kei-bookcolorの文庫日和

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『宝石商リチャード氏の謎鑑定』シリーズ12・13『少年と螺鈿箪笥』『ガラスの仮面舞踏会』辻村七子(著)の感想を書きました!⑤

第三部開幕

10巻目を読み終えた時に、色んな意味で、すべての複線が回収されたため、もしかして、このシリーズは終わってしまったのではないか?
という不安に駆られました。
11巻は短編集だったのですが、終わってしまったから、これまでに取りこぼされてしまった物語を辻村先生が書いたのではないか?
と心配していました。

12巻が出版されたのを本屋さんで見つけた時の安堵感は半端なかったです。
良かった!続いていた!

正義は20代後半に入り、成熟した大人の素敵な男性になっているはずですから。
まだまだ、正義の話が終わってしまうのは、もったいないです。

リチャードは30代ですが、あの美貌は、そう簡単には衰えるはずもありません。

二人とも二人の物語を引退するのは、早計です。

そうして始まった第三部ですが、、
これまでにも突飛な展開は多々ありましたが、今回もまた予測できなかった問題が生じたところから始まります。

しかも語部が正義からみのるという中学1年生の男子に変更されていました。
そして舞台はまた日本へと戻ってきます。

さんざんグローバル化したのに、今さら日本?と思う人もいるかもしれませんが、やっぱり日本が一番安全のような気がしますし、落ち着いて読めるように感じるのは私だけでしょうか?

とにかく、相変わらず、ラブラブな正義とリチャードの仲をまた楽しめるのです。
みのる少年が、正義とリチャードの人生にどこまで深く関わってくるのかも、もちろん楽しんでいきたいと思います。

少年と螺鈿箪笥

先にも書きましたが、本巻は、第三部が開幕する巻であり、語部が正義からみのるという中1の少年へと変更になりました。
ですが、表紙は変わらず、正義とリチャードの二人しかいないようですね。

主人公:みのるは、幼い頃、父親が蒸発し、母親と二人だけの貧しい生活を強いられていました。
おそらくみのるの母親は、精神的な面での問題を抱えていて、みのるに対してネグレクトに近い状態に陥っていたのだと思われます。

みのるはもう限界が近づいていました。
みのる自身も心が壊れようとしていたものと思われます。
そんなある日、正義が、みのるの前に現れたのです。
そして何故か、みのるを無償で支援し、一時的な保護者になるというのです。

カッコよく読者の想像以上に素敵に成長した正義。
狭い世界で生きてきたみのるにとって、正義は眩しすぎるほど完璧な男性に見えます。

ですが、相変わらず涙もろくて、ちょっと腰が低いところも健在のままの正義ですが、ですがですが、とにかく大学生のころの正義を振り返ってみると、それはもう別人のごとく素敵な好青年に成長しています。

みのるが正義を羨望の眼差しで見つめるのは、当然のことです。
そして正義自身も、みのるから好かれようと背伸びして、物分かりのよい大人のフリをして接していますから、欠点など1つもない完璧な男性に見えても不思議ではありません。

読者には初めから何となく、みのると正義の関係はわかります。
正義の態度を見ていれば、みのるが正義にとって、とてつもなく大切な存在だということがわかるからです。

そんな正義の気持ちは、徐々にみのるへと伝わって行き、初めは警戒していたみのるも、正義を受け入れるようになるし、正義に好かれたい良く思われたいと思い始めます。

リチャードは、あまり登場しませんが、みのるの良き相談者、もしくは助言者として二人の側に寄り添います。

リチャードと正義は別々に行動しているように見えましたが、いちお読者が知らないだけで、ちゃんと毎朝会っていたようですし、電話もしていたようですし、電話では伝わらない大切なことは、会って話していますので心配ありません。

心配ありませんが、欲を言えば、やはり二人が一緒にいる姿がもっと見たかったなとは思います。

みのるは、思いのほかいい子で、よくできた子です。
ですが正義はおそらく、みのるが大人にならざるを得なかったこれまでの人生に対して、罪悪感を持っています。

過去はやり直せない、でもここから先は、みのると一緒に生きることができる。
みのるへの責任を果たすという強い決意を持った正義を応援したくなります。

みのるをまだまだ子供でいさせるために、正義は奮闘していきます。
おそらく、みのるの保護者になることで、正義はまた一段と大きな人間に成長することでしょう。

それこそ正義は、リチャードを超えた素敵な男性に変貌するのかもしれません。
みのるという新たな息吹が本作を、読者にも作者にも予測のできない方向へと誘うような予感がしています。

ガラスの仮面舞踏会

本巻でも、語部はみのるでした。
予想通りでした。
つまり第三部は、もしかしたらみのるがこのまま、主人公ということになるのかもしれません。
ですがやっぱり表紙は、正義とリチャードなんですね。

みのるはまだ中学生のため、普通に考えたら、高価な宝石に触れる機会が少なくなるのかと思われます。

その代わり、アンティークの歴史や絵画などの美術作品といった、宝石の枠を飛び越えた芸術に触れていくような感じがしますので、これまでとはまた違った意味で楽しめそうな気がしています。

そして一番の宝石は、やはりみのるになるのでしょう。
みのるは、これまで誰にも見つかっていなかった原石のような少年です。

正義が(裏ではこっそりリチャードが手を貸していることにはなりますが)、みのるを保護しながら、みのるがより輝けるように導いているようにも見えます。

純粋に思ったことを口にするみのるは、正義やリチャードの想像を上回り、正義に感動を与えています。

これまで何もない狭い世界で生きてきたみのるにとって、見聞きするものはすべて、キラキラと輝いているようにも思います。

みのるは単純に、何でも感動するし、触れたモノには好印象の評価をします。
その分、自分への評価は低すぎるのですが、これまでの生活を考えると致し方ないのかもしれません。

正義の役割は、みのるを光り輝かせることです。
みのるが自由に、生きたいようにいさせてあげること、安全で安心な場所を用意すること、正義自身が帰る場所になること、今はまずそういうやれることから取り組んでいますが、今後はもっともっと、みのるの才能を開花させるチャンスを作っていくことになるのではないかと思います。

正義とリチャードは、たぶん、このままずっと結婚せずに、一緒にいるのではないかと思うんです。

二人にとって子供を持ち、見守り、育てるチャンスは、無理やり作らない限りは訪れないものと思われます。
だから、みのると一緒に暮らすことは、正義とリチャードにとっては特別のものとなるはずです。

そして、正義とリチャードが、互いの関係の触れてはいけない部分を見つめ直すことにも繋がる可能性があるようにも思うのです。

本巻を読んで、一番に感じたのは、モノにはそれぞれ歴史と価値が存在します。
歴史は初めから全部を見ていたわけではないので、想像を加えながら物語ることになります。
そしてその価値については、値段とは無関係のものです。

自分にとってどれだけ意味があるか、どれだけ思い出があるか、よってどれだけ大切なのか、それらが合わさって価値が決まってくる。
当然、価値基準は人によって異なります。

そしてこれは人にも同様のことが言えるように思います。
無価値の人間なんて存在しません。
誰でも誰かの大切な宝物です。

だから一人で孤独に生きてはならない。
誰でも誰かに頼っていいし、頼りにされることを待ち望んでいる人が必ずいる。

そう信じられ勇気づけられているような気分になりました。

そういったうまく言葉にできない何かを、今後も、みのるが教えてくれるような気がしています。