは落女が恋をするお話でした。

落女(らくじょ)とは、戸籍を捨て男として朝廷で働く女性のことを言います。
朝廷においては男と同等の扱いとされるようです。

本編の物語とは全く関係のない場所で起こったエピソードで、ひっそりと幕を閉じる悲恋物語でした。

ふゆきにおもう
雪哉の生みの母親と、雪哉の育ての母親のお話でした。
雪哉の頭脳や性格は生みの母親譲りだったということになるようです。
雪哉の母たちは、どちらも素敵なお母さんだったんです。

このお話では最後に、若宮らしき大烏が登場します。
とっくの昔に、雪哉と若宮は出会っていたのかもしれません。

雪哉は若宮に救われたわけです。
救われた命を若宮に捧げる運命にあったということになるのかもしれません。

ゆきやのせみ
雪哉が若宮の無理に答えて、痛い目に合うお話です。
二人が出逢った頃は、こんな感じだったように思います。

まだちょっと大人になる前の最後の雪哉に出会えたように思います。
素直で真っすぐで、腹黒さをそんなに出してない頃の最後の雪哉なんだと思います。

わらうひと
真赭の薄と澄尾のその後のエピソードでした。

真赭の薄は貴族ですし、自分の意志で恋愛することはできないんでしょうし、結婚も貴族とするしかないのでしょうけど。。
真赭の薄にも澄尾にも、いつかは幸せになって欲しいものです。

本巻最後のページに、すてきな言葉があります。
名言だと思います。
自分の気持ちは、自分自身でもままならないということなのだと思います。

巻末
阿部智里先生のあとがきがありますので、ぜひ、こちらもお楽しみください。


烏百花 白百合の章

本作は短編集となっています。

かれのおとない
雪哉と茂丸と茂丸の家族とのあたたかなエピソードでした。
少し泣けてきます。
茂丸が雪哉にとって、そして二人を囲むように関わってきた人々にとって、どれほど大切な存在であったのかが、身に染みて感じられるお話でした。

ふゆのことら
雪哉と市柳の少年時代のエピソードでした。
市柳は雪哉と勁草院で再会したんですが、その時、市柳が雪哉に怯えているようだったのと、ぼんくら雪哉として北領では有名な雪哉が、本当はぼんくらではないことを知っていそうだったので、二人の間に何かがあったと思っていたんです。
そこら辺が明らかとなるお話でした。

ちはやのだんまり
千早と結(兄妹)のお話でした。
なんと結に交際相手が出来ました。
結が交際相手を千早と明留に紹介したんですが、二人が猛反対します。
結の恋がどうなるのか、千早がどうするのか、明留がどう絡むのか。

このシリーズが始まった当初、真赭の薄と明留(姉弟)は、駄目な貴族の姫とボンボンとして描かれていて、全く期待できない存在でした。
ですが、第一部が終了した今となって鑑みるに、一番まともなヒトだったように思えてきます。

あきのあやぎぬ
真赭の薄と明留の兄で西家次期当主になる顕彦の結婚生活についてのエピソードでした。

お金持ちのボンボンだからできる暮らしっぷりです。
よく真赭の薄と明留に怒られないで生活できるなと不思議には思います。
真赭の薄と明留は、不誠実な人を許すようなタイプではないからです。
ということは、顕彦は、あれでもいちお、誠実に生きているってことになるのかもしれません。

おにびさく
西領の「鬼火灯籠」職人のお話でした。

「鬼火灯籠」は、雪哉が猿の侵入ルートを探っていた際に、使用していた照明道具なので、どんなものなのかと気にはなっていたんです。
想像するに、「灯籠」「行燈」「提灯」が合わさったような道具で、持ち運びができるものなのかなと思います。
雪哉が使用していたのは、散策に便利な形状で、懐中電灯の代わりになるようなものだったのだと思います。

本エピソードで語られている「鬼火灯籠」は、貴族が使用する高級品のため、美しい形状のもので、飾り用のおしゃれな電気スタンドのようなものなのではないかな?と想像します。

なつのゆうばえ
南家現当主とその姉である大紫の御前の関係性を物語るエピソードでした。

大紫の御前は、若宮を排して息子である長束を金烏代にすると当時に、弟である南家現当主に、朝廷の最高位の位を与えようと画策していたのですが、どうして弟にこれほどまでに固執するのかが、良くわかるお話でした。

はるのとこやみ
八咫烏シリーズ第1巻の主人公:あせび(東家二の姫)の出生の秘密が明らかとなるお話でした。

きんかんをにる
若宮と娘である紫苑の宮とのエピソードでした。
こちらは第二部に繋がる重要なお話になるように思います。
雪哉と浜木綿も登場します。
この時期の4人の関係が今後どうなっていくのか、なぜか一抹の不安がよぎります。

巻末
阿部智里先生のあとがきがあります。
『烏百花 白百合の章』に関しては、第二部の1作目である『楽園の烏』を読んだ後に読んで欲しいと、おっしゃってます。
つまり出版された順番に読むということです。

実際にその順番で読んだのですが、、

第二部のスタート作品なので、『楽園の烏』を読むと、新たに発生した問題に対して当然、疑惑や疑問が沸々と湧いてきます。

その後に『烏百花 白百合の章』を読むと、それらがすべて幻のような気分にもなります。
阿部先生のおっしゃっている順番で読むということは、すでに、叙述トリックに巻き込まれているということになるのかもしれません。

なので、ぜひ皆さんも、阿部先生のおっしゃっている順番で読んで、騙されてみたほうがいいように思います。