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『朱華姫の御召人』 感想と解説

『後宮の烏』の元になったお話

今回紹介させていただく『朱華姫の御召人』は、2014/5/10に上巻、2014/9/10に下巻が、コバルト文庫から発売されました。

本作は間違いなく、『後宮の烏』につながっていくお話です。
時代は違えど、舞台は一緒のようです。

『後宮の烏』がアニメ化になった影響でしょうか?
2022/9/16に上巻、2022/10/20に下巻が、リメイクされました。

『後宮の烏』を読みたい!と考えている方はぜひ、こちらの作品も読まれることをお勧めします!

「朱華姫」と「御召人」

昔、「朱華姫(あけひめ)」と呼ばれる少女がいました。

ある時、姫が楽を奏していると、はるか東の海のはてにある
<楽(ささら)の宮>
から、ひと柱の神様がやってきます。

姫は楽器を奏でたり、舞を踊っては神様を楽しませました。

姫の舞楽を気に入った神様は、姫を自分の妻にして、<楽の宮>へ連れ帰ろうとします。困った姫は、「自分にはすでに夫がいる」と言って、求婚を断ります。

姫の言葉に納得できない神様は、「夫を見せろ」という要求をしてきました。
そこで、姫は時の帝に助けを求めます。

帝は皇太子をつかわし、夫のふりをさせました。
ところが、ふりだということを神様に見抜かれてしまいます。

次に帝は、第二皇子をつかわします。
今度は見抜かれないように、姫と第二皇子が仲の良い夫婦を演じたところ、神様は夫婦であると信じ、姫を<楽の宮>へ連れ帰るのをあきらめました。

やがて、朱華姫の舞楽を気に入っている神様は、この地に留まり、護り神となったのです。

以来、四六時中、朱華姫のそばにいて、姫の世話をするのが第二皇子の役目となり、それを「御召人(おめしびと)」と呼ぶようになりました。


白川紺子先生の作品

別のお話を紹介した際にも書いたんですが、
白川先生と言えば、ほとんどのヒロインには「兄」がいます。
兄が妹を守るのが定番とも言えます。

ですが本作『朱華姫の御召人』のヒロイン:蛍は、一人っ子なので、兄が登場しません。

代わりに、相手役の男性:柊には兄がいます。
いつもの兄の役回りとは、少々違っていますが、兄はやっぱり兄なんです。

ぜひ、兄の動向に気を付けながら読んでみてください。


朱華姫の御召人 かくて愛しき、ニセモノ巫女 上

物語はいわばシンデレラストーリーです。

伯父さんにイジメられて下働き扱いされているヒロイン:蛍が、正真正銘の皇子様:柊に出会います。
出会ったことで、存在が明らかとなり宮中に行くことになるわけです。

そして、皇子様が下僕のように、至れり尽くせりで、可愛がってくれちゃうわけです。

なんと甘い話なのでしょう。
柊は、蛍にベタ惚れで、手鳥足取り育ててくれて、命がけで守ってもくれます。

後宮に近い場所で暮らしていますが、横恋慕してくる女性はまずいないようです。
だから安心して読んでいられます。

自分を色眼鏡で見たりしない蛍に、柊はぞっこんになって行きます。
読んでいるこちらが少し恥ずかしくもなるほどに、べたべたしている二人です。

朱華姫は神に愛されてしまう存在です。
愛されてしまったら神の国に連れ去られるかもしれません。
だから、神に奪われないように演技ではない本当の愛を神に見せつけないといけないんだと思います。

蛍が朱華姫という神職でいるかぎり、結婚はできませんし、身は清らかなままでいなければいけません。
二人が幸せになる未来が来ることを祈りながら下巻に進みたいと思います。



朱華姫の御召人 かくて恋しき、花咲ける巫女 下

2冊で終わることはわかっていましたが、いろんな問題が山積みなっていましたので、本当に、この巻で終わるのか?と心配しながら読みました。

穏やかなのは、初めのうちだけでした。
どんどん、二人の関係を脅かすような方向へと進んでいくんです。
落ちるところまで落ちて、絶体絶命のピンチを迎えます。
巻き返せるのかとても心配でした。

蛍も柊も、蛍を助けるのは柊なんだと思っていたのでしょうね。
ですが実際は、柊を助けるのが蛍だったんです。
蛍も危険ではありましたが、なんとか乗り切ります。
そして最大のピンチに陥ってしまった柊のもとへ向かうんです。

互いが互いを必要として、呼び合い惹かれあう姿が、とても愛おしく切なくもあります。

このままだと引き離されてしまう、一緒に生きる道が閉ざされてしまうと、何度もハラハラしました。

そして、柊には兄がいました。
白川作品に登場する兄は、毎度毎度、損する役回りなんですが、肝心なところでやっぱり兄らしい働きを見せます。

兄はなんだかんだ言っても弟と弟の想い人が、可愛いのだと思います。

意地悪をしたりちょっかいを出したりと、邪魔をしているようでいて、本当は二人を見守っているかのようにも見えます。

兄にも幸せになって欲しいと願うばかりです。

神々の因縁、蛍の秘密、柊の身に宿るモノ、蛍の母と朱華姫。
色んな謎がぎっしりとつまっていました。
それらはきっちりしっかり、回収されていきます。

そして二人の明るい未来の兆しを感じながら幕を閉じます。



白川紺子先生のあとがき

もともとコバルト文庫で発売されていた当時は、白川先生のあとがきが記載されていました。
その内容を少し、書いておきます。

幸の薄い少女が、クールな王子様に愛される「甘やかされラブ」を書きたかったのだそうです。
そして孤独なヒーローも大好きなんだそうです。

物語の衣装は、白川先生が好きな正倉院宝物や、飛鳥から天平文化をイメージしたとのことです。
歴史上の人物で一番好きなのが大津皇子なので、飛鳥・奈良時代の風俗をモデルにしたのだそうです。

さらに万葉集、古事記、日本書紀の要素も混じっているとのことでした。

登場人物

蛍:16歳。朱華姫に選ばれる。先帝の娘。

柊:第二皇子。蛍の「御召人」になる。優秀な武人で、琵琶の名手。

萩:皇太子。柊の異母兄。

巴:蛍の乳母子。

絲:右大臣の娘。桃花司の頭。

帝:歴代屈指の賢帝。

青藍:帝の巫術師。

燈:蛍の母。

芙蓉:帝の后。萩の母。

千依神:護り神。本当の名は悠宜。清き神。

香久夜:穢れ神。

棗:先代の朱華姫。

安斗:柊の馬。

澪:桃花司の者。

神祇伯:稲日一族。

右大臣:絲の父。氷見一族。