作品紹介
本作の主人公は、上野署組織犯罪対策課の刑事：八神瑛子です。
世間一般や警察組織はもちろんのこと、風俗やアウトローな世界の住人すらも認める美貌を持ち合わせています。
ですが、その美しさからは全く想像することができないほどの大胆で過激な捜査を行い、次々と犯人を検挙していきます。
自分の身に迫る危険を顧みず、手段を選ぶこともなく、独自の捜査で事件を追うクールな女刑事です。
自分の命を削っても真相を究明しようとする。
傷つきながらも、貪欲なまでに真実を追うその姿が、時に痛々しく、時にすがすがしく、時にせつなく感じられます。
『アウトバーン』の裏表紙に「ジェットコースター警察小説シリーズ誕生！」と書かれていました。
確かに、事件に首を突っ込み始めてから、犯人の特定に至るまでが、ものすごく早いと思いました。
表社会の犯罪と、裏社会の犯罪を同時に解決に導く。
時には警察組織を欺き、裏社会をも操る手腕には、毎回、度肝を抜かれます。
作品の背景
瑛子の視点から、瑛子を語ることがない物語のように思います。
瑛子以外のその周りにいる男どもの感情や思惑が、透けて見えるうまい書き方をされています。
瑛子はもともとは、普通の警察官でした。
３年前、
記者だった夫を亡くし、同時に、自分のお腹の中にいた赤ちゃんを流産してしまいます。
夫の死を自殺と断定した警察組織は、もはや瑛子の味方ではありません。
瑛子の生きる糧は、夫の死の真相を明らかにすることでした。
そのために、金で同僚の警察官たちを飼い、ヤクザやマフィアと手を結び、じっくり時間をかけ、双方から真相に繋がる情報を得ていきます。
警察内には、瑛子に飼われ骨抜きになっている警察官と、邪魔をしようとする勢力が存在し、そのどちらをもうまく利用する形で、瑛子は自分の道を突き進みます。
そのため、一見、非合法の捜査を繰り広げているように見える瑛子ですが、何が正しいのかは、よくわかっているのだとも思います。
正義を貫きながら、悪徳警官を続けている。
悪に身を置くことで、犯罪者の気持ちを理解している可能性もあるように思います。
夫の死の真相を見つけるためには、自分が悪に手を染める以外に方法がない。
正攻法ではどうにもならない。
そんな瑛子のもどかしさが、自然と読み手に伝わってきます。
焦らず長い年月をかけて、一歩一歩、真実の扉を開く努力をする。
息苦しい想いの中、生き続けなければならない瑛子にとって、真実を追うことだけが生きがいとなってしまった。
哀しく、孤独なヒロインです。
ですが、読んでいてそんなに悪徳な感じはしません。
案外優しいですし、まさに女神にも見える瞬間もあります。
生きているのが苦痛であると同時に、生きていることを申し訳ないと思っているせいか、自分の体がどうにかなってしまうことには頓着していないようなんです。
だから、読者としては心配で仕方ありません。
夫の事件が解決しても幸せになることはなさそうです。
どんな感じで彼女の物語が終わりを迎えるのか、最後まで目の離せない展開が続きます。
瑛子の魅力
瑛子の周りには、瑛子を愛する少数精鋭の仲間たちが取り囲んでいます。
瑛子とアウトローな世界の住人達との、時折感じられる友情がとても素敵です。
まずは、劉英麗（リウインリー）という中国人で30代後半の美女です。
夜はマフィアの女ボスですが、昼間は語学学校の校長を務めています。
瑛子のことをものすごく気に入っていて、毎回のように、警察をやめて自分のもとで働くようにと勧誘しています。
瑛子の情報屋の筆頭でもあります。
瑛子に文句を言いながらも、瑛子を助け、支えようとしているように見えます。
互いに、深い部分で信頼し合っているようです。
次は、甲斐道明という印旛会系千波組の幹部です。
ヤクザというより、ビジネスマンにしか見えない風貌です。
瑛子と甲斐の間には、男女の色恋沙汰は存在しませんが、あってもおかしくないくらいの距離感です。
互いに、ある意味においては、惚れ合っているようにも感じます。
甲斐は、表向きは千波組の幹部として有利にことを運ぶため、瑛子の情報屋になったように見せていますが、その実、瑛子の望みを果たせてやりたいとも思っているようで、率先して協力しているようにも感じます。
次は一般人なんですが、元レスラーの落合里美です。
喧嘩沙汰で警察に捕まった里美を瑛子が助けます。
里美の豪快な戦いぶりに惚れ込んだ瑛子は、喧嘩沙汰をもみ消しました。
以来、瑛子に恩義を感じ、瑛子のボディガードになります。
ちょっと面白いなと思うのが、署長の富永昌弘です。
彼は瑛子の犯罪を暴くために、瑛子を追いながら、瑛子に心を奪われていきます。
追わずにいられない。
木乃伊取りが木乃伊になるケースです。
ですが、本人はそれになかなか気づきません。
アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子
瑛子の勤める上野署管内で、世間を震撼させる女子大生刺殺事件が発生しました。
被害者の女性が、千波組の組長の娘だったことから、瑛子は、甲斐を通じて千波組に近づいていき、真相を追い始めます。
続いて、別の管内で、中国人女性が刺殺される事件が起こります。
こちらは、たまたま劉英麗に頼まれた仕事をこなすうちに、自然と事件の中へと入り込んでいきます。
捜査本部が、明後日の方向に舵をきって捜査をしている中、瑛子がものすごいスピードで、真相へと向かっていきます。
本巻は、亡くなった夫の足跡が見えてきたあたりで幕を閉じました。
アウトクラッシュ 組織犯罪対策課 八神瑛子Ⅱ
本巻では、スケールがグーンと広がって、グローバルな展開が待っていました。
国際的な暗殺者との対決でした。
でもこの暗殺者、読者側としてはあまり憎めない青年でした。
結局はこの青年も犯罪被害者なんです。
どちらが勝ってもせつない最後になるのだろうと思いました。
そして前巻よりは、瑛子の本音が聞こえたように思います。
犯罪に手を染めることになったとしても、夫への気持ちは変わらない。
彼女の中の正義は確かにある。
そんな気持ちが伝わってきたように思います。
今回の事件を経て、瑛子は夫の死の真相へと、大きな1歩を踏み出したように思いました。
アウトサイダー 組織犯罪対策課 八神瑛子Ⅲ
瑛子は、いよいよ真相に近づきます。
彼女にとっては長い道のりでした。
悪徳警官になって、資金を募り、資金をばら撒き、土台を地道に作って、ようやくです。
瑛子ほどの女性を惚れさせる夫：雅也とは、どれだけいい男だったんでしょうか。
今の瑛子の姿を見たらどう思うのでしょうか。
なんとなく喜ばない気がします。
でも瑛子は一人で戦い続けた。
本人は一人のつもりだったのでしょうけど、戦いの中で仲間も自然にできていました。
協力者もいた。
ちなみに友達もいたんです。
そして瑛子を追っている男たちはみな、瑛子に夢中になってしまうようです。
敵からも愛されてしまう瑛子の魅力を存分に感じました。
瑛子が幸せになる日は永遠に来ないような気もしますが。
今の瑛子が瑛子の人生になってしまいましたから。
本人も元の自分が想像できなくなってしまっていることでしょう。
それでも刑事で居続けるわけです。
瑛子を必要としている世界に、彼女は身を投じているからです。
テレビドラマ
実は、全然知らなかったのですが、2014年8月にフジテレビの「土曜プレミアム」でドラマ化されたそうです。
主役の瑛子は、米倉涼子さんが演じたようです。
署長の富永は、渡部篤郎さん。
元レスラーの里美は、シズちゃん（山崎静代：南海キャンディーズ）。
千波組の幹部：甲斐道明は、斎藤工さん。
中国人マフィア：劉英麗は、岩下志麻さん。
キャストが豪華です。
見れなかったことが残念でなりません。
