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『契約結婚はじめました。椿屋敷の偽夫婦』白川紺子(著)の感想をお伝えします!パート①

物語の背景

本作は、題名のとおり、契約結婚をしたある男女のお話です。
夫婦が暮らす屋敷は、見事な椿が所狭しと、庭に並んでいます。
そして作中でも、さまざまな椿が登場し、椿にまつわるちょっとした騒動が話のエッセンスになっています。

多くの動植物が眠りにつく冬。
人間にとっても寒く辛い季節です。
そんな季節に合っても力強く開花する椿は、辛抱強く、控えめで、奥ゆかしさを感じる花を咲かせます。

あまり注目されることもなく、いつの間にか季節が終わっている。
そしてまた、次の季節までひっそりと佇んでいる。
そんな印象を受ける植物です。

「控えめな愛」「謙虚な美徳」といった花言葉があるようです。

本作の主人公:柊一は、和服の似合う男性で、まだ割と若いんですが、すでに人生を達観しているような雰囲気を持っています。
椿屋敷の主でもあり、椿博士と言っても過言ではないでしょう。

その柊一の奥さんになる香澄は、ごくごく普通の女性のように見えます。
つつましやかで、のんびりマイペースな感じの女性です。

まさに椿の花言葉にぴったりと合う二人が、契約結婚をすることで、互いに助け合い、愛し合い、成長していく物語なのでしょう。

契約結婚はじめました。椿屋敷の偽夫婦

椿屋敷に住む偽夫婦:柊一と香澄は、どちらも生みの親がいないせいか、どことなく影があります。

似たような境遇で育ち、偶然出会った二人が、契約結婚をすることで、互いに助け合い成長していく物語です。

二人の馴れ初めとか、契約結婚に至った経緯とか、理由とか、そういったものは巻を重ねるごとに、徐々に明らかになっていくものと思っていましたが、実は、1冊目で、大体のことが語られてしまいます。

細かいことなんかは、また別の機会に出てくるのかもしれませんが、概ね、二人が契約に至ったそれぞれの理由は、明らかとなります。

それに加えて、偽装結婚なのに、徐々に惹かれあっているということも、本人たちは気づいていませんが、読者と二人を見守る椿屋敷は気づくことになります。

素朴でマイペースな二人を優しく見守っていきたいと思いました。

白川先生の作品といえば、やはり「兄」が1つのテーマになるのではないかなと思うんですが、、本作では、柊一が兄で弟がいます。
香澄にも兄がいます。

どちらの兄弟も少々やっかいな感じがします。

そもそも、柊一も香澄も、養ってもらった家族から、ものすごく愛されていて過保護にされているんです。
だから、兄弟や家族からの邪魔が時折入ってきます。
ですが妨害工作の結果、偽夫婦の絆がより強まるという結果を生んだので、これはこれで良かったのだとも思います。

今後二人は、本当の恋に落ちて、それを自覚していくのでしょうけど、相手のことを慮ったり、片思いだと思い込み過ぎたりすることで、一緒にいても一人のような状況が続くのかもしれません。

または、相手に好意があることを隠さないと、今の穏やかな関係が壊れると思って、不安になり気持ちをひた隠しにする可能性もあります。

偽装結婚してしまったがために、逆に、先へ進むことができず、同じ場所で堂々巡りになってしまわないかと心配です。

しばらくはハラハラしながら読んでいくことになりそうな予感がします。

そして柊一の弟:檀と近所に住んでいる絢という女性との関係が、恋愛に発展するのかどうかも注目していきたいところです。

契約結婚はじめました。2 椿屋敷の偽夫婦

とうとう柊一の母が登場しました。
柊一の弟:檀よりもずっと手ごわい相手です。

表立って何かをするわけではないのですが、それが帰って恐ろしい感じです。
香澄の育ての母よりも、厄介な人です。
気を付けようとしても、相手は勝手に唐突に現れるわけです。
気の付けようもないし、事前に何かを備えておくこともできませんし、逃げることもできません。

そしてなぜか香澄一人の時に現れたりするんです。
柊一の家族も、香澄の家族も、なかなかに癖のある人たちなので、やっかいな存在です。

本巻では他にも、とある女性の横恋慕が入ったり、相変わらず諦めない香澄の兄が再三登場したりと、二人の仲を引き裂こうとする面々が現れます。

でも、二人は相変わらずマイペースで、仲良しです。
たまに可愛い喧嘩もするところがまた、初々しくて、本当の新婚さんにしか見えません。

本人たちは認めないでしょうけど、これはもう、噓から出た実というやつでしょう。

感情を表に出さず、モノにも人にも執着しない柊一が、生まれて初めて、自ら手に入れたいと欲したモノは、香澄ただ一人だったのだと思います。

柊一はもう香澄を手放せなくなっているはずです。
互いが生きていくのに、欠かせない、互いの人生の一部となりつつある二人の関係が、最終的に落ち着く場所が、最終的な結論が、椿屋敷でともに暮らすという結果でありますようにと、願うばかりです。

ただただ相手の笑顔を見ていたい。
願わくば、笑顔のままで居てほしい。
ついでにその笑顔は自分だけに向けてほしい。
内心ではそんな風に思っているはずです。

特に柊一は、香澄を笑顔にさせるための努力を始めたように見えました。

さて、最後は檀と絢のお話です。
檀は自分で自分の気持ちに嘘をついていますが、だんだんそれにも気づいてきたように見えました。
でももうしばらくは、気づかないフリをするのかもしれません。
檀はまだまだ純真無垢な少年のようです。
いつかは大人の男性になれるんでしょうか。
このまま誰かの弟で終わってしまうんでしょうか。
とにかく檀の成長も楽しみにしたいところです。