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『Unnamed Memory I 青き月の魔女と呪われし王』古宮九時(著)を読んで、魔女を愛した王太子:オスカーについて考えてみました!

オスカーと魔女

舞台となる大陸には、強大な力を持つ5人の魔女がいるとされています。
魔女たちは数百年もの長き時間、この大陸を、人間たちを、畏怖と恐怖で支配してきました。
この魔女たちを倒すことのできる存在が、この世界にはいなかったのです。

ですが、そこにオスカーが現れました。
オスカーは、大陸中央部に広い領土を持つファルサス王国の王太子として生を受けます。
ファルサスは、魔女の時代が始まるずっと前の暗黒時代に建国され、揺るぎない治世を700年も続けている豊かな大国です。

そして魔女を唯一、倒すことができるであろう王剣アカーシアを、王家の血を引くものが継承してきました。

1巻ではまだ王太子ですが、すでにオスカーは王剣アカーシアを継承し、王剣を振るうに値する人格と力と技を極めた最強の剣士です。

まるで魔女の時代を終わらせるために生まれてきたかのような存在でもあります。

そして物語は、初めから、オスカーを最強の剣士に育てるために、仕組まれていたかのようにめぐり始めます。

5歳の時、オスカーは沈黙の魔女に呪いをかけられ、それを解くために、誰よりも努力し、文武両道を極めていくことになりました。

ですが呪いを解くことはできませんでした。

そこで今度は、別の魔女に頼んで呪いを解こうと考えます。
居場所が分かっている魔女は、5人の魔女の中でも最強と謳われる"青き月の魔女"です。
彼女に会うためには、青き塔の試練をすべて乗り越えなくてはなりません。

当然、オスカーは青き塔を攻略するために、さらなる努力を重ねることになります。
とうとう20歳のある日、青き塔を攻略して、青き月の魔女:ティナーシャと出逢います。

ティナーシャは、オスカーの才能に気付き、いつか来る万が一の時に備え、オスカーが魔女を倒せるように、更に鍛え上げます。

ここまででオスカーは、すでに2人の魔女と出逢っているのです。
さらに、ティナーシャの友人でもある"閉ざされた森の魔女"とも、1巻であっさり出会います。

オスカーは明らかに、この大陸にとって、特別な存在だと認めざるを得ません。
普通のファンタジー作品で言うところの、魔王を倒す"勇者"とも呼べる存在だとも言えます。

最強の剣士が、5人の魔女たちと、どのような物語を作っていくのか。
そしてティナーシャが望む未来を、オスカーが叶えることができるのか。
注目して読んで行きたいと思います。

Unnamed Memory I 青き月の魔女と呪われし王

1.呪いの言葉と青い塔
すべてが規格外の王子様が登場します。
ファルサス王国の王太子:オスカーです。
背が高く、容姿端麗、文武両道、もちろん王族としての気品とオーラも兼ね備えています。
性格も素直で、何でも貪欲に学び、柔軟性もあります。
少なくとも、ファルサス国民はみな、オスカーを敬愛しているのではないかと思われます。

次はヒロインですね。
大陸最強の魔女:ティナーシャが登場します。
外見は16歳前後の少女ですが、数百年も生きている魔女です。
そして、誰もが見た瞬間、息を呑むほどの類まれな美貌の持ち主です。
愛らしく可憐で、魔女というより、精霊か妖精のようにも見えます。

だからでしょうか、
オスカーが青き塔の試練を攻略し、最上階で、ティナーシャとお茶をする場面があるのですが、二人は、同世代の若いカップルで、デートを楽しんでいるかのようにも見えるのです。

ティナーシャはオスカーの守護者として1年間、塔を下りることになりました。

2.繰り返し触れられる過去
ファルサスでは、アイテア神の祝祭というお祭りが目前に迫っていました。
オスカーの守護者であるティナーシャは、祝祭の間、オスカーの側を離れて祭りを楽しむため、オスカーに強力な防御魔法をかけることにしました。

半永久的に機能する防御魔法です。
物理問わず外部からの攻撃はほぼ全て無効化されるという、反則的な防御魔法です。
しかも、ティナーシャが生きている限りは、この世界の誰も、この防御魔法を破ることができません。

そしてティナーシャは、祝祭が終わっても、この防御魔法を解除することはしませんでした。

まだ先を読んでいないのでわかりませんが、もしかしたらティナーシャは、1年間の契約期間が終わっても、この防御魔法を解除しないのではないでしょうか。
何となくそんな予感がしました。

3.夜の透明
ここは、短いお話なんですが、ちょっと色っぽい場面があります。

前の章でティナーシャはオスカーに、強力な防御魔法をかけたのですが、じつは、この魔法には欠点がありました。
毒と精神作用には全く効かない魔法だったのです。

でもそのおかげで、ちょっと楽しめる展開に発展するんです。
こうでもしないと、ティナーシャはオスカーを簡単には受け入れませんので、読者としては満足の展開でした。

4.湖の畔
70年前のファルサスとドルーザの戦い(歴史に記されるほどの大きな戦争)で、ティナーシャに封印された魔獣が復活し、再び戦うお話です。

普通なら、こんな大事が巻の途中にくるというのも不思議です。
ですが1巻は10章までありますので、まだまだ半ばのエピソードになります。

例えば本作が、70年前、青き塔を攻略したレギウスと、ティナーシャの恋物語だったとしたら、ここで、すべての物語は終わっていたはずです。

ですが、まだまだ6巻あるうちの1巻の半ばなんですよね。
どれだけ椀飯振舞な展開なんでしょうか。

今後、6巻までの間に何が起こるのか!と思うと、ワクワクしますね。

5.水の中に落ちる
本話では、信じた男に裏切られ、何百年もの間、孤独に生き続けている水妖が現れます。
水妖は、優しいラザルの魂を連れ去ってしまいました。

オスカーは、ラザルを救うため、水妖とラザルの魂の元へ向かいます。
ですがラザルは、帰らないと言います。
自分が死ぬことになっても構わないとも。

ラザルと水妖の関係は、オスカーとティナーシャの関係に似ています。

オスカーが取った決断は、正しいものだったと思います。
この場合は、こうするしかなかったからです。

オスカーとティナーシャの関係は、国だけでなく、もしかしたら世界すら影響を及ぼしかねないほどの大きな問題です。
ラザルと水妖の関係と比較するのは間違っています。
それでもやはり、悔いは残ります。
オスカーはきっと、ティナーシャを斬ることはできないでしょうから。

6.森の見る夢
オスカーが精神系の魔術をかけられてしまうエピソードでした。
オスカーの希望というか願望が、ティナーシャをどうしたいのか、如実にわかってしまうお話です。

そしてティナーシャが、素直になれない自分を認めたというか、気づいたように思います。
嫉妬のような複雑な感情をむき出しにする場面がありました。
やっぱり、オスカーに口説かれたら、たとえ魔女でも、ほだされずにはいられないということなのでしょう。

7.形に息を吹きこむ
アニメでも描かれていましたが、この章では、精神を操られたメレディナが、ティナーシャを襲い、暴言を吐くシーンがあります。

アルスは、幼馴染のメレディナが好きなんです。
メレディナはオスカーに憧憬めいた感情を持っていたんです。
だからメレディナは、ティナーシャを疎ましく思っていました。
ですが、この章あたりになると、メレディナの気持ちは変化していて、ティナーシャを受け入れ始めていたんです。

アニメは展開が早いので、アルスとメレディナの気持ちが、汲み取り辛いのですが、メレディナは少しきついだけで、真面目ないい子なんだと思います。

8.この息は彼方の息
ティナーシャがオスカーを鍛えるお話です。
魔法士との実戦での戦い方をオスカーに叩き込みます。
容赦ないティナーシャの特訓は、青き塔で行われました。

オスカーがベタベタとティナーシャを触っているシーンがありました。
ちょっとイチャイチャしてる感じです。
ティナーシャが嫌がらないので、だんだん、ほだされてきたのかなと期待してしまいました。

9.今宵、月の下で
ファルサスの老将軍:エッタードが亡くなります。
オスカーにかけられた呪いを知っている人物でもありました。
誠実で、人の意志を尊重し、優しく、面倒見のよい将軍でした。
オスカーやアルスも、幼い頃から手ほどきを受けていました。

ある時、まだ子供だったオスカーに剣を教えながら、エッタードは言いました。
絶望が人を腐らせるのだと。
意志を強く持つようにと。
そうすれば結果がついてくると。

オスカーが人生に悲観せず、何でも前向きにとらえ、身に降りかかる火の粉も楽しそうに払っているのは、エッタード将軍のおかげだったのだなと思いました。

そして、オスカーが嫉妬に身を焦がすシーンがあります。
嫉妬したせいで、ティナーシャを傷つけてしまいました。
オスカーのティナーシャへの愛情の深さを知ることができたのは、読者としては良かったんですが、ティナーシャは辛い過去を思い出すことになりました。

10.無名の感情
最期はお決まりのように、2人が結婚するか、しないかの押し問答を始めます。
ついでに、ちょっとイチャイチャしながら本巻は幕を閉じます。
少なくともティナーシャは、オスカーに自ら寄りかかるようにはなりました。

オスカーの本心

オスカーは、王家に生まれ、王の唯一の息子であり、唯一の王太子として育ちました。
それを自覚した瞬間から、オスカーの歩むべき道は、孤独なものとなりました。

どれほど忌々しく煩わしいことがあろうと、それらを含めた全てが自分の追うべき責務です。
誰かと分かち合うことはできません。
誰かが替わってくれることもなければ、誰かに押し付けるつもりもありません。

オスカーはそういう一生を送るのだと、覚悟をしていました。

本人はわかっていないのかもしれませんが、もともと王の資質を持って生まれてきたようにも思われます。
全てを受け入れて、それでも立つという強者の器を持っているのです。

最初に青き塔の試練を攻略している最中、同行していた従者のラザルは、幼い頃から一緒に育った幼馴染です。

ラザルは塔攻略の半ばで、脱落してしまいます。
このとき、オスカーはきっとラザルは死んだものと思ったはずです。
ですが、すぐに気持ちを切り替えて頂上を目指します。

王家の存続は、オスカーにとって絶対事項だからです。
王家を守らなければ、ファルサスが滅びる可能性もあるからです。
つまり、国のすべてを背負っているのです。

そんなオスカーですが、ティナーシャに対する気持ちだけは全然違うように思います。

友人でもあるラザルや、信頼のおける一番の部下:アルスが命を落としたとしても、王族として切り捨てることができるのに、ティナーシャだけは、そうではないのです。

もっと言ってしまうと、例えばティナーシャとアルスが敵対したとしたら、ティナーシャをかばって、アルスと戦うという選択をするでしょう。

それは自分が王族であるということを忘れ、ただの男としてティナーシャに付き従う行為なのです。

ティナーシャは、オスカーが背負うべき王族という重圧を、代わりに背負ってもいいと言います。
ですが、むしろオスカーはティナーシャといると、王族の責務を放棄しているようにも見えます。

ファルサスどころか、大陸さえ、ティナーシャのためならば犠牲にするのではないか、そのくらい深い愛情を持ってしまったのではないか。

私にはそんな風にしか見えないのです。