今後の展開予測
これまで読んできた1巻から4巻までは、大きな枠でいうと、後宮の寵妃:梅捷妤率いる梅氏一派、対、皇后+太子一派の闘い、というテーマの元に物語が進んでいたように思います。
皇后+太子一派は、内廷外廷ともに力も発言権も弱く、絶対権力者の梅氏にはとても勝てそうにない状況でした。
何とか堪えて持ちこたえている、綱渡りの状態が続いていました。
仕掛けてくるのは、毎回、梅氏側で、皇后+太子一派は受身の体制です。
降りかかった火の粉を振り払っていくことしかできない、圧倒的に不利な戦いを強いられていました。
その皇后+太子一派の筆頭である延明は、皇后+太子一派である前に、正しき官吏として、後宮で起こる様々な事件を解決に導いてきました。
そしてその延明の相棒とも言える存在が、検屍女官:桃花です。
桃花は、派閥というものには関係なく、死者の味方として検屍を行います。
冤罪によって宦官にされてしまった延明は、無冤術(常に死者の声を聞き、冤罪を防ぐための術)を行う桃花に強く惹かれ、同時に桃花の才能を生かそうとします。
出会った当初は、桃花を、皇后+太子一派に役立ちそうな女官としてしか見ていなかった延明ですが、すぐにそんな邪な感情は消え、桃花を尊敬し、敬意を払い、傾倒していったように思われます。
主人公は検屍女官の桃花とされていますが、読者としての感覚で言うと、延明目線で語られている場面のほうが多いようにも感じます。
だんだん心を通わせ、一緒にいることが当たり前のようになってきた延明と桃花は、4巻でより確実な硬い絆を結びました。
それは友情という息を出ない関係ではありますが、互いがかけがえのないものであるという認識を持ち、一緒に歩む決意をしたということに違いありません。
桃花は、延明の側にいると決めたのです。
最大驚異の梅氏は自滅し、派閥は壊滅されたも同然の状態になりました。
ですが、面倒でやっかいな敵が、1人だけ残ってしまったという事実が、5巻以降に新たな危機的展開を生んでいくようにも感じられます。
これまで、延明がひた隠しにしてきた桃花の存在が、徐々に知られるようになってきてしまったのも、不安材料の一つです。
そして桃花の生家と、延明には、浅からぬ因縁があり、それが明らかとなります。
5巻以降の展開予測としては、延明と桃花が、本人たちのあずかり知らぬところで起こってしまった因縁を乗り越えて、共に歩んでいけるのかが、まずテーマとなりそうな予感があります。
延明が桃花を、敵の脅威から守って、検屍を続けさせることができるのかもポイントになります。
もちろんこれまでのように、敵が仕掛けてくる罠に、2人でどう立ち向かうのかも見どころの一つです。
そして、なぜか宦官たちに愛されてしまう桃花と、延明の恋心が、どんな関係に変化していくのかが、最大の楽しみとなります。
検屍と文化を学べる作品
本作を書店で初めて見つけた頃は、単純に表紙の絵に惹かれて、手に取ってしまった感じで、何となく読んでいる感覚だったのですが、今回、思い切って1巻から続けて再読して見ました。
意外に奥が深いと言いますか、細かい複線が、張り巡らされている感じで、ものすごく緻密な作品なんだなということに、改めて気づかされました。
1巻1巻を、発売するまで待ってから読んでいると、数カ月の期間が発生するため、どうしても細かい設定を忘れてしまいがちです。
連続して読むと、それらの設定も記憶が新しいうちに拾い読みすることができるので、よろしければ皆さんにも、再読してみることをお勧めします。
特に桃花が解説する検屍技術や鑑定技術やその結果は、積み重ねになっています。
延明が1つ1つ学び、別の検屍や事件に、学びをちゃんと生かしているのです。
巻をまたぐこともありますが、ちゃんと辻褄は合っています。
また、舞台となっている帝国の官吏制度や、階級設定、一般常識から徳や孝などの概念的なものまで、幅広く詳細に設定されていて、色んな巻で少しづつ小出しに出てくるのです。
例えば1巻の冒頭で亡くなった妃嬪:李美人ですが、父親が司隷(しれい)という役職だと言うことが、さり気なく書かれています。
司隷は、諸侯や官吏で非法を犯した者を捕縛する官職だということが、同時に書かれていました。
5巻では、冤罪になって自裁した延明の祖父が、司隷だったということが分かり、具体的な司隷の権限は、高官すらも独断にて捕縛検挙できるものだったということが分かってきます。
こんな風に、全く関係のない事柄と事柄が、細かい設定で結びついている。
巻がまたいでいるため、気づき辛く、全部を拾うのはかなり難しいことではありますが、やってみる価値はあると思います。
最近は、中国風の後宮が舞台になっている作品が、世の中に数多く流布していますが、実はよく意味の分からない言葉や階級などが、ときどき出てきます。
それらは読み流しながら読むのが普通かと思われます。
ですが、本作を読むと、他の作品で疑問に思っていた言葉や事柄の意味にも気づける場合があるように思うのです。
つまり、他の後宮もの作品を解読するためのバイブルとしても、活躍できる作品なのです。
後宮の検屍女官5
梅捷妤が亡くなったので、桃花と才里は、いよいよ織室を出ることになりました。
皇后に引き取られた蒼皇子の侍女に復帰します。
これで桃花は、延明の下で、検屍女官として存分に力を発揮できるようになるわけです。
ついでに、延明との逢引も、やりたい放題となる状況が出来上がりました。
いちお、二人の関係は秘密ですが、もう見張りも必要ないですし、コソコソしながら堂々と延明は逢いに来ます。
検屍とか事件の有る無しに関係なく、用もないのに、ただ逢いに来てみたりもします。
ただ食事をして、ただ一緒に過ごしたいと思っていることを、延明は隠さずはっきりと、桃花に意思表示しています。
桃花も迷惑がることはなくなりました。
延明が来ることを当然のように受け入れ始めています。
本当は、延明に逢いたいと思っているのではないか?とも思われる発言を、不意にしてくるので、延明は内心、ドキドキしているのではないかとも思います。
延明は、、
友人の域をでないことは、十分理解しています。
でもやっぱりどこか、夫婦のような関係が築けていると信じたいのかもしれません。
そして桃花も、まんざらでもなさそうに見えます。
本巻は、最大の危機を脱したということもあり、延明も桃花も、そして読者も、一息つける感じで、穏やかに読むことができました。
できましたが、最後には、嫌な胸騒ぎを残す終わり方を迎えます。
身体の危機というより、心の持ち方の危機が訪れるような、予告をして本巻は幕を閉じます。