kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

『美堂橋さんの優雅な日々』椿ハナ(著)の感想をお伝えします!

優雅な日々?

表紙のイラストがとてもポップで、全体的にバタバタした感じがします。
題名の優雅な日々とは程遠く、せわしない日々を想起させます。
表紙の推移を見ていくと、主人公を取り巻く環境が、だんだん、明るく楽しく騒々しいものにシフトしていくような感覚になります。

美堂橋さんの優雅な日々 恋、ときどき、ミステリー

キャラクターの個性がかなり濃い感じです。
紅一点の百合以外は、自己主張も強いんです。

副題が「恋、ときどき、ミステリー」ですが、どちらかと言うと、「恋」も「ときどき」しかないような気がします。

やはり「美堂橋さんの日々」がメインなんです、きっと。

装幀やイラストから判断して、ライトミステリー系統の事件しかおこらないのかなと、読む前は思っていましたが、実際は本当にちょっと残忍な事件が起こります。

美術と童話が絡む謎かけです。
恋って不思議ですよね。
両想いになるまでが大変で、両想いになってからは、ハッピーな日々ばかり続くと信じて止まないものですが、結局、恋愛が始まってからも、始まったからこそ生じる苦悩があるのかもしれません。

そう、恋愛を終わらせたくないという苦悩の日々です。

ちょっとした意思疎通の問題が、大きな誤解に繋がってしまう。
相手に確かめることもできず、傷付いて事件を起こしてしまうわけです。
切ない「恋」がテーマのミステリーでした。



美堂橋さんの優雅な日々 恋とヒミツのつくりかた

美堂橋さんには、辛く悲しい秘密がありました。

その秘密が、美しさだけを追求して生きるという道を、美堂橋さんに敷いてしまったのかもしれません。

その秘密が明らかになります。

「美」の本質についての一般的な解釈と、亡き叔父さんが残した言葉と、美堂橋さんの頑なな心、その辺を着目して読むことをお勧めします。

事件は骨董店らしく絵画の捜索です。

百合が自ら事件に首を突っ込みますが、百合の「特殊技能」が意外な形で役立ちます。

今回も切ない「愛」がテーマのミステリーです。

本当に愛した人の残した秘密って、たとえその愛した人が亡くなってしまったとしても、隠しておきたいと思ってしまうものなのかもしれませんね。

「愛」はそもそも形のないものです。
だから相手が亡くなってしまったとしても、「愛」は存在し続けるものなのかもしれません。



美堂橋さんの優雅な日々 恋のオワリと罪のハジマリ

問屋さんが「問屋」になってしまった経緯が明らかになります。
美堂橋家の人間関係も見えてきます。

「恋」も不思議ですが、「愛」はもっと奇妙なものですよね。

人それぞれの「愛」が存在していて、それぞれがそれぞれの思いで愛するものと接する。
愛するがゆえに言葉にすることができず、自分は愛されているだろうかと苦悩するものなのかもしれません。

自分が思う「愛」と、相手から向けられた「愛」の意味が違っていると気づいた時、どう行動することが正解なんでしょうか。

登場人物たちが選んだ道が、やがて悲劇へと繋がっていきます。
そして残された者たちは真理も真実も見えなくなって、心に傷を負うのです。



美堂橋さんの優雅な日々 恋人たちの愛と答え

小説を読んでもドラマを見ても、いつも必ず思うことがありますよね。

どうしてもっと早く伝えなかったの!って。

読んでいる側のジレンマです。
なかなか登場人物たちが本音を言わないので、誤解が生じてハラハラします。

もっと早く分かっていれば、幸せになれたのかもしれないのにねって。

どんなに思っていても言葉に出さなければ決して伝わることがない「思い」も存在します。
何でも察することなんて不可能です。

このシリーズ最終話は、登場人物たちが、それぞれ愛する相手を慮って、本音を口にせず、問題に蓋をして先送りしたことから、解決までに時間がかかってしまうお話です。

確かに、口には出さなくてもいつかは皆が分かってくれると信じて、余計なことは口に出さないように気を付けて生きている口なんですけどね、私も。

副題のとおり、「愛」についての決着が付きます。