kei-bookcolorの文庫日和

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『後宮の検屍女官3』小野はるか(著)のサブテーマは「母と娘」だったのかなと思います。

後宮という場所がもたらす人間関係

本巻のテーマは、母と娘の愛情の薄い関係性であったのかなと思います。
そしてこのテーマは次の巻にも影響を及ぼします。

本作の主人公:桃花も生家の両親との関係が、良好ではありませんでしたから、後宮だけに限った話ではないのですが、後宮にいるとまた、通常とは違った関係性になるのかもしれません。

誰もかれもが、まずは自分の身を案じてしまうのでしょう。
次に血が繋がっている者のことを考える。
この場合、必ずしも案じるとは限りません。
そして打算的な感情が混ざることも確かです。
心のどこかで多少の愛情はあるのかもしれませんが、、、自分の身を護るために、血の繋がりがどう役立つのかを考え、それを利用しようということが優先されてしまうようにも思います。

自分で自分の人生を決められるわけではなく、恋をして結婚するわけでもない時代ですから仕方のないことなのかもしれません。

また、高貴になればなるほど、生んだ子を自分で育てるわけでもないでしょうから、1枚くらいは薄い壁のある関係が、最初から築かれてしまうのも、致し方ないのかもしれません。

だから不思議に思うんですよね。
貴族の男性は、自分の娘を帝の妻にして、男子を産ませ、姻戚に侍ろうとしますよね?
娘が自分の言うことを聞くというのは、絶対前提になっているようですし、これから生まれてくる孫まで、自分と強固な関係を築けると、自分の望みを無条件に聞くと信じていることになるから、婚姻関係を結ぶわけです。

どうしてそんなこと信じられるんだろうって、不思議なんですよね。
後宮に上がれば、娘に会う回数は、年に数回とか、あるいは全く会えない状況になるわけですし、孫に至っては帝の子ですから、そうそう簡単には会えないと思うんです。

同じ父帝から生まれた皇子たちが、帝位を争って戦うのに、もしくは、父帝と皇子が争うというパターンもあるのに、母親の外戚とは良好な関係を築けるっていうのが、とにかく不思議です。

同じ一族とか、血の繋がりが大事なのであれば、父や父が同じ兄弟のほうが、もっと血が濃い関係のはずです。

広い後宮では、母親が違えば、子供同士が顔を合わせるのは、何かの催しの際でしかなく、言葉を交わすこともないのかもしれません。
父帝とすら会話をするのが、生涯に数回の子供もいるでしょう。

でも外戚と直接会って話をすることは、もっと、回数が少ないようにも思うんですよね。

連絡は文のやり取りになりますし、手紙を書いたくらいで、相手の真意を受け取って仲良くできるなんて、思えないですよね。

現代を生きる私からすると、不可解な文化です。

例えば、海外で暮らす日本人が、同じく日本人っていうだけの関係の全く知らない日本人と、何かの時に協力し合うみたいな、そういう気分と同じだったのかなとか思います。
この同じ日本人でしょ?っていう関係は、教育で培われたものではないですし、親から教わったわけでもないですし、というか誰からも命令されてない考え方だと思うのですが、どの国の人間も、こういう感覚ってありますよね。

なぜこういう考え方をするのか、不明なんだけど、考え方をしてしまう的な感覚と言いますか、、、

1人1人、全く違う日本人なのに、絶対味方になってくれるという感覚を根底に持っている。
逆に日本人が困っていたら、助けるのが当たり前的な感覚も持っている。
海外では特にそれを感じるように思います。

だいぶ話がそれ出しましたが、、
子供はみな母親のお腹から生まれてきますので、母親の出身が子供の出身地ということになるのかなとも思うのです。

日本人が日本に縛られるのと同様に、母親の出身一族が、子供の心を無意識に縛っている。
その感覚を先に生まれてきている親たちが利用する。
そういう文化だったのではないかと、個人的には思うのです。

後宮の検屍女官3

前巻で起こった火災については、調査は続いていて、まだまだ解決できず、どこかでくすぶっているようです。
結局のところ、本巻でも、大した進展はなかったとも言えるでしょう。

単体で起こっているかのように見える事件が続きますが、たぶんどこかしらで繋がっているような感じがします。
ですが、見えそうで見えないまま、次の巻へ持ち越されてしまったようです。

なんと、本巻のラストに衝撃的な事件が発生した旨の連絡が、読者に対してなされます。
早く次を読まないと! 
ハラハラしながら、次巻へと進むことになります。

最初は、妃と長年仕えてきた乳母との関係についてでした。

乳母のほうは本当の娘のように愛していましたが、妃からするとたぶん、使用人の一人にすぎなかったのでしょう。

自分のために命をかけてくれた人をないがしろにしたんです。
これで、妃の未来に暗雲が立ち込めたように思えました。
無くしたものの大きさは、無くなってみないと気づけない。
そして気づいた時にはもう手遅れなのです。

次は、血のつながった母娘なのに、母から生まれたことを疎まれた娘の可哀そうなお話でした。
辛い経験を何年もの間、一人で耐えてきたんです。
最後には、悲しい人生の結末が待っていました。
皇帝の娘なのに、、こんなにもないがしろにされてしまうものなのでしょうか。
あんまりな人生でした。

さて、最後は、よくわからない状況で不意に浮上した第3の死体の結末です。
こちらは、あっけないものでしたが、この事件こそが、何かしらの見えない糸に繋がっているのではないのかなと思いました。

最後に、桃花と延明ですが、見た感じは、特に変わらない関係が続いています。
ですが、会う回数が心もち増えたような気がします。

あとは、桃花が「迷惑ですわ」と延明に言わなくなってきたような気がします。
2巻の第二章くらいまでは、ほぼ絶対のように、迷惑そうな顔で延明に言っていました。

そして、ほんの少し、延明が焼きもちを焼いたような場面がありました。
桃花が自分を人として扱い、男として扱い、慈愛を持って接してくれたように、他の宦官にも接するのだという危険性を、延明は考えるべきですね。

次巻は、イチャイチャどころではなくなりそうなので、本巻は、嵐の前の静けさだったということになります。
次巻では、もしかしたら、これまでに起こった事件のピースがハマり始めることになるのではないかと思います。
とても楽しみです。