kei-bookcolorの文庫日和

文庫の良さを一緒に味わいましょう!

異人館画廊シリーズ①②『盗まれた絵と謎を読む少女』『贋作師とまぼろしの絵』谷瑞恵(著)の感想をお伝えします!

盗まれた絵と謎を読む少女

「図像学」
聞いたことがあるような、ないような?

図像学という響きに誘惑され、つい手に取ってしまいましたが、作品を実際に読んでみると、想像以上の面白さで、すっかり魅了されてしまいました。

特に、一癖も二癖もある個性的な登場人物たちは、世の読書家を、存分に楽しませてくれます。

私は年中、活字中毒に陥っている状態なので、常に文庫を携帯しています。
どんなジャンルの本も幅広く読んでいるつもりですが、やはりどうしても一番好きなジャンルの本が圧倒的に多くなるのも事実です。

全体の7割くらいは、推理小説が占めています。

そんな小説の中で時たま~に読む恋愛小説において、これまた時たま~に、強烈に心に残ってしまうお話に出会うことがあります。

心が強烈な熱情に犯されると、しばらくの間、その作品に共鳴し、心に深く残って私を支配してしまうことがあるんです。

この極度のインパクトや感動を打ち消す方法はありません。
というか自ら打ち消すすべはないんです。

ではどうするのかというと、
ショック療法に近いのかもしれませんが、、
本から生まれた感動を打ち消すことができるのは、やはり本でしかないということです。
つまり別の本でさらに大きなショックを自分の心に植え付けるわけです。

このようにしてオタクという存在が生まれていくのかもしれません。

さらに高みに近づけるかもしれない、
もっともっとと、
追い求めてしまうものなんですよね。

本作のキャストたちも同様かと思われます。

甘く危険な図像に魅了され、さらにもっと危険な図像を求める心が、人生をも支配してしまう。
図像という芸術の虜であり、囚われの身でもある。
図像に犯されてしまった者を救う方法は、もしくは打ち消すことができるのは、さらに強い図像でしかないのかもしれません。

見たことがないのでわからないのですが、、

さて主人公の千景と透磨ですが、読んでいる我々からすれば、どこをどう見たって相思相愛の二人です。
しかし本人たちは、気づかない振り、もしくは忘れた振りをして、下手な言い訳を自分自身にしたりもして、どうやっても認めようとはしません。

そんな歯がゆさがたまらなく私の心をくすぐります。

二人はどこか似ているし、淡々と冷めた目で世間を見渡し、どこか寂し気です。
影があるといった表現がお似合いです。

気分的に盛り上がる瞬間は、来ないようにも思われます。
二人の温度は同化するかのようです。

ですが、何故かジンワリ私の心に浸透していく穏やかな魅力があり、どこからだったのかはわかりませんが、気が付いた時にはすっかり魅了されていました。

具体的にここがいい、という明確な何かはないんです。
でも何故かいいという感じです。
何かがしっくりくる小説です。

いつか二人が結ばれたらいいなとも思います。
誰とも結ばれない方が幸せな感じもするので、少し複雑な気分ではあるんですがね。

読み終わってから、表紙を改めてみてみると、千景と透磨の関係性を物語っているように感じました。

日常に芸術があふれ、芸術に囲まれている。

敬遠し反目していても、どこか求めあう。
向き合うことはできないが、互いを遠ざけることもできない。
同じ方向を目指しているが言葉でそれを語ることができない。
そんなイメージです。

穏やかな午後のティータイム、黙して語らず、語らないことでしか一緒にいるすべがない、そんな切なさを感じました。

贋作師とまぼろしの絵

千景は危うい感じです。
ちょっと目を離すと、すぐ危険に巻き込まれる。
トラブルを引き寄せるタイプのように見えます。

千景自身も怖いもの知らずな面を持っているようにも思います。

幼いころ普通の人が味わえない恐怖に直面し、帰還した経験があるせいなのかもしれません。
危険なことに自ら首を突っ込んでいるという自覚はそこそこあるようですが、絵画のこととなると周りが見えなくなるタイプなのかもしれません。

千景と透磨の関係ですが、あいかわらず平行線です。
ですが、互いにまだまだ子供なのだなと思ってしまいました。

好きな子にちょっかい出しては、意地悪をする。
それは小学生に見られる行いです。

他の人にはそれなりにやさしく接することができるのに、二人になるとすぐにいがみ合って喧嘩になる。
じゃあ顔を合わせなければいいじゃないかとも思うけど、会わずにもいられない。
そんな感じです。

互いが互いに気になって気になって仕方がない。
でも互いの距離感がわからない。
近づきたいのか距離を保ちたいのかわからない。
そんなもどかしい二人です。

この世で理解し合える人なんて他に存在しないのにねって、読んでいる私はこちら側で思っています。

芸術に関わる人間は、皆、どこかしら人間離れしているものなのでしょうか。

背表紙に書いてあるんですけど、透磨の元カノが登場しました。
透磨も読んでいる私も、元カノなんてどうってことないってわかっています。

でも千景は違いますよね。
焼餅ともちょっと違う、複雑な感情を見せる千景が、ちょっと可哀そうでした。

透磨も少しはわかってくれてもいいのにねっと思ってしまいました。

人の感情とは不思議なものです。
元カノはとても人間らしい人だったんです。
だから透磨とはうまくいかなかったんじゃないかなと思いますが。

今回透磨は、子供の頃からずっと同じことをしている自分に、やっと気づきました。
これでもうちょっとは千景と向き合ってくれるのかなと、、今後に期待してみましょう。

表紙は、素敵にドレスアップした千景と、大人な透磨です。
無視したいけど無視できない二人という感じがします。
美男美女なんで、様になりますよね。
ホントは腕とか組んでくれたら嬉しいんですが、まだまだ無理そうな二人です。

作品の背景

本作では、「図像」が施された絵画を見た人は皆、精神がおかしくなり、行動もおかしくなり、自殺してしまう人もいる。
そんな風に物語が描かれています。

「図像学」というものを知らなかったので、ものすごく恐ろしい絵画が世の中には存在するのだなと思ってしまいました。
(おそらく、現実には、人を追い詰めるほどの絵画は、ほとんど存在しないのかもしれません。)

とにかく、本作では、「図像」を施された絵画を世に出してはいけない。
絵画自体は、歴史と文化の遺産であり、貴重な芸術作品のため、処分することはできない。
しかし、絶対に人の目にさらしてはいけない。

そういった事情から、「キューブ」というサークルが、「図像」を施された絵画を収集し、然るべき処置をする。
そのためには、手段を選ばない。

「キューブ」の個性豊かなメンバーが奮闘する物語です。

そしてその「キューブ」のリーダーが、ヒロインの此花千景という18歳の美しい天才少女ということになります。

名画を追う中で、事件が起こったり、事件に巻き込まれることもあります。

物語全体から発する独特の雰囲気が、常に、読み手をハラハラさせ、背後に恐怖が忍び寄っているような感覚を味わえる作品です。

もちろん千景と、千景の幼馴染である西之宮透磨との淡い恋も見どころになっています。
二人の関係が1歩1歩進展することも、最終的に解かなければならない大きな謎への重大なピースとなっています。

複雑な謎と、複雑な人間関係をベースに、事件を解決していく千景の魅力を味わってみてください。