解説も見逃せない
以前にも書いたんですが、文庫の魅力は、巻末に、作者のあとがきや、作者以外の方の解説があることなんです。
本作『思い出のとき修理します』は、物語自体が美しく、とても魅力的ですが、巻末に解説が書いてありまして、そちらもなかなか、面白いことが書かれていると思います。
ああ、この気持ちを何って表現したらいいんだろう?
こういうの何ていうんだっけ?
読者は読みながら、心の中に沸き起こってくる感情を言葉に置き換えようとします。
ですが、もう少しで出てきそうなんだけど、出てこない。
けっこう、歯痒いことが多いんです。
そんな微妙な表現とか、言い回しなんかを、うまく言い表すことができている解説者の方がいたりすると、ものすごく盛り上がります!
そうそう。わかるわかる。
と、物語を読み終わった直後の興奮も相まって、解説者の方にどっぷり共感してしまいます。
解説は長いものが多いので、読むのが苦しいと思う方も多いでしょう。
ですが、本作の解説は、読んでおいた方がいいように思います。
ぜひ、最後にもうひと踏ん張り、頑張ってみてください。
思い出のとき修理します1
時間は誰にでも等しく授けられた財産です。
時間と生きることは同義だとも思います。
つまり時ことが人生そのものを指しているのであり、時が人を司り、人を形成していく、そうとも言えるのではないでしょうか。
だからどんな時でも、時を無駄遣いしてはいけません。
今を生きるこの瞬間も、いつかは思い出に変わるんです。
どんな時代を生きることになっても、今生きているこの時を大切に過ごさないといけないんだなと思います。
本作のヒロイン明里は、その名のとおり、明かり灯る場所を探し求めているような女性です。
幼心に傷つけられた思い出を大切に胸に閉まって生きてきました。
傷つけられた思い出ですが、とても大切な思い出だし、今の明里を形成していることは確かです。
その思い出が無ければ、全く違った人生になっていたのかもしれません。
素直で純粋で可愛らしい思い出を大切に生きてきました。
明里の相手役である秀司は、幼かったころの明里との思い出を宝物にして、これまで生きていました。
明里の辛い思い出は秀司にとっては楽しい思い出だったんです。
そして明里との出会いが今の秀司を司ってもいます。
同じく明里と出会わなければ、秀司も全く違った人生を送っていたのかもしれません。
そんな二人が、大人になって、それぞれ色んな人生経験を重ね、再会を果たします。
そして秀司もとても悲しい思い出を背負って生きていました。
秀司の場合は大人になってから追った傷です。
子供の頃に追う傷よりももっと深く、人生にのしかかってくる傷だったのではないでしょうか。
とにかく、二人の時が重なって、一緒に動き始めたことから、二人がそれぞれ抱えていた、思い出の時が修復されていくんです。
時を修復するのは秀司だけの仕事ではありません。
明里という存在があって初めて、修復作業が始まって行くんです。
さらに面白いのは太一という不思議な青年です。
なかなかにいい味だしてます。
彼の存在が絡まった糸をさらに絡ませるし、紐解くきっかけをくれることもある。
神社の神様を匂わせる太一の存在は物語の大きなエッセンスになっています。
今後も3人の動きに目が離せません。
中村航さんの解説について:
過去の評価は、現在の自分によって決まるという奥深い解説がありました。
確かにそうですよね。
過去をバネに生きてきたと自負してはいますが、実際は過去のせいにして生きていたのかもしれません。
何となく自分の過去を振り返るきっかけをもらったようにも思いました。
思い出のとき修理します2 明日を動かす歯車
1話目に、とても素敵な時計が出てきました。
アンティークで、夢のある年代物の時計です。
持ち主が亡くなっても、時を刻み続け、別の持ち主の元へいく時計です。
そして時計が持ち主を選ぶんですね。
作中で、登場人物たちが不思議な世界へと導びかれて行くんです。
それはたぶん新月の影響なんですが。
周りの喧騒すら浄化して、静かで神秘的な世界へといざなわれていきます。
読んでいるこちら側も、無の世界に入ってしまったような静けさに覆われました。
そんな彼らを正しい方向に導き、関係を修復し、元の世界に引き戻したのが、そのアンティークの時計なんです。
まるで夢をみているかのようなお話でした。
2話目は、とある若い夫婦のお話です。
やはり恋の思い出には、心が躍るので、読んでいてハラハラしながらも楽しくなってきます。
太一の絶妙ないたずらが、思い出を修復するきっかけとなりました。
3話では、明里にいいよる男が出現しました。
秀司は落ち着いてましたが、明里のほうがハラハラしている感じでした。
ちょっとした邪魔があったほうが、恋は燃え上がりますし、たぶんこれで良かったんでしょう。
太一の現れ方がまた絶妙で。
混乱させようとしているのか、収束させようとしているのか、判断に迷います。
最後の話は、老夫婦の物語でした。
何年たっても男女の仲というものは複雑なのかもしれません。
だからこそ、一緒にいたいと思うものなのかもしれませんが。
まだまだよちよち歩きの明里と秀司の恋愛ですが、大切に1歩1歩進んでいって欲しいなと思います。
ところで、太一のはっきりとした的確な物言いには驚かされます。
言い方はちょっとひどいんですけどね。
でも的を射たセリフが、グサッと突き刺さるので、言われた方は一瞬言葉を失ったりしています。
最終的には太一に感謝する日が来そうだなと思いました。
吉川トリコさんの解説について:
谷瑞恵先生と言えば、『伯爵と妖精』シリーズ全33巻です。
『伯爵と妖精』シリーズの「ニコ」という猫と、太一が似ているという意見が書かれていました。
そうなんです。
私もそう思っていました!
明里にとって太一は、リディアにとってのニコのような存在です。
頼りにならないけど、見守ってくれている感じがよく似ています。
明里と秀司の邪魔にならない存在であり、むしろいないとしっくりこない存在なのが太一です。
太一が神様の眷属だったらいいなって本当に思います。