一匹狼なヒロインと一風変わった友情
白川先生の過去作品に出てくるヒロインは、どっちかと言うと一匹狼のパターンが多いように思います。
ヒロインは、他の人にない特別な力を持っていたり、周りから阻害されるような身の上や容姿だったりと、理由は様々ですが、とにかく、女子の友達が作り辛い状況下にあります。
どのヒロインも、どこか諦めていて、一人でいることを受け入れているような節があります。
そんなヒロインたちにも、たまに、女子の友達が存在する作品があります。
これがまた、一風変わった友情なんです。
以前に紹介した『リリー骨董店の白雪姫』や、今回感想を書く『若奥様、ときどき魔法使い。』に登場します。
デビュー作品『嘘つきなレディ 五月祭の求婚』にもちょっと出てきていたかもしれません。
どんな友情かと言いますと、
彼女は一見、ヒロインをいじめているように見えます。
投げかける言葉が常に、辛辣です。
どう考えても、ヒロインを傷つけているようにしか、見えません。
ですが、その辛辣な言葉を読むと、深い思いやりが込められているようにも感じます。
ヒロインが好きだから、もしくは心配だから、どうしても言葉をかけてしまう。
でも、気にかけていることをヒロインに悟られたくないから、冷たい態度をとってしまう。
言わば、複雑な友情なんです。
ヒロインの友人のジレンマが、読者には自然と伝わってくるんです。
不思議な描き方をしているなと思います。
好きとか嫌いとか、そういった概念が存在しないかのように、理由もなく一緒にいる、それがあたりまえのような存在です。
不思議な世界観を感じます。
うまく説明できないのですが、とにかく、うらやましいと思う距離感です。
会うたびに毎回、険悪な雰囲気なのに、それが常に当たり前。
酷いことを言っても、言われても、言い流してしまうし、聞き流している。
互いに謝ることはないのに、関係性が崩れない。
たまにお礼を言うと、照れる。
そして肝心な時には、絶対に現れて助けてくれるんです。
何度も書いてますが、白川作品には、兄が付き物で、兄がヒロインを守っているパターンが多いのですが、
兄とは違う役割で、絶妙のタイミングで、ピンチのヒロインを救う友情も、なかなかどうして面白いものです。
『ブライディ家の押しかけ花婿』P282に名言が飛び出します!
これから読みたいと思う方もいるかもしれませんので、内容は書けませんが、
『夜葬師と霧の侯爵 かりそめ夫婦と迷宮の王』で、私が考察した意見を、ある意味、真っ向から覆す名言です。
でも一見矛盾した二つの意見は、元をただすと、同じ場所に行き着くのかもしれません。矛盾しているようで、矛盾していない。
どちらの意見も正しいように思います。
もう少しだけ話すと、、
意思と言葉をもって文明を築く、人間の真の姿を現しているようにも聞こえました。
言葉は、時に、自分を縛り、相手を縛り、自由にも不自由にもするものなんです。
人は言葉通りに行動することも、しないことも選べるからまた厄介なんだと思うんです。
声に出してしまうのも、飲み込んでしまうのも、すべては、その人の選択になるんだと思います。
たった一言の名言なんですが、心に響くものがありました。
若奥様、ときどき魔法使い。
出来損ないの魔女ローズが主人公です。
ローズは桜のような淡いピンクを感じさせる女性です。
みんなの心を温かくしてくれそうですし、春や幸せを運んできそうな雰囲気があります。
本作を読み始めてすぐに連想したのは、『オズの魔法使い』と『ウィキッド』です。
作中では、春夏秋冬といった季節の魔女が登場します。
恐ろしい魔女たちにも、そうでない時代(若かりし頃)がありますし、恐ろしい中にも優しさが存在します。
魔女たちの色んな部分が、描かれていて、童話の中に入ったような感覚を持って読める作品でした。
ローズの旦那さんであるレンは、顔は常に無表情で、感情表現に乏しく、何を考えているのかは一見わかりません。
ですが、嬉しいと勝手に花が咲いてしまうという能力(魔法)を持っています。
抑えることも隠すこともできない能力なので、そのギャップが楽しめます。
人の心とは、本人自身にも制御できないものなんです。
ある意味においては、嘘をつけない性格ということになるんでしょうか。
ローズへの思いの強さと、誠実さは、無表情でもにじみ出ていました。
特に怒るとものすごく怖いところが、ローズへの溺愛ぶりとなって帰ってきます。
いつもラブラブな二人ですが、出会ってから結婚するまでは、やはり簡単な道のりではなかったようです。
2話目のお話で語られています。
穏やかに始まった恋は、やがて追い詰められて、最終的には、劇的で大胆な行動へと導きます。
地位や外聞や身分なんかもう関係なく、レンがローズを一途に思っている姿にキュンと来ます。
最後は、ローズの幼馴染リナが恋をするお話でした。
このリナが、一風変わった友情を育んできた友達です。
リナの本当の優しさや思いやりは、なかなかに感動します。
人の本当の心は、簡単には目に見えないところにあるものなのだなと思いました。
ブライディ家の押しかけ花婿
押しかけ花婿という題名なので、もしや詐欺のような男性と出会うお話か?
と思いながら読み始めましたが、花婿は王子だったので、身元はしっかりしています。
本作は、『若奥様、ときどき魔法使い。』と同じ舞台の別のお話です。
主人公:マリーは伯爵令嬢で魔法石の研究家です。
マリーは容姿端麗ですし、魔力もそれなりに強いようです。
研究している魔法石も普通の宝石も、身に着けると本当に似合いそうですし、美しく華やかになるのではないかと思います。
子供の頃の体験から、男性不振になってしまったマリーを想い続け、ついに求婚にやってきた押しかけ花婿は、王子:デューイです。
デューイはなぜかマリーにゾッコンで、付きまとい、振り向かせようと必死になっています。
マリーを時に怒らせながらも、マリーから離れず、何かと触ろうとするし、触らせようとするし、あの手この手で、マリーを言いくるめようと必死です。
自分が口説いているときには、余裕のデューイですが、いざマリーが振り向いてくれると、とたんに、真っ赤になったり照れたりして、かわいいと思う瞬間もありました。
そして、マリーに仕える灰色兎の従僕:クロルが、時に良いツッコミをしますし、タイミングよく必要なことを伝えてくれもします。
ある意味、キューピットにもなっていました。
マリーたちの恋愛のほかにもコイバナが勃発します。
マリーの親友:アリサと、デューイの親友:フィオンです。
二人の純愛も楽しいエピソードでした。
魔法使いには、生まれながらにして持っている特有の魔法というものがあります。
マリーのそれは、とても美しい魔法でしたし、真実の恋にしか反応しない魔法なので、ある意味感動しました。
『ウィキッド』について
「オズの魔法使い」の裏話として語られるもう一つの物語です。
「オズの魔法使い」に登場する魔女たちの若かりし日の姿を積むんだ物語です。
私は、アメリカのドラマを見るのが趣味なんですが、しばしば作中で「ウィキッド」の話題が出ます。
私がたまたま見たアメリカのドラマでは、ミュージカル「ウィキッド」を、子供のころ劇場に見にいくのが定番になっているような話をしていました。
なので、昔から気になっていたんです。
「オズの魔法使い」よりも面白そうだなと。
実は15年くらい前に、劇団四季の「ウィキッド」を見に行ったことがあります。
物語も面白いのですが、衣装の美しさに感動しました。
目に焼き付いていて、今でも思い出せるほどです。
悪い魔女は、初めから悪い魔女だったわけではありません。
私の印象では、優しくて思いやりのある女性でした。
良い魔女は、私の印象では、初めはわりと小悪魔的な魔女でした。
それがなぜ、悪い魔女と良い魔女に変貌していくのか、その過程が楽しめる作品です。
正義の裏は「悪」ではなく、正義の裏もまた「別の正義」がある。
矛盾を突いているところが、物語の面白さに繋がっている。
それが「ウィキッド」です。
今回の記事は、自分でも、何を話したいのか、よくわからない内容になってしまいました。
何度も書き直したんですが、どう描いても、うまく伝えられる自信のない話になってしまうんです。
全体的に、「矛盾」をテーマにしたせいかもしれません。
テーマだけでなく、記事の内容まで、矛盾して、しまりが悪い終わり方ですいません。
様々な小説の中に生じている「矛盾」については、個人的には色々と思うことがありますので、いずれまた、お話したいと思います。