kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『ヴァンパイア探偵 禁断の運命の血』『ヴァンパイア探偵2 戦慄の血塗られし狩人』喜多喜久(著)の感想を書きました!

こだわらない時代への移行

本作を手に取ったのは、表紙の絵にどこか親しみを覚え、何かで見たような感じがしたからです。
めくって確かめると、バチカン奇跡調査官と同じ方がデザインした作品のようです。
ホラーミステリーの要素がにじみ出ていて、美しさと不気味さが際立った表紙に心惹かれました。

ところで、近年は、一般文芸作品でも、表紙の絵がライトノベルズのように、登場するキャラクターのイラストが描かれているケールが多くなりました。
文庫もかなり増えましたが、ハードカバーでも多少、登場してきているように思います。

地域や公官庁が呼びかけるポスターも、昔は芸能人が器用されているのが一般的でしたが、最近は、アニメのキャラクターのような素敵な絵で表現するパターンも、増えてきている時代ですからね。

これも、実体のあるモノにこだわらなくなった時代の影響なのかなと思います。
本格派の文芸作品にこだわる方には、少し抵抗があるかもしれません。
ですが、これも新しい文化なのだと思えばどうでしょうか。

時代とこれから世に出てくる世代の求める新しい文化なのです。
幸か不幸か、コロナ禍という経験を全世界で共通して味わってしまったので、実体のあるモノを求めない時代が加速しました。

友人と直接会わなくてもネットで会うことができますし、仕事も在宅でできますし、店に行かないと食べれない料理も家で食べれますし、レンタルビデオを借りに行かなくてもサブスクで観ることができます。
毎週楽しみにしていたドラマだって、見逃し配信で観ればいい。

今しかできない、今を逃したらもう二度と手に入らない、というモノがなくなってしまいました。
つまり、人から、こだわりというものが、だんだん無くなっていく時代となったのです。

ずっと実体のある文庫にこだわっていたはずの私でさえ、電子書籍に移行し始めましたし、Audibleを試してみようかと、最近は考えています。

古くからの自分のこだわりを捨てられない人も世の中にはたくさんいるでしょう。
こだわりを捨てる必要はありませんが、新たに、別の分野の体験だと思うことにして、経験してみるのも人生の醍醐味ではないでしょうか?

科学の発展も文化の主流変化も、日進月歩、もしくは分単位で起こっているのかもしれません。
時代とともに加速して、目まぐるしく世の中が変わって行きます。
1つのことにこだわって立ち止まっていると、あっという間に浦島太郎になりかねません。
これまでと同じことをしていたほうが安全だと誰しも思います。
だから、こだわりの外にでるのはとても怖いことです。
今までの自分を否定することにもなりかねないからです。

始めの1歩は、誰しも怖いものです。
ですが、今は、個人個人の中身のアップグレードが必要な時代なのです。

ヴァンパイア探偵 禁断の運命の血

題名からもわかるとおり、こちらはヴァンパイアと化学が融合したミステリーです。
表紙だけでなく、作品内もどこか、猟奇殺人を彷彿とさせますし、不気味です。

主人公の天羽静也はどうやら、ヴァンパイア伝説の一旦を担ってしまった一族の子孫のようです。
そしてもちろん本作の探偵でもあります。
色白で細く艶めかしく、とにかく美しい青年です。

人間嫌いで、人付き合いの少ない静也が、唯一友人と思っているのが、相棒役の桃田遊馬です。
遊馬は、刑事でもあります。
そして好青年です。
たぶん、初対面でも人に安心感を与え、好印象をもたれる青年です。

それぞれが全く真逆の意味で、魅力的な青年のように思います。

最初の事件は、DNAの罠という題目なんですが、科学者対、静也という構図になります。
警察は騙せても静也の目は誤魔化せない。
犯人は途中から目星がつきますが、あとは、どんなトリックを使ってDNAを誤魔化したのかという問題を解かなければなりません。

次の話は、男女関係のもつれで起こった殺人?事件と、交番勤務の警官が殺害されるという事件でした。
接点のない2つの事件がどんな関係性を持つのか?奇妙な人間関係が、事件を少し複雑にしてしまうのですが、静也の分析と、鋭い洞察力が、犯人の居る場所まで導きます。

次の事件は、バラバラ殺人です。
一人の人を消すということは、とても大変なことのようです。
どんなに痕跡を消したとしてもすべて何もかもなかったことにはならない。
そして、人が考え出した行動には、必ず本人すら予想しえなかった盲点がある。
静也の頭脳をもってすれば、いずれは真実へとたどり着くのです。

そして最後の話が、とても重要です。
事件を通じて、静也と遊馬の本当の関係が語られます。
遊馬の知らない遊馬の秘密と静也の秘密です。

静也の一族の秘密と、静也の家族の事情が明らかになります。
そして静也と遊馬の関係性がある意味において変わってしまったかもしれないエピソードでした。

ヴァンパイア探偵2 戦慄の血塗られし狩人

天羽屋敷がバックに描かれている表紙です。
庭の噴水も含めて、異国の洋館のようです。
霧がうっすら立ち込めた森、スッキリしない空、顔色が悪くミステリアスに美しい静也。
弁当を持っている遊馬だけが現実で、それ以外は幻の中にいるような気分になります。

前巻は、短編集のようにいくつかの事件が起こり、静也と遊馬が解決しましたが、本巻では、一巻まるっと通しで連続猟奇殺人を追っていく形でした。

想像のとおり、ヴァンパイアが起こしているかのような演出を帯びた殺人事件が続きます。
登場人物が少ないため、静也と静也の家族と遊馬以外で、誰が犯人になるのだろうか?と予測をしてみると、本巻に新たに登場した人物が俄然、怪しく見えていきます。

その直観はあたっていて、犯人は何となく読者が想像できてしまう人物で間違いないのですが、動機が最後まで見えず、結局、何が起こっているのかは、最後まで読んでみて、最終的に納得する形となりました。

本巻では静也の行方不明の父が見え隠れします。
何か事情があって、もしくは犯罪にかかわっていて、姿を隠しているようなニュアンスを作品から受けてしまいますが、案外もっと単純な理由で、父:隆也は姿を隠しているのではないかと思います。

本人には失踪している自覚もないのかもしれません。
静也を避けているというわけでもないのかもしれません。
単に用事がないから帰らないというだけのことだったのかもしれません。
それもいずれは、明るみに出る日がくるのではないかなと思います。

さて事件ですが、捜査協力を拒んでいた静也が、徐々に重い腰を上げて、多少の協力をしていくことになります。
ですが静也が行った実験からは、あまり犯人へと続く成果は得られません。
ですが、別の方向から静也の推理が役に立ち、犯人へと導かれていきます。

物悲しい真実が待ち受けていました。
そして、静也と遊馬の関係:血の結びつきが、二人の知らぬ間に大きな変化をもたらしていました。

事件の真相よりもずっと重要でショッキングな事態へと変貌していたのんです。
1歩間違えたら手遅れになるところでした。
絶妙のタイミングで父の存在が大きく静也にのしかかってきた感じに見えました。
ですが、やはり父は父なのでしょう。
父は父なりに息子を見守っていたということになるのだと思います。