kei-bookcolorの文庫日和

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『准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る』澤村御影(著)を読んで 傷ついた心を抱える主人公について 感想を書きました!②

作品の定番

本作品の構成は、まず物語の冒頭で、彰良が何かしらの怪異現象の授業、もしくは講義や談話、または世間話をします。
この彰良の話が実に面白いのです!

怪異現象なんてくだらない、そんなことは学問とは呼べないと思う人もいるでしょう。
ですが、彰良の話を聞いていると、だんだん話に引き込まれて行き、怪異現象への見解が変わってくるのです。

やがて、怪異現象を調べるという行為が、民俗学から見た場合の、日本人の深い歴史を紐解く鍵になっているということに気付きます。

それは、もう一度大学に戻って、民俗学を専攻したいと思ってしまうほどの魅力的な知識なんです。

その後に彰良は、怪異現象の調査に出かけます。
そして、たまにですが、彰良は道に迷います。
依頼主に会って話を聞いた途端、大興奮します。
さらに不謹慎な発言と、不謹慎な行動もします。

尚哉の役割は、彰良の助手兼(嘘発見器)、常識担当兼、道案内人です。

最後に、怪異現象の正体を解明し、事象もしくは人為的な事件の謎を解き明かします。
一連の現象に関わった人たちを、できるだけ救ってあげてから、物語の幕を閉じることになります。

普通はここで終わりのはずですが、その続きがある場合があります。
冒頭で行われた彰良の授業や講義や談話は、問題提起をしてから、ある種の答えを導き出して終わり、本編へと進むのですが、、

物語を経験した後の尚哉には、教訓のようなものが備わります。
その尚哉が実体験として実感して備わったものを利用して、彰良が更に奥へと踏み込んだ答えと発想を導き出し、尚哉に講義の続きを行うのです。

これは尚哉だけが受講できる特別の話です。

冒頭部分だけでも、すごく勉強になった、豆知識が身についたと、読んでいてうれしくなるのですが、それだけで満足していてはいけません。

最後の最後に話す彰良の重要な結論を、ぜひ楽しみにしていてください。
物語を通しての深い深い何かが、導き出されて、実感する瞬間を味わってみてください。

准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る

第1章 学校には何かがいる
1巻の神隠し事件で、聞き込みをしている最中に出会った少年:大河原智樹くんが通う小学校で、怪異現象が起きました。
どうやら放課後にコックリさんを行ったことが原因のようです。

私の場合は、中学生のときでしょうか。
コックリさんに参加することを誘われたことがあったように思います。

人一倍、怖いことが苦手なので、初めは断っていました。
ですが、断り続けて仲間外れになることも怖く、何度目かの誘いでOKしてしまったんです。

ただし、近くで見ているだけに留めさせてもらいました。
あの輪の中に入る勇気はどうしても持てませんでした。
でも、コックリさんが出す答えへの興味は、ものすごくありました。
好奇心も人一倍強かったからです。

コックリさんは、純粋な子供たちの心を捉えますが、参加した子供たちの心を傷つける場合もあると思います。
さらに、参加しなかった子供たちにも傷を負わせるかもしれません。
おそらく、自分が1歩、大人になろうとしている時期に行われる遊びだからです。

コックリさん自体はまやかしだったとしてもです。
でも子供同士の関係を壊しかねないため、大人が関与することは、難しいのかもしれません。

悩ましい遊びだと思います。
なぜかと言うと、傷つくことが悪いことだと決めつけることができないからです。
そこから何かを掴み、成長するという可能性も捨てきれないからです。

第2章 スタジオの幽霊
人にはそれぞれ事情というものがあります。
同じものを見て、同じものを聞いて、同じものを食べたとしても、人によって感じ方も捉え方も考え方も違いますから、事情も個々に違ってくるのです。

だから尚哉の事情は、尚哉にしかわかりません。
他人の悪意のない一言に傷ついたとしても、それすら、他人には知りえないことなのです。

ですが同時に、誰かを傷つけずに生きることも、自分が傷つかずに生きることも、不可能なものでもあると思うんです。


傷つきたくないが普通の人以上に先行しすぎている尚哉は、今回、体調を崩したことも相まって、マイナス思考に落ちていきました。

そんな時、彰良という救いの手をうっかり取ってしまったんです。
取ってしまったその手を離したくないと思ってしまったんです。
だから一人で空回りを始めました。

他人から何のメリットもなく愛されるはずはない。
メリットを失ってしまったら、自分には何の価値もないと。

でも、人の愛情や好意は、理屈で測れるものではないんです。
理由はなくとも、ただ好き、ただ一緒に居たいという気持ちは、誰しもに生まれます。

最初に愛情と好意があって、次に、条件だとかメリットだとか、そういったものが付加されていくのですが、最初の気持ちの部分が抜け落ちてしまって、おかしな方向へと尚哉の思考が落ちていきます。

これ以上、傷つく前に、元に戻ろう。
自分から手を離す勇気もない尚哉は、彰良から手を離されることを覚悟して、彰良の元へ行きます。

ですが、彰良は、一瞬手を離して、今度はしっかり手を握り直します。
決して離れないように、離さない手の握り方に変えます。
2人が、特別になった瞬間を皆さんも確認してみてください。

第3章 奇跡の子供
子供は親を選べません。
でも子供はみんな、自分の親が大好きなんですよね。
それがどんな親であっても。
そして、親から愛されたいと願うものです。

本話は、親の愛情を得るために傷ついたことのある彰良と、現在進行形で傷つき続けている少女の物語です。

今回の怪異現象の調査を引き受けた彰良は、最初からどこかおかしかったように思います。

彰良はどうしても、奇跡の少女を救いたかった。
そうすることで、過去の自分をも救いたかったのかもしれません。
これまでの人生にやり直しはできなくとも、今この瞬間からの人生は、何とおりもの選択肢があるし、可能性だって無限にあるはずですから。

今回登場した母娘は、もしかしたらもう残された選択肢が1つしかないと、思い込んでいたのかもしれません。
そんな二人を救うために、彰良は、自分も傷つくことを覚悟して、奥多摩へと向かいます。

彰良の笑顔

彰良は子供の頃、神隠しという怪体験をしました。
そのせいで、その後の人生は、完全に壊れてしまったかと思われます。

不遇な少年時代は、笑うことができなかったはずです。
だから今の彰良は、誰にでもニコニコと、楽しそうに話しかけるのでしょう。

そんな彰良の笑顔は、読者からすると、半分は演技なのではないか?という勘繰りが生まれます。

本当の意味で、笑っているのは、尚哉や健司の前だけなのではないのか?と思うのです。

とても長い時間、苦しんできた怪体験。
苦しんだ歴史があって、たぶんまだ完全には立ち直れてなくて、、その上に成り立つ笑顔なのだと思うと、少し心苦しくも感じます。


私が彰良なら、一度は思ったかもしれません。
あのまま行方不明のままのほうが幸せだったのかもしれないと。

彰良は、すべてを抱えたまま前に進み、過去を恐れる気持ちを拭い捨て、過去と対峙する道を選んだように感じました。