kei-bookcolorの文庫日和

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『トリックスターズ 』『トリックスターズL』『トリックスターズD』久住四季(著)をご紹介します!パート①

『トリックスターズ 』をメディアワークス文庫で読む

今回ご紹介するのは、2005年6月に久住四季先生のデビュー作として、電撃文庫から刊行された『トリックスターズ』の新装版になります。
先生のあとがきがありましたので、そちらを読むと、ご自分の原点と向き合いながら改稿されたとのことです。

電撃文庫版は残念ながら知らなかったのですが、、
本作の存在を知ったのは、シリーズ最初の2作品『トリックスターズ 』『トリックスターズL』がメディアワークス文庫の棚に平積みで置かれているのを見た瞬間でした。

自分自身を覆い隠すように黒を身にまとい、黒いオーラさえ発していそうな表紙の男性に釘付けになりました。

全部で6冊出ています。

2016年1月から3ヶ月くらいの間に、全6冊がメディアワークス文庫から発売されてしまったので、時間を置くことなく、いっきに6冊を読破することができ、読み終わった後の達成感はひとしおでした。 

なるほど、ラノベにしておくにはもったいない、すごい作品だと思いました。

久住先生が、慎重に物語を綴っているという雰囲気を感じます。
ゆっくり、わかりやすく、言葉尻を拾っていくように、読者をリードしています。
このリードが最終的には問題なんです。

時には読者に有利に働くし、時には読者のミスを誘う。
題名からしても、わかっていたつもりでしたが、やっぱり騙されます。
そして読み応えも抜群です。

設定は虚構の世界になりますが、さほど私たちの世界から乖離されたものではありませんし、本格ミステリーと言っても良いかと思います。


トリックスターズ

本作は、「この世界には魔術師がいる」そんな虚構の世界を描いた作品でした。

主人公は、天乃原周(あまのはらあまね)です。
年に1度、神々が集う島根県出身です。
名前からして変わっているというか、不思議な名前です。
登場人物の名前はそれぞれ凝っていると思います。
ラノベらしいと言えばらしいです。

周は、魔学部に入学し、魔術師と出会います。

魔術師は現代では絶滅危惧種に近い状態で、世界に数人しかいない事態です。
そんな魔術師とここで出会うことは、偶然ではなく必然である可能性が高く、まさに運命だったのでしょう。

新たな、探偵ホームズと助手ワトソンの誕生でもありました。
先生と生徒、探偵とその助手という位置づけで、この物語は進んで行くのだと思います。

魔術師:佐杏冴奈(さきょうしいな)は(本名かどうかわかりませんが)、一見女性のような響きの名前ではあるんですけど、どうやら表紙の男性のようです。
長身のようですし、ダークなイケメンを連想しながら物語を読み進みました。

佐杏は果たして、善なのか悪なのか? 

読者側としては今のところ、善悪の判断が付きません。
そして、本人自身も善悪の判断ができてない可能性があります。

でも、探偵の原則に従いたくなるという、読書家の性なのか、やっぱり、佐杏は善であるということをどっかで信じたいと思っている自分がいます。

佐杏には佐杏なりの善があり、その善は私たちの日常にある善とは少し違っているのかもしれませんが、人の命を守るという観点においては、同じ善を持っている。
と信じていたいわけです。

表面的には誰にでも優しく、心を許した者には我儘を言い、嫌いな者や、自由を奪おうとする者には尊大な態度をとる。

制限があっても自由に生きている。
そして、冷たく冷めた人間ではあっても奥底には、ほんのりとした愛情がある。
そんな風に感じる人物です。

魔術師とは、もしかしたら孤独な存在なのかもしれません。
本当の意味で、誰かを理解することも、理解されることも、一生ないような気がします。
佐杏が何を思って生きているのか、気になるところではあります。

佐杏が保護を受けていたオズ(魔学結社)から出たことによって、今後、トリックスターズが巻き起こす事件に、周も、読者も遭遇することになるんでしょう。
とても楽しみです。


トリックスターズL

表紙の絵の佐杏が、座った目で、じっとこちらを見ています。
何もかも見透かされてしまったような気さえしてきます。
常人には見えない何かを捉えて、ただ黙って見ている、そんな雰囲気も感じます。

シリーズ2作目はクローズドサークルでした。
推理作家ならば、1度は挑戦する難題でもあります。

魔術師相手にクローズドサークルが成立するのか? 
むしろそちらの方が大変な感じがします。

1作目では、周の風貌をボーイッシュなイメージで捉えていました。
短髪でTシャツにGパンといったイメージです。

ですが周の容貌は、1作目を読み終わった瞬間、ガラっと変わります。
頭は良いけど、ちょっと抜けていて、ちょっと人見知りな魔術師の助手である周。
2巻以降は、本来の正しいイメージで評価することになります。

本巻では、兄妹愛がテーマだったようにも思えます。
事故で幼くして両親を失い、オズ(魔学結社)に囲われるしか生きる道が見いだせなかった兄妹が登場します。

互いが互いを思って、互いを生かすために生きているんです。
そこには生きるために必要だった「嘘」が存在していました。
その嘘が白日の下にさらされたとき、悲劇は起こったのです。

世の中には知らなければ良かったと思う真実もたくさんあります。
知らなければ生きていけない真実もあれば、知らないことで幸せに生きていける真実も確実にあるのです。

だから、誰かを思って嘘をつく時には、覚悟が必要なんだと思います。
絶対に、バレないように慎重に生きて行かなければならない。
もしいつかバレてしまった時には、どう対処するのか腹をくくらなければならない。
そんな感じです。

相手を思って、相手に良かれとついた嘘は、ある意味真実だと思います。
自分の利益を優先する嘘はダメですが、相手を守る嘘は必要な嘘だと思います。

でも、嘘はやはり嘘なんです。
いつかはバレます。
一生つき続けることはできないでしょう。

だから、すべてを背負う覚悟をしなければなりません。
周にはそれができるんでしょうか? 
そして周を巻き込んだ責任を佐杏は取れるんでしょうか? 
なるたけ嘘のない人生を送ることが幸せなんだなと思いました。


トリックスターズD

表紙の佐杏は、背後に何かをかばいながら立っているようにも見えます。
気になるのは自分の後ろに控える誰かのようです。
けど、振返りはしない。
振返らなくてもわかっている、そんな風にも感じます。

大学と言えば学園祭。
意外に祭り好きな佐杏と、予想通り消極的な周。
これはトリックスターズの物語です。

学園祭なんておあつらえ向きの舞台を利用しない手はないですよね。
かなり大掛かりな仕かけをした事件が起こります。

今回も何が起こっているのか、全くわからない展開が続きます。
そして、本巻もある意味において、クローズドサークル的な要素が散りばめられていました。
前巻とは、全く違った装いでしたが。

それにしても、周は着実に成長して来ています。
もともと頭脳派なんでしょうけど、佐杏と関わることで、頭脳も体も使って、進歩し続けています。
たぶん、佐杏の予想を遥かに超える勢いで。

思えば、世界に6人しかいない魔術師のうちの3人と遭遇し、その中の2人と密接に関わってしまったのだから、これはもう偶然とか必然とかいう問題ではないのかもしれません。

言わば、運命です。

周の人生は、全く予想も出来ない方向に花開く感じがします。
とても楽しみです。

どんな魔術師が表れても、どんな仕掛けで責められても、1歩1歩、確実に正しい方向へ進み、1つ1つ問題を解決していく。

そして強運です。
最初に佐杏と出会い、味方にしてしまったわけですし。

クローリー3世という強敵と渡り合わなければならない。
だから成長できないはずはないんです。

世界で1番の強運の持ち主なのではないかな?と思います。
いつか最強魔術師:佐杏をも超える存在にもなれるかもしれません。
助手の立場から、ライバルに昇格する日も、遠くない将来にきっとくるんでしょう。
すごく楽しみです。