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異人館画廊シリーズ③④『幻想庭園と罠のある風景』『当世風婚活のすすめ』谷瑞恵(著)の感想をお伝えします!

幻想庭園と罠のある風景

巻が進むごとに、危険度が増していく感じがします。
今回は離島に行くお話です。
読み始めてすぐに、危険な香りがプンプンしました。

離島と言えばサスペンスの定番スポットですからね。
しかし透磨が反対したって、逆に逆らう千景です。
透磨もそろそろ学習したらいいのにねって思ってしまいます。

透磨と喧嘩するたんびに、千景は一人で危険に首を突っ込むわけですから。

籠の中に閉じ込めておきたい気持ちと、自由に翼を広げてどこまでも羽ばたいていって欲しいという気持ちが入り混じって、読んている私も、おそらく透磨も、複雑な心境になります。

透磨は冷たくそっけない感じの人物です。
でもそんな透磨を何故か幼い千景は好きになった。
透磨は好かれていた理由がわからないんです。

だから昔のまま、そのままの自分でいたらまた昔と同じように千景に好きになってもらえるのでは?と思っているのかもしれません。

しかし大きくなった千景は、子供の頃と全く同じというわけでもなかった。
そして、透磨の表面の冷たさに惑わされて、何故か本質を見に行くことを恐れているようにも感じます。

自分の心にバリアを張って、自分の心を犯すことのできる人間には予防線を張っているような気がするんです。
だから、自分の心に入り込まないであろう人間には優しく接してますよね。

本質的には自分は透磨が好きだということがわかっているからこそ、透磨に近づかないようにしているんだと思います。

今回は名前だけでしたが、千景の父親が大きく関わってきました。
登場しないで千景に罠を仕掛けていったわけなんです。
ある意味すごい知能犯です。

父親からすれば千景は悪魔的な存在なんでしょうけど、私からすれば千景より父親のほうが極悪非道な人物のようにも感じます。

父と娘の1回戦の始まりです。
傷つきながらも力強く立ち上がっていく千景がカッコいいです。

表紙は明るく優雅な庭園ですが、中に住まう人々は、心に闇を抱えています。
その闇を隠すかのような美しい背景です。

すさんだ家族が住まう美しい屋敷、そこに乗り込む無防備な千景。
透磨の気苦労が絶えない様子がうかがえます。

当世風婚活のすすめ

なるほど!
巻が進むごとに、千景の過去が迫ってくる感じがします。

今回は透磨すら知らなかった千景の過去が暴かれます。
図像が千景を選んだのか、千景が図像を選んだのか、判断が難しいところです。

学者として学問を追求した結果として、図像というものを理解しているのではなく、本質的に根本時に図像が何かを体得している、そんな感じがひしひしと伝わってきました。

そして、透磨の心境が徐々に変化しているようにも思いました。
もちろん透磨にとって良い方向にです。

相変わらず、進もうとしては立ち止まり、1歩下がりを繰り返しているような感じもしますが、それでも自分の本心に気づき始めているような気がしますし、前進自体はそれなりにしているのだと思います。

千景も透磨のそばにいることが自然なんだと、何となく思い始めているような感じです。

普通の人で言うところの「幸せ」とは縁遠い二人です。
それでも二人が手に手を取って歩むことのできる道が、どこかにあると信じたいものです。

二人がラブラブする姿は想像できないんですけど、ちょっと見てみたい気もします。

読んでいると永遠に無理そうな気もしてくるんですよね。
だから、読んでいて切なくなるのでしょうか。。

愛のカタチは人それぞれ、カップルの数だけあるのかもしれませんから。
望みはまだまだあると信じます。

そういえば彰が面白いことを言いました。
透磨の本心についてです。
確かにそうなのかもしれないと納得してしまいました。

嫌い嫌いも好きのうちですね、ホントに。

「汝の欲することをなせ」が、本巻のテーマと言ってもいいでしょう。
これを曲解した者たちが犯罪を犯してしまうわけですが、、
本当の意味での「欲すること」とはどういうことなのか?
難しいテーマだと思いました。

千景自身もまだ顕在化していない意識なのではないでしょうか。
単純なようで奥深い言葉です。
自分の人生に置き換えてみても、自分が真に欲しているものが何なのか、わかっているようでわかっていないような感じがします。

読者としては二人が欲するものが、同じものであったらいいのになと思ってしまいます。

夜の街に溶け込む異様な集団がバックに描かれていて、ちょっと不気味です。
冠婚葬祭が同時に行われたような気分です。

もしくは当事者二人以外は、望んでいない、祝福されない婚姻の儀式のようにも見えます。
幸せを求めての結婚にはとても見えませんが、集団が訴えているのは、葬送というより婚姻なんでしょう。
でも不思議と幻想的な感じもしますし、心が惹かれるのも事実です。

登場人物紹介

●此花千景
子供の頃、誘拐されるという不遇な経験をした美しい少女です。
ショックでそれ以前の記憶がなくなってしまいました。
その後、両親は離婚し、どちらも千景を引き取らなかったため、祖父母が親代わりになります。
祖父母に引き取られた後、祖父の機転でイギリスへ留学することになりました。
イギリスで図像学を学び、専門家になります。
祖父がなくなったことで日本に戻って来るのですが、それが本物語の始まりになります。

●西之宮透磨
父が亡くなると同時に後を継ぎ、「西之宮画廊」のオーナーになります。
千景の祖父に気に入られ、助けられたため、千景の祖父に恩義を感じています。
そして千景のことも、美術品を愛でるように、大切に思っています。

●此花統治郎
亡くなった千景の祖父。
「キューブ」の生みの親で、有名な画家でもある。

●此花鈴子
千景の祖母。
「異人館画廊 Cube」という画廊兼ティーサロンを営む。

●江東瑠衣
劇団の女優。
「異人館画廊 Cube」でアルバイトをしている。

●槌島彰
占い師。(もともとは探偵だった)
ファッションセンスが奇抜。

●カゲロウ
ネットで情報を集めるキューブのブレーン的存在。
姿は見せない。

●阿刀京一
千景のまたいとこで、透磨の同級生。
現在は警察官。

●キューブ(サークル)
鈴子が経営する「異人館画廊 Cube」は営業が終わると、サークル「キューブ」の活動拠点となる。
キューブは、貴重で珍しい美術品を収集するために活動しているサークル。
メンバーは、千景、透磨、鈴子、瑠衣、彰、カゲロウの6人。
図像の影響を受けない千景を中心に、活動していく。