kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『准教授・高槻彰良の推察4 そして異界の扉がひらく』澤村御影(著)を読んで「四」が本当に不吉な数字なのかについて考えてみました!④

新章開講

本作は、本巻より新章が開講します。
1巻2巻では、彰良と尚哉が出逢って、事件を解決しながら2人がそれぞれに抱えている秘密が明らかとなりました。

そして3巻では尚哉の意識が大きく変化したように思います。

ここまでは、怪異を装った人為的な事件が多かったかと思います。
ですが、新章ではいよいよ、本物の怪異が登場します。

今はまだ、彰良が尚哉を守っています。
ですがその天秤の傾き加減が徐々に変化していくように思います。
現実の事件では健司が守ってくれますが、本物の怪異になってしまうと、健司は蚊帳の外にいるしかありません。
尚哉を守れるのは彰良だけだし、彰良を守るのは尚哉だけなのです。
そんな感じで、成長した尚哉の姿を見ることにもなるかと思います。

4月になり、尚哉と難波は文学部史学科の2年になりました。
難波という存在が、尚哉に与える影響にも、注目が必要です。

准教授・高槻彰良の推察4 そして異界の扉がひらく

第1章 四時四十四分の怪
「四」は「死」を連想させる響きをもつ数字のため、不吉だとされ、日本では忌み数として古来より避けられてきた数字です。
科学が発達した現代でも、いまだに避けられているのですから、よっぽど日本人の心に深く刻まれているということなのでしょう。

ですが、世界中の人間が避けなければならない数字というわけではありません。

漢字発祥の中国では、四と死が別の発音なので、忌み数になっていないようなんです。
韓国や台湾は、四と死が同一発音のため避けているようですが。
西洋にいたっては、漢字が存在してないため、四は死とは全く無関係になります。

人類全体の規模で考えると、四を忌み数として捉えているのは、ごく少数の団体のように思えるのです。

子供のころは、不思議でした。
なぜ四や二が縁起の悪い数字になるのか?
子供の頃って、「死」というもの自体を大人が口にしたり、あえて教えるなんてことは、ほとんど無いからです。
近くで誰かが亡くなったら別ですが、死というものに触れる子供なんて、そんなにいないはずなんです。
だから、ある程度、物心がついてから、四が忌み数だという認識になるってことなんですよね。
漢字自体は、小学校3年生で習うようなので、それ以降になるのでしょうか。

生まれてすぐ教えられる概念ではなのです。

私自身の経験から言いますと、「四」と「死」の連想が始まる前に、「四天王」や「四神(守護神)」という言葉を先に知りました。
たぶんアニメだったと思います。

だから、私の中で「四」に対して最初に生まれた概念は、何かを守るためには、四つの何かが必要だというものです。

今はちょっと違うかもしれませんが、平安時代の京都御所の周りは、碁盤の目のように区画整理されていました。
もしかしたら霊的なものから御所を守るための区画だったのではないか?と子供の頃に思ったことがあります。

家が三角形とが五角形だったら、何となく、落ち着かないような気がするんです。
イベントに使う建物は自由でしょうけど、人が暮らす建物は、やっぱり四角で作るのが一般的です。
神社も四角です。
それに世界中の人々が、暮らすために作る建物は、四角いのではないかと思われます。
どちらかと言うと、人類のDNAに刻まれている概念は、人が四に守られているということなのではないか、とも思うんです。

もしかしたら、本当は逆で、四から出てしまうと、死を迎えるのかもしれません。
四の中にいれば日常、四から外は非日常(異界)という感じです。
四が境界線なのかもしれません。

その境界線を曖昧にするために、日本人はもしかしたら、「四」をあえて口に出すことを避けているのかもしれません。

ですが深い部分では「四」に守られていることもわかっているため、口に出さなくても済む部分や場所では「四」をあえて使用している

つまり、「四」は人の生活を守るためには必要不可欠な概念ですが、普段は意識しないで生きていた方が幸せに暮らせるということなのかもしれません。

では本編についてですが、
本話では遠山宏孝という人物が登場します。
遠山がどのタイミングで不機嫌になるのかに注意しながら読んでみると、おもしろいことがわかってきます。
そして、この遠山は、尚哉にとってはかけがえのない出会いとなりました。
彰良のフィールドワークの助手というアルバイトが、尚哉にとって大きなプラスに転じた瞬間だったと思います。

総じて、尚哉は普通の人からは空気のように扱われますが、変な人からは溺愛されるタイプなのかもしれませんね。

第2章 人魚のいる海
人魚の調査をする過程で、亡くなった母親が、人魚になって、今でも生きていると信じている少年に出会いました。
普段は、怪異を装った嘘を許さない彰良ですが、少年の心をいずれは傷つけてしまうことを覚悟の上で、あえて今は、少年の信じている嘘にのっかることにしました。

彰良の優しさは、たぶん彰良自身を傷つけることになります。
彰良が過去から学び、それを乗り越えて下した決断だったように思います。

本話でも、非常に重要な人物が登場しました。
まずは彰良の叔父:高槻渉です。
渉だけが彰良の本当の家族です。
彰良のすべてを受け入れ、愛してくれている大切な家族です。
そして、渉は尚哉を彰良のパートナーとして認めたようです。

フィールドワークの過程で、海野沙絵という女性が登場しました。
沙絵はもしかしたら、本物の怪異かもしれません。
彼女の同行が彰良と尚哉にどんな影響を及ぼすのか、今後も楽しみです。

彰良の笑顔2

【extra】それはかつての日の話Ⅱ(巻末収録)
本話は、渉が彰良を引き取った時の経緯と、その後一緒に過ごした3年間のエピソードになります。
渉の回想録でもあり、尚哉に語られた彰良の真実でもあります。

不遇な幼少期を送った彰良は、ある意味においては、すでに壊れてしまっていたのです。
その状態で、渉に預けられました。

初めのうちは、渉も、彰良がおかしいことには気づきませんでした。
一緒に過ごし、本当の家族になっていく過程で、彰良の笑顔が、鎧であることに気付きます。

それまでの彰良は、おそらく、誰からも好かれなくてもいいから、せめて、誰からも嫌われないようにしようと、怯えながら、必死に笑顔を作って、生きてきたのでしょう。

自分は居るだけで迷惑な存在だから、これ以上の迷惑をかけないようにしなければならないと、子供心に、何かを察し受け入れて生きてきたのだと思います。

その結果、鎧として作り出した「笑顔」以外の顔を、彰良は無くしてしまっていたのです。

泣き顔も辛い顔も、そしてその先にある本当の笑顔も、彰良は渉と渉の家族たちと一緒に過ごすことで、徐々に取り戻していきます。

現在の彰良は、守られて生きる道ではなく、自ら戦う道を選びました。
そんな彰良にとっての「笑顔」は、武器の一つとなったように思います。
いつでも同じ笑顔ではありません。
良い意味でも悪い意味でも、別の笑顔ができるようになったように思われます。

もちろん、信頼できる仲間に見せる笑顔は、また格別の笑顔だとも思います。

いつもニコニコしている彰良が、その時、どんな気分でニコニコしているのか、今後も想像しながら読んでいきたいなと思いました。

そうそう、なぜ毎回、彰良がココアにマシュマロを入れて飲むのかも、ここで明らかとなりました。
呪いもおまじないも、基本的には信じないのでしょうけど、ちょっとしたゲン担ぎくらいは、彰良にも必要だということなのでしょう。

ココアとマシュマロは、本来の彰良を取り戻すために必要なエッセンスなのです。