kei-bookcolorの文庫日和

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八咫烏シリーズ③④『黄金の烏』『空棺の烏』阿部智里(著)をご紹介します!

物語は新たな展開へ移行する

前回ご紹介した1作目2作目は、八咫烏の世界を統治している事情がメインで語られていました。
つまり権力中枢である朝廷がどうなっているのか、後宮はどんな感じなのかといったものです。
優雅で、きらびやかな世界は、人の奥底に眠る醜悪で成り立っている。
それを如実に物語っているようでした。

ですが、この世界において最も大切なのは、世界を司っている構造です。
その構造を理解して、守っていくことが、一番に大切なことなのです。

朝廷や後宮での出来事は、物語全体からすると、あくまで序章にすぎなかったのだと思います。

ここから先の物語は、また別の展開へとシフトして行きます。

作品の背景

先日紹介した1作目2作目と、今回紹介する3作目4作目は、「山内」と呼ばれる異世界で繰り広げられる人間模様を中心とした壮大なファンタジーです。

山内を支配している生きものは、人間ではありません。
人間の姿で生きる八咫烏たちが、この異世界の住人です。
普段は人の姿で生活していますが、本来の姿は烏なので、烏の姿に転身することもできます。

八咫烏たちは3種類に分類されます。
支配階級である貴族を宮烏、町に住む商業を営むものを里烏、地方で農業を営むものを山烏と呼びます。

衣装や建物のイメージ、物語全体から感じられる雰囲気からすると、宮鳥たちの生活は平安時代を連想させます。
里烏や山烏たちの住処や生活水準を想像すると、江戸時代あたりの雰囲気が感じられます。

支配階級の頂点にいるのが「宗家」という族長一族になります。
そして、その長が「金烏」(もしくは金烏代)と呼ばれる存在です。
想像するに、日本の平安時代の帝と同様の存在かと思われます。

「宗家」は四大貴族に支えられています。
東家(東領を統治)、西家(西領を統治)、南家(南領を統治)、北家(北領を統治)です。

「宗家」は「山内衆」と呼ばれる近衛隊に護衛されています。
この「山内衆」は、「勁草院」という養成所で3年間厳しい訓練を受け、優秀なものだけが入ることのできるエリート護衛集団です。

いちお軍隊も存在しています。
北家の当主が大将軍を務める「羽林天軍」です。
こちらは政治中枢を鎮護するための組織になります。

そして、上記3分類の生活水準からさらに下に落ちてしまったものたちが生きる裏社会というものも存在します。
「谷間」と呼ばれる賭博や遊郭などを中心にした裏社会で、表社会に生きる八咫烏たちの法秩序とは全く別の、独自の法律を形成して成り立っている社会です。

まずは、「山内」の世界構造を頭に入れて、3作目4作目へと入って行ってください。

黄金の烏

前巻から登場している少年:雪哉が、すっかり主役になってしまいました。
雪哉の真っ直ぐな心が、まぶしくて、初々しくて、羨ましい。
もはや、何かに染まりきってしまった、薄汚れた大人の私には、雪哉の純粋さが痛いくらいに、胸を刺してきます。

そして相わからず可愛いです。
息子に欲しいくらい可愛いです。
ずっとそのままで居てほしいと、心から願います。

雪哉のいいところは、自分が正しいと思ったことを貫けることです。
ですが、それが間違っていたとわかった時には、素直にすぐ誤り、自分の間違いを自分自身に受け入れ、自分を正し直すところなんだと思います。

意固地になっている時って、なかなか素直に謝れないし、間違いを認めることもできないじゃないですか? 
誰かを責めるほうが、簡単ですしね。

大人になればなるほど、立ち止まることは許せなくなるし、そのまま突き進むしかなくなるんです。

自分自身がそんな現状であることに気づかされたような感じがしました。

雪哉はすごいですし、生みの親である阿部先生はもっとすごいです。
私よりぐーんと年下なんですよね。

実は、少し前に職場で腹立たしいことがあったんです。
事が起こった瞬間、怒ってしまうことは仕方ありません。

ですが、怒り続けていることは無意味なんだと気づかされました。

本は不思議です。
必要な時に、必要な本が、私の手元に現れるんです。
まさに真の金烏が現れることと、同じ現象にも感じます。

だからこの八咫烏シリーズに免じて、許してあげようと思いました。

さて、本題ですが、前巻でお別れした若宮と雪哉でしたが、あっさり再会してしまいました。

そして一緒に難事件を乗り越えていきます。
どう考えても若宮は雪哉が大好きなんですよね。
本人が気づいていなくても。
そうとしか思えません。

雪哉が若宮を守るのではなく、若宮が雪哉を守っているかのようにも見えるから不思議です。
雪哉が嫌がっても、若宮が雪哉にこだわって離れないようにも見えます。

なんにしても、若宮の世界から雪哉が消えてなくならなくて良かったです。
今後も二人が一緒にいる姿を見たいと思ってしまいました。


空棺の烏

2作目3作目は、なんとなく雪哉の視点で描かれていたように思います。
ですが、本作では、雪哉の同輩たちの視点に変化しました。

でもやはり主役は雪哉なんでしょう。

若宮はあまり出てきませんでしたが、
若宮の大きな謎が1つ増え、その断片がちょっと解明されたという進行はありました。

それにしてもですね、ここで雪哉の本性が丸裸になりました。
最初から腹黒だとは思っていたんですが、ここまで腹黒だとは思いもしませんでした。

でもですね、雪哉をどうしても嫌いになれません。
むしろもっと好きになった気もします。

なんだろ、気持ちのいい腹黒さだったんですよね。
不思議です。

若宮も雪哉の友人たちも、結局、雪哉から離れませんからね。
私と同じ感覚なんでしょうか。

雪哉は、自分が守りたいもののためには、どんな手段も取るし、何が何でも守り切る。
そういう信念が1本通っている感じなんです。

その信念が揺らがないところが、読み手の心に響くんではないかなと思います。
その信念の強さには、若宮でさえ、驚いているのではないでしょうか。

そして、雪哉はどうやら大人になってしまったようです。

小柄な子供が、悪知恵で周りを奔走させることろが面白かったんですが、すっかり、体も心も成長したようです。

ちょっと残念ではあります。
可愛かった雪哉をもっと見ていたかったです。
でも仕方ない。

これから先は、山内だけで戦っている場合ではなくなってしまったからです。
雪哉の頭脳と聡明さが、山内を救うのかもしれません。


松本清張賞受賞について

毎巻、巻末に書評家の方々の解説があります。
今回ご紹介した3作目は吉田伸子さん。
4作目は大森望さんでした。

どなたも阿部智里先生の松本清張賞受賞について触れており、順番に解説を読んでいくと、賞に応募した経緯や受賞時の状況などの一旦が垣間見れるようになっています。

解説は案外長いので、読むのが辛くなる場合もありますが、ぜひ、最後まで読破して阿部先生の魅力も味わってみてください。